令和7年9月、我国周辺での中露軍活動と我国/同盟諸国の対応 (上)


―「中露軍の動向」―

2025年10月6日(令和7年) 松尾芳郎

令和7年9月、我が国および台湾周辺における中露軍の活動は高い水準のまま。これに対し我国および同盟諸国は、警戒を緩めることなく抑止力強化に努めている。

(China’s PLA and Russian Forces military drill around Japan and Taiwan in October ware same level as previous Month . Japan and allies are putting defensive move against the two nations. Following are the details of major issues.) 

防衛省および各幕僚監部、米第7艦隊などが発表した8月における我国周辺の中露両軍の軍事活動および我国と同盟諸国軍の対応は以下の通り。発表日に発表機関の記載がないのは全て「統合幕僚監部」発表の案件である。

中露軍の動向

  • 9月1日発表 ロシア艦2隻が津軽海峡を通過日本海へ、および中国艦2隻が宮古海峡を通過東シナ海へ

8月29日早朝、ロシア海軍ウダロイI級駆逐艦(564)およびアルタイ改級補給艦が津軽海峡を通過日本海に入った。また8月31日朝、中国海軍ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(134)およびフチ級補給艦(886)が宮古海峡を通過東シナ海へ入った。

図1:(統合幕僚監部)ウダロイI級駆逐艦/1155型大型対潜艦は満載排水量8.500 ton、全長163.5 m、最大速力30 kts、対空ミサイル8連装VLS発射装置を8基、対潜ミサイル4連装発射機2基などを装備、艦尾にはKa-27対潜ヘリ2機を搭載。同型は13隻が就役中。写真(564)は「アドミラル・トリプツ」。

図2:(統合幕僚監部)

図3:(統合幕僚監部)写真は「紹興 (134)」2022年就役。ルーヤンIII級(旅洋III)は「052D」型駆逐艦、あるいは「昆明」級駆逐艦と呼ばれる最新型イージス艦。満載排水量7,500 ton、長さ161 m、速力30 kts、ミサイル発射用VLS 32セルを2基。2014年から就役が始まりバッチ1からバッチ4まで合計29隻が配備されている。さらに8隻の建造を予定。

図4:(統合幕僚監部)「903」型補給艦とも呼ぶ。「903」型は満載排水量2,0500 ton、改良型の「903A」型は23,000 ton。長さは178.5 m、速力20 kts。門型ポストが前後に2基ずつあり、前が燃料用、後ろがドライカーゴ用、後部はヘリコプター甲板になっている。写真の「千鳥湖 (886)」は「903」型。「903」型は2隻、「903A」型は7隻が就役中。

  • 9月8日発表 ロシア太平洋艦隊旗艦など2隻が宗谷海峡通過オホーツク海へ

9月6日深夜、ステレグシチー級フリゲート(335)が宗谷海峡を通過。オホーツク海に向かった。また7日昼間には太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦(011)が宗谷海峡を通過オホーツク海に入った。

図5:(統合幕僚監部)ステレグシチー級フリゲートは[20380型]、改良型は[20381型]、沿海用汎用警備艦で2007年から配備が始まった。満載排水量2,200 ton、長さ105 m、速力27 kts、ステルス形状で先進閉囲型マストを装備する。電子装備、武器システムも近代化され、対艦兵器は[3M24ウラン]対艦ミサイル4連装発射筒2基を搭載、艦尾甲板にはKa-27PL哨戒ヘリ1機を搭載する。写真(335)は「グロムキー」2020年12月の就役。太平洋艦隊には5隻を配備中。

図6:(統合幕僚監部)太平洋艦隊旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦「ワリヤーグ(Bapar)/011」は、満載排水量11,500 ton、長さ192 m、最大速力32 kts、両舷にP1000対艦ミサイル/射程1000 km (SSM)連装発射筒を4基ずつ備える。

  • 9月9日発表 ロシア海軍ミサイル哨戒艇2隻が宗谷海峡通過日本海へ

9月8日昼間、宗谷岬を通過日本海に入るタランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇2隻を発見、追尾した。これら2隻は8月12日宗谷岬を東進オホーツク海に入ったものと同じ。

図7:(統合幕僚監部)タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇(978)は、沿岸警備を任務とする500 ton級・長さ56 mの「1241.1型」ミサイル艇。対艦ミサイル「3M80・モスキート」連装発射装置2基を搭載する。また対空ミサイル「9K38イグラ」と「AK-630 M」防空システム2基を搭載する。(937)も同じなので省略。

