2024-12-16(令和6年) 松尾芳郎
図1:(Maeve Aerospace)メイブ・エアロスペース製M 80リージョナル旅客機は80席級、2032年就航を目指す。
図2:(Maeve Aerospace)MHI RJが参画することで「M 80の設計、製造工程、販売活動が加速される」、メイブ代表CTOマーチン・ナッセラー氏談。
三菱重工の子会社MHI RJは、オランダ・ドイツのベンチャー企業メイブ・エアロスペースが開発するリージョナル旅客機M 80プログラムに協力する。MHI RJはエンジニアリング、販売活動、等の分野でM 80計画を支援する。M 80は、P&WCが開発するハイブリッド電動ターボプロップを装備する。就航は2032年の予定。
(MHI RJ and Maeve Aerospace are teaming up for the development of Maeve’s M-80 regional aircraft. In a joint statement, the companies said the partnership will cover engineering and advisory services by MHI RJ. The M-80 will be hybrid-electric regional aircraft powered by PW&C’s newly developed hybrid- electric propulsion system. M 80 could enter service in 2032.)
メイブによると、M 80は航続距離800 n.m. (1,480 km)、巡航高度は36,000 ft ( 11,000 m)、巡航速度マッハ0.725、最大離陸重量8,500 kg。最大客席数84席となる。現在のリージョナル機対比で燃費は40 %低減、排気CO2エミッションも40 %低減する。これは、P&WCが開発するハイブリッド電動ターボプロップ・エンジンによるところが大きい。電動モーターは主に上昇時に使われる。
M 80は、2028年初頭に「初期設計審査 (preliminary design review)」を受け、直ちに製造に入り2030年に初飛行、そして2032年に就航を開始する予定。
エンジンは、P&WCのリージョナル機用ターボプロップPW100シリーズの最新型PW127XTターボプロップをハイブリッド・電動化したモデルになる。
PW100シリーズは、リージョナル機用ターボプロップとしてこれまで40年間使用され、2億2千万時間の使用実績がある。PW127XTは2021年に発表された最新型で、旧タイプに比べ燃費で3 %優れ、整備費は20 %改善されている。
P&WCは2024年11月6日に、PW127XTの水素燃料化試験を開始すると発表した。これは、カナダ政府主導の「持続可能な航空技術政策(INSAT= Initiative for Sustainable Aviation Technology)」の中一つである[HyADES (Hydrogen Advanced Design Engine Study)]計画に参加する試験である。試験で、カナダの燃料電池開発企業[Next Hydrogen Solutions Inc]の協力を得て、将来の高効率、低価格のハイブリッド・電動エンジンの開発を進める。
最初に取組むのは、燃料ノズルと燃焼室の水素燃料化試験、次に研究機関[Derivation Research Laboratory]と協力、高温部の材料を先進耐熱材料で製造し試験する。
図3:(Maeve Aerospace)メイブM-80リージョナル機、全長28.2 m、翼幅29.9 m、高さ8 m、P&WC製ハイブリッド・ターボプロップ・エンジン2基を装備する。
図4:(Maeve Aerospace)メイブM-80の客室は、最大幅2.7 m、床上最大高さ1.95 m、全席エコノミーの場合29インチ間隔で84席仕様となる。
図5:(Pratt & Whitney Canada)P&WC社が2021年11月に発表した最新型リージョナル機用PW127XT系列ターボプロップ。ATR 42/72型機に採用。在来型同クラスのエンジンに比べ燃費、整備費が著しく改善されている。
PW100系列の基本構成は;3軸ターボプロップ、長さ約2m、直径約67 cm、重さ約480kg。コンプレッサーは2軸式の遠心式2段。燃焼機は逆流式。タービンは低圧、高圧それぞれ1段ずつの合計2段。出力はPW127で2,750 hp、プロペラ回転数は1,200 rpm。
図6:(Pratt & Whitney Canada) P&WCではPW127XTの燃料ノズルと燃焼室に水素燃料を使って試験を始めた。燃焼室(青色)は逆流式なので燃料ノズル部はタービンに近い位置にある
メイブの創立者でCTO(技術担当主席/Chief Technical Officer)のマーチン・ナッセラー氏は「今回のMHI RJとの提携は世界中に広がるリージョナル機市場にM 80を販売するのに最適な方法である。この提携は、本業界での中心となる出来事で、我々がその一端を担うことを大変誇りに思う」と述べた。
MHI RJの社長兼CEOのイスマイル・モカべル(Ismail Mokabel)氏は「今回の新しい連合は、我々の経験と技量を将来のリージョナル機業界に投入する上で、またと無い素晴らしい機会となる。我社はメイブと同じく、航空業界の革新を追求する企業で、エンジニアリングと助言活動で正確な専門知見を持っている。今後どのような展開が待っているか、期待したい」と語っている。
メイブの専務(Senior VP)で戦略、ビジネス開発、広報担当のロス・ミッチェル(Ross Mitchell)氏は「メイブM 80は将来のリージョナル機市場でのゲーム・チェンジャーになることは間違いない。この技術にMHI RJが着目、協力してくれることで、メイブの存在と機会が一層高まるだろう」と話している。
メイブ・エアロスペース(Maeve Aerospace)
