2024-11-26(令和6年) 松尾芳郎
図1:(Aurora Flight Sciences) DARPA計画の飛行艇「リバテイ・リフター」は、地面効果を利用して低高度で洋上を飛行、大量の貨物を輸送する。目的地に着水し胴体後部のランプを開き車両、人員を揚陸する。
図2:(Aurora Flight Sciences)主翼は水平で、前縁下面にターボプロップ・エンジン8基を装備、翼端に小型フロートが付く。胴体後部には揚陸用ランプ、尾翼は「π」字型。
ボーイングの子会社オーロラ・フライト・サイエンス(Aurora Flight Sciences)社は、DARPA(国防高等研究計画局)が計画する試験機、革新型飛行艇「リバテイ・リフター (Liberty Lifter)」プログラムに選定され、設計、製作、飛行を行う。オーロラはフェイズ1として、高翼、単胴で翼幅65 m、貨物22.5 tonを輸送する実証機を製作する。これで飛行艇による高速大量輸送が可能であることを実証する。
(Aurora Flight Sciences, a Boeing Company, is selected the design phase for DARPA’s Liberty Lifter X-plane program, to design, build, and fly that demonstrates revolutionary heavy air lift capability from the sea. For phase 1, Aurora’s concept is high-wing, monohull seaplane capable to carry 22.5 ton of cargo with 65 m wing-span. The seaplane will show benefits of combining transport at the scale of a ship with the speed of aircraft.)
リバテイ・リフターはDARPAが計画する革新航空機「Xプレーン」の一つで、洋上輸送の高速化、洋上の遭難救助活動、災害地の救援活動、などの能力向上を目指している。
「フェイズ1」としてオーロラ社が進めている実証機は、翼幅が65 m (213 ft)、貨物搭載量が22.5 ton (50,000 lbs) の機体。巡航高度は3,000 m (10,000 ft) だが、飛行距離を伸ばす場合は「地面効果(ground effect)」を使って海面上スレスレ(高度30 m以下)を飛ぶ。実証機の飛行実験をもとに、将来はC-17グローブマスターIII輸送機と同じ80 tonを輸送できる大型飛行艇の開発に繋げたいとしている。(C-17はM1A1戦車なら1両、M2A2歩兵戦闘車なら3両、ハンビー高機動車なら10両を輸送できる)
オーロラ社は、リバテイ・リフターの開発に際し、国防関連で遭遇する困難な問題の解決を主な業務とする世界的企業「レイドス・ホールデイングス(Leidos Holdings)」の子会社「ギブス&コックス( G&C=Gibbs & Cox)」の協力を得て設計を進めている。「ギブス&コックス/G&C」社は、船舶設計で92年の経歴があり、米国最大の海軍用艦艇の構造設計を主任務とする技術企業で、同社設計を部分的にあるいは全面的に採用した艦艇はこれまでに7,000隻に達する。
「オーロラ」と「G&C」のチームが目指す飛行艇は、「 シーステート(Sea State/ 風浪階級) 4/ やや波がある/風速11~16 kts /波高1-2 m」、で離着水が可能で、「シーステート5/波がやや高い /風速17~21kts /波高2-3 m」で「地面効果」飛行が可能な機体となる。そして造船業界で使われている低価格な構造技術を活用して製作する。
オーロラ・フライト・サイエンスの社長兼CEOのマイク・カイモナ(Mike Caimona)氏は次のように話している;―
「リバテイ・リフターは、現在の航空機による輸送と船舶による輸送の間を埋める輸送手段で、実用化すれば海軍の戦術が一段と向上する。我々はDARPA、ボーイング、G & C、その他の協力企業と共にこの革新的航空機の仕事に取組むことを誇りに思っている。」
図3:(Aurora Flight Sciences/DARPA) DARPAが発表したリバテイ・リフターの“地面効果飛行”の想像図。前図と異なり、胴体下面が尖り飛行艇らしくなり、翼端フロートに下に小型翼が付き、左右最も外側のエンジンの取付位置が僅か上になっている。これらでシーステート5の条件下での“地面効果飛行”時の安定性の向上を図っている。
図4:(Aurora Flight Sciences)目標沿岸に着水、後部ランプから海兵隊の水陸両用戦闘車を発進させる。
「フェイズ1B」として、次の項目の試験が実施中または完了して、初期設計審査 (preliminary design review)の合格に向け作業が行われている。
- 水槽で「シーステート4」の環境を再現し、ここで機体の水力学的特性と水上滑走特性の試験を実施した。これは、ニュージャーシー州の私立大学「ステイーブン工科大学(Stevens Institute of Technology)」とバージニア州の州立大学「バージニア工科大学(Virginia Tech.)」が開発した試験装置を使って行われた。
- プロペラの性能特性試験が完了した。これは2025年初めに行う風洞試験に使う風洞模型用のプロペラ準備のための試験である。
- 「地面効果」で低空飛行するパイロットの操縦傾向を調査するため、コクピット・シミュレーターの製造を始めた。
「フェイズ2」は、「最終設計審査 (CDR=Critical Design Review)」までの開発作業期間である。
「フェイズ3」は2026年に始まるリバテイーリフター実証機の製造期間で、飛行試験は2028年を目標にしている。
オーロラ・フライト・サイエンス(Aurora Flight Sciences)
ボーイングの子会社で、革新的技術を使って将来型航空機の形状、自動飛行システム、斬新な推進装置、そして革命的生産手法を探求する企業である。ボーイングが持つスケールと強さを背景に、顧客にさらなる安全性と品質の“航空”を提供する。これまで35年オーロラは、多くの実験機(Experimental Aircraft)、小型無人機(Small UAS)、自動操縦システム(Autonomy)の各分野で、斬新な概念を追求し革新航空機を実現してきた。
オーロラは1989年に創立、2017年10月にボーイングに買収された。本社はバージニア州マナサス(Manassas, Virginia)に、エアロスペース&オートノミー・センターと研究所(Aerospace & Autonomy Center and Lab)はマサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge, Massachusetts)に、先端製造部門(Advanced Manufacturing)はミシシッピ州コロンバス(Columbus, Mississippi)とウエストバージニア州ブリッジポート(Bridgeport, West Virginia)にある。
終わりに
リバテイーリフターの開発はファイズ1Bの段階にあるが、公表されていない部分が多くある。エンジはターボプロップ8基だが型式、出力などは不明、機体形状も単胴、高翼、双垂直尾翼、π型水平尾翼、は公表されているがその他は不明。「最終設計審査員(CDR)」段階になる「フェイズ2」までには明らかにされるだろう。2028年予定の飛行試験を待ちたい。
―以上―
本稿作成の参考にした記事は次の通り。
- Aurora Flight Sciences September 24, 2024 “Liberty Lifter: Transporting Fast Logistic at Sea”
- Fabross for エンジニア 2024-11-5 “水上飛行艇「Liberty Lifter」の新しいコンセプト動画を公開“
- DARPA “Liberty Lifter” by Dr. Christopher Kent
- MetService “Sea State and Swell”