  • 9月10日発表 中国海軍情報収集艦が大隈海峡通過太平洋へ

9月9日夕刻、中国海軍ドンデイアオ級情報収集艦(798)が大隈海峡を東進、太平洋に向け航行した。

図8:(統合幕僚監部)「東調」級情報収集艦。満載排水量6,000 ton、長さ130 m、速力20 kts、艦尾にヘリコプター発着甲板を備える。中央に大型レーダーがあり1000 km範囲の弾道ミサイルや衛星の追跡が可能。艦橋にある高さ46 mの4角錐マストには、HFからX波帯までの無線通信傍受、レーダー波受信など40種以上の各種アンテナがあり、あらゆる電子信号を傍受できる。「815型」1隻と改良型の「815A型」(6,600 ton) 4隻、「815A-II型」4隻がある。

  • 9月11日発表 中国軍空母「福建」など3隻が尖閣諸島北西の海域を南西に向け航行

9月11日昼間、中国海軍空母「福建」、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦(136)、およびルーヤンII級ミサイル駆逐艦(152)の3隻が尖閣諸島魚釣島の西200 km海域を南に進み台湾海峡を南下した。空母「福建」は海自として初めて確認した。

図9:(統合幕僚監部)空母「福建(18)」、2025年夏に就役したと見られる。満載排水量80,000 ton、長さ317 m、艦載機50〜80機、速力30 kts以上、電磁カタパルト3基を装備する。

図10:(統合幕僚監部)ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦は別名「956」型。ロシア・セベルヤナ造船所で海軍用に15隻建造、その後中国海軍向けに改良型4隻が建造された。中国海軍用は「杭州」、「福州」、「泰州」、「寧波」。満載排水量8,000 ton、速力32 kts、対艦ミサイル[YJ-12A] 4連装発射機2基、対空ミサイル[HHQ-16]、[YU-8]用VLS 32セルを装備する。写真「136」は「杭州」で1999年の就役。

図11:(統合幕僚監部)ルーヤン(旅洋)II級ミサイル駆逐艦は別名「052C」型・蘭州型駆逐艦で、HHQ-9艦隊防空システムを搭載した僚艦防空駆逐艦。満載排水量7,000 ton、全長155,5 m、30 mm SIWS 2基、HHQ-9A 対空ミサイルVLS・6セル型8基を備える。同型艦は6隻ある。写真は「済南(152)」2014年の就役。

  • 9月13日発表 中国無人機、与那国島―台湾の海峡を南下・往復

9月13日昼間、中国無人機1機が東シナ海から与那国島と台湾の間を通過して台湾東の太平洋に進出、反転して往路と同じ経路で東シナ海に戻った。

  • 9月15日発表 中国軍機Y-9および無人機

9月15日昼間、中国無人機1機が東シナ海から飛来、与那国島―台湾の間を通過、台湾東の太平洋城に進出、反転して往路と同じ経路で東シナ海に戻った。また同時刻にY-9哨戒機1機が東シナ海から宮古海峡を通過太平洋に進出、旋回飛行後、往路と同じ経路で東シナ海に戻った。

図12:(統合幕僚監部)9月15日の無人機航跡(左)とY-9哨戒機の航跡(右)。

図13:(統合幕僚監部)

  • 9月16日発表 ロシア海軍情報収集艦、東京都の島嶼の接続水域内を航行東シナ海へ

9月9日午前、ロシア海軍ビシニヤ級情報収集艦(208)が東京都三宅島接続水域内を航行、南に向かい御蔵島と八丈島の間の接続水域を通過した。そして13日から15日にかけて沖縄本島南の接続水域内を航行し東シナ海に向け立ち去った。同艦は8月21に津軽海峡を抜け太平洋に出て北海道襟裳岬南の接続水域内を航行している。

図14:(統合幕僚監部)別名「864型中型偵察艦」、(208)は「クリルイ」。満載排水量3,400 ton、長さ94 m、[9K32]8連装対空ミサイル発射機2基を装備する。

図15:(統合幕僚監部)ビシニヤ級情報収集艦の行動。

  • 9月16日発表 中国海軍艦艇、13日ら16日にかけて頻繁な活動繰り返す

9月13日夕刻、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻(132)および(135が東シナ海から宮古海峡を通過太平洋に向け航行、