エネルギー効率が高く現在のインフラで使える革新的航空機を開発するヨーロッパのベンチャー企業で、2040年までにCO2排気ガスの半減を目指している。オランダのデルフト(Delft, Netherlands)とドイツのミュンヘン(Munich, Germany)に本社を置く、2021年に創立した。創立者でCTO(Chief Technical Officer)のマーチン・ナッセラー(Martin Nusseler)氏は、エアバスでA50XWB大型旅客機およびA400M大型軍用輸送機の開発で主席技術者として活躍し、数十億ドルの大型プロジェクトを管理推進した経歴を持つ。CEOで共同創立者のジャン・ウイレム・ハイネン(Jan Willem Heinen)は15年間e-mobility開発の経験を有する。CFOのアーウイン・コーンラード(Erwin Koenraads)は投資会社、不動産関係で経験を持つ。
MHI RJ アビエーション・グループ(MHI RJ Aviation Group)
MHI RJアビエーション・グループは世界のリージョナル航空業界を支援する企業で、運航・整備・エンジニアリング、さらに機体の改修、技術マニュアルの刊行から機体の販売業務まで、広範囲のサポートをするのが業務。三菱重工業の100%子会社でカナダ・モントリオール(Montreal, Quebec, Canada)に本社とサポート部門を置く。傘下にカナダ(MHI RJ Aviation ULC)、米国(MHI RJ Aviation Inc.)、ドイツ(MHI RJ Aviation GmbH)の子会社がある。
リージョナル航空機業界でこれまで30年間、最も成功したのがカナダのボンバルデイアが製造してきたCRJ系列機である。2020年6月1日に三菱重工がCRJ系列機全体のプログラム(型式証明、製造、アフターサービス等)を取得、これを担当するMHI RJが発足した。
CRJ系列機は、ボンバルデイア(Bombardier)が製造、カナデア・リージョナル・ジェット(Canadair Regional Jet)として50席級のCRJ550が1991年に初飛行、1992年にカナダ航空当局から型式証明を取得した。その後70席のCRJ700が1997年に、86席のCRJ900が2000年に、100席のCRJ1000が2007年にそれぞれ就航した。エンジンはいずれもGE製CF34系列ターボファン2基。CRJ系列機は1,200機以上が運航しているが、うち900機以上は米国で使われている。
MHI RJはこのCRJ系列機にZeroAviaが開発中の水素燃料使用の燃料電池エンジンを搭載することを検討している。詳しくはTokyoExpress 2023-08-15「ゼロアビアとMHI RJ、リージョナル機CRJの水素電動化を進める」を参照されたい。アメリカン航空はCRJ700多数を保有するが、そのエンジン換装のためセロアビア製ZA2000を100台購入する覚書(MOU)を交付した(2024-7-2)。
終わりに
三菱重工(MHI)は2008年3月、国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の開発を決定、「三菱航空機」を設立、開発を進めてきたが型式証明取得が出来ず2023年2月7日に撤退を発表した。一方三菱はMRJ撤退と前後して、カナダ、ボンバルでイアからCRJ事業を買収、2020年6月1日に担当の子会社MHI RJをモントリオール近郊のミラベルに設立している。
このような経緯でMHI RJは三菱の民間航空機部門として存在している。CRJ事業の成功とメイブM 80プログラムの発展を期待したい。
―以上―
本稿作成に際し参照した主な記事は次の通り。
- Aviation Week com. November 14, 2024 “MHIRJ, Maeve Aerospace to partner on M 80 Development” by Jens Flottau
- Maeve News November 14, 2024 “MHIRJ teams up with Maeve on groundbreaking sustainability projects
- Maeve M80 “Next generation highly efficient and sustainable regional aircraft”
- Flight Global 15, December 2024 “Maeve recruits MHIRJ for M80 development work” by Dominic Perry
- MHIRJ Wingspan November 15, 2024 “MHIRJ Teams up with MAEVE”
- Maeve News July 24, 2024 “Maeve and RTX’s Pratt & Whitney Canada to collaborate in hybrid-electric propulsion technologies for the m80 Aircraft”
- Flight Global 24 July 2024 “Dutch start-up Maeve and P&WC to collaborate in hybrid powertrain for M(0” by Pilar Wolfsteller
- Harukanaru-oozora.conohawing.com 2024-11-18 “三菱の新たなる挑戦/遥かなる大空“ by otooto Kikkawa
- Pratt & Whitney Canada News November 15, 2021 “P&WC announces new PW127XT engine series; Setting a new benchmark for Regional Turboprop Engines”
- Pratt & Whitney Canada News November 6, 2024 “RTX’S Pratt & Whitney to demonstrate hydrogen-fueled turboprop technology under Canadian INSAT program”