シコルスキーの新型高速ヘリ[S-97 ライダー]、今年末初飛行へ
–高速試作ヘリ[X2]の技術を継承した[S-97ライダー]は、偵察、攻撃、輸送の性能を持ち、将来は[OH-58D]キオワ、[AH-64]アパッチ、[UH-60]ブラックホーク、などの後継機を狙う–
2014-03-13 松尾芳郎
図:(Sikorsky)高速ヘリ技術実証機X2は、普通ヘリの前進速度の倍以上になる250ノット(460km/hr)の高速度飛行を実証。2008年8月に初飛行、シコルスキーではこの技術を発展させたS-97 ライダー(Raider)を開発中である。
歴史的に見て、ヘリコプターとは空中停止(ホバリング)性能と前進速度の妥協の産物だった。これを打ち破ったのがX2の技術である。X2は、ヘリコプターのホバリングの特徴はそのまま残して、前進速度を著しく向上させるのに成功した。
X2の特徴はいくつかあるが、その一つが「エンジン/メインローター/推進用プロペラ」の3つを一体化してコントロールする「フライ・バイ・ワイヤ」システムである。ローターは同軸の二重反転式の揚抗比の高い固定ピッチ型で複合材製、これで機体の揚力と前進飛行を受持つ。機体側にはアクテイブ制震装置を備え、高速飛行のため尾部に取付けた推進用プロペラがエンジン出力の大半を消費する。
一般のヘリでは、飛行速度が上がると前進する側のローターブレードは相対速度が高くなり先端では音速域に達してしまう、また反対側の後退するブレード側はでは失速領域に入いる、このため高速飛行は難しい。これを解決したのが1970年代にシコルスキーが開発したXH-59ヘリの「前進ブレード概念」(ABC=Advancing Blade Concept)である。
「前進ブレード概念」とは、同軸固定ピッチ式二重反転ローターを、ブレード先端で衝撃波が生じないように低速で回転させ、それぞれの“前進”側で揚力を得て、”後退”側では失速しないようにする方式。そしてローターは一般のヘリよりかなり頑丈に作り、お互いが干渉して抵抗を生じないようにする。
XH-59は260ノット(480km/hr)の高速飛行に成功したが、パイロット2名を必要とし、騒音がひどく、振動が激しかった。X2は、水平飛行時の速度は250ノット(460km/hr)だが、アクテイブ製震装置のお陰で振動はSH-60ブラックホーク(時速150ノット)と同じレベルに収まった。
X2実証機の開発には5,000万㌦(50億円)の自己資金を投入したが、その後継機S-97ライダーの開発には2機製作する費用として2億㌦(200億円)を予定している。
X2実証機は重量8,000lbs(3.6㌧)、時速250ノット(460km/hr)の小型だったが、開発中のS-97ライダーは11,400lbs(5.1㌧)と大型にして、時速は230ノット(425km/hr)を目指している。
図:(Sikorsky)S-97ライダーの完成予想図。2014年末に初飛行の予定。偵察・攻撃ヘリを想定し、現在のベルOH-58Dキオワの後継を視野に開発中。乗員2名、兵員6名を収容可能、50口径機銃と短距離ロケット弾7基を搭載する。
図:(Sikorsky)S-97ライダー。最大離陸重量11,000lbs(約5㌧)、全長11m、メインローター直径10m、エンジンはGE製T700-GE-401C、 1,890軸馬力を1基装備する。UH-60の最大離陸重量10.7㌧、メインローター径16.4mに比べかなり小型。特徴は、同軸固定ピッチ二重反転ローター・システム、アクテイブ制震装置、推進用プロペラ、複合材製胴体、などである。
米陸軍は偵察・攻撃ヘリとしてベル OH-58Dキオワを1,000機以上保有しているが、順次退役させ当分更新しない予定。(OH-58Dはわが国でも馴染みのベル 206ヘリの軍用型である)。
シコルスキーでは、S-97ライダーを2機製作中で、OH-58Dキオワの後継もと考えているが、本命はこれをベースにし、さらに大型化してUH-60の代替機を狙っている。
米陸軍がUH-60ブラックホーク(全備重量10.7㌧)の代替として検討中の統合多目的実証ヘリ(JMR=Joint Multi-role)計画では、全備重量30,000lbs (13.5㌧)の大型ヘリとなっている。陸軍では最終的にこれを約3,000機揃えたい意向。シコルスキーでは先ずS-97を作り、これをスケールアップしてJMRを開発する、としている。
UH-60ブラックホークは1974年から作られ、派生型が多くあり、これまでに米国を含み約4,000機が製造された。わが国でも三菱重工でライセンス生産されSH-60Kなどの型が三自衛隊で200機近く使われている。エンジンはGE製T700-IHI-701C 1,800軸馬力(IHIがライセンス生産)2基を搭載。
S-97の試作機は、ウエスト・パームビーチ(West Palm Beach, Fla.)にあるシコルスキー開発センターで製作中である。開発に協力している企業は36社あるが、胴体部分は、その内の一つオーロラ・フライトサイエンス(Aurora Flight Sciences, Bridgeport, W.Va.)で完成、2013年9月末に同開発センターに納入され、組立が始まっている。間もなく尾部が同じオーロラ・フライトサイエンスから納入される予定。
S-97ライダーの完成は2014年9月、初飛行は年末と予定している。
図:(Aurora Flight Sciences)オーロラ・フライトサイエンスのブリッジポート工場で完成したS-97ライダーの胴体。全て炭素繊維複合材で作られ、200ノットの高速飛行で3Gの旋回に耐えられる強度を持つ。オーロラ・フライトサイエンスは、シコルスキーのCH-53K大型掃海ヘリの複合材製メインローター・パイロンの製造を担当した経験を持つ。
–以上−
本稿の作成に参照した記事は次ぎの通り。
Sikorsky “UH-60 Product Innovation”, “X2 Technology Demonstrator”
Aurora Flight Sciences Press Releases, Sept. 26. 2013 ID: APR-S97
Aviation Week Nov. 04, 2013 “Sikorsky Moves X2 Technology Up A Size for JMR” by Graham Warwick
Aviation Week Feb. 24, 2014 page 36 “Proof Test” by Graham Warwick