14日午後には、ジャンカイII級フリゲート(577)およびフチ級補給艦(890)が宮古海峡を通過太平洋に向け航行。

16日朝には、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(135)が太平洋から宮古海峡を通過、東シナ海に入った。

図16:(統合幕僚監部)ジャンカイ(江凱) II級フリゲート(054型)は、満載排水量4,000 ton、全長134 m、32セルVLSに対空・対潜ミサイルを搭載する。同型は40隻ほどが就役。写真は「黄岡(577)」」2015年1月就役。

  • 9月17日発表 9月16日昼間、ロシア海軍艦艇4隻が宗谷岬を通過、日本海に航行

9月16日昼間、ウダロイI級駆逐艦(548)、ステレグシチー級フリゲート(333)、ロプチャーI級戦車揚陸艦(066)、およびアレクサンドリート級掃海艦(757)の4隻が、オホーツク海から宗谷岬を通り、日本海に入った。

図17:(統合幕僚監部)海岸に戦車、兵員を揚陸する艦で船首と船尾にランプドアがある。満載排水量4,080 ton、450 tonの戦車・車両を搭載できる。28隻が建造されたが現役は12隻、太平洋艦隊には3隻が配備中。写真は「オスラビヤ(066)」で北海道上陸を狙っている。

図18:(統合幕僚監部)本級はグラスファイバー製船体で、自律誘導の水中無人機を使って機雷を破壊する。2016年から就役開始、10隻が完成、4隻が建造中。太平洋艦隊には3隻が配備中。満載排水量890 ton、兵装は対空機関砲AK-306が1基。

  • 9月17日発表 中国海軍艦艇3隻が対馬海峡を通過日本海へ

9月16日夜間、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(123)が対馬海峡を通過、日本海に入った。また17日早朝にはルーヤンIII級ミサイル駆逐艦(124)およびフチ級補給艦(902)が対馬海峡経由日本海に入った。

  • 9月22日発表 中国海軍情報収集艦が宮古海峡を通過太平洋に進出

9月20日午後、ドンデイアオ級情報収集艦(791)が宮古海峡を通過太平洋に進出した。

  • 9月24日発表 中国艦3隻が宗谷海峡通過

9月22日午後、ルーヤンIII級ミサイル駆逐艦2隻(123)と(124)およびフチ級補給艦(902)が、宗谷海峡を通過オホーツク海に入った。

  • 9月24日発表 ロシア情報収集艦、東シナ海から対馬海峡を通過、日本海へ航行

9月23日午前、ビシニヤ級情報収集艦(208)が東シナ海から対馬海峡を通過、日本海に入った。

同艦は、9月9日東京都三宅島、御蔵島、八丈島の接続水域内を航行している。

図19:(統合幕僚監部)ビシニヤ級情報収集艦の9月の航跡、我国近傍で活発な活動を繰り返している。

  • 9月24日発表 ロシア原潜を含む3隻が宗谷岬を通過日本海へ航行

9月24日朝、太平洋艦隊旗艦スラバ級ミサイル巡洋艦(011)、ボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦およびバクラサン級救難曳船の3隻が宗谷岬を通過、日本海に入った。このうちボレイ級原潜は海自が初めて確認したものである。

図20:(統合幕僚監部)ボレイ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦は別名「955計画」戦略任務ミサイル巡洋艦。同型艦は8隻、建造中が2隻ある。太平洋艦隊には5隻を配備中。水中排水量24,000 ton、全長170 m、幅13.5 m、水中速力25 kts、魚雷発射管6門、弾道ミサイル[3M14]ブラバー6基を搭載する。[3M14]は全長12 m、重さ36.8 ton、3段式固体燃料ロケット、核弾頭6発を搭載し数千キロを飛翔する。カムチャツカ半島南部太平洋岸にあるビリュチンスク基地に配備されている。同基地には大型埠頭9本があり、原潜だけでなく多数の艦艇が接岸できる。

図21:(統合幕僚監部)バクラザン救難曳船、艦首にヘリ発着パッドがある。

  • 9月29日発表 中国海軍情報収集艦が対馬海峡を通過、日本海へ航行

9月28日深夜、ドンデイアオ級情報収集艦(796)が対馬海峡を通過日本海に入った。

―以上―