英海軍の将来を担う次世代空母「クイーン・エリザベス」


2014-07-08 松尾芳郎

(本稿は、2014年7月6日に掲載した『英海軍、次世代空母「クイーン・エリザベスII」と正式命名』の補足と一部訂正のための記事である。)

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図1:(International Business Times)去る7月4日に行われた英国海軍次世代空母の命名式に出席される「エリザベスII世女王陛下」と「フィリップ皇太子殿下」。命名式にはこの他に「デイビット・キャメロン首相」(David Cameron)以下主要閣僚、英国海軍幹部が出席し、空母「HMSクイーン・エリザベス」(満載排水量65,000㌧)の命名を祝った。

(2013年8月6日に海上自衛隊の新型ヘリ空母「いずも」満載排水量26,000㌧が進水したが、進水式に参列したのは麻生副総理と海自幹部。安部総理のもと、政府は我国を普通の国に近づけるべく努力中だが、天皇陛下、皇太子殿下のご臨席のもとで護衛艦の進水式を祝う日が来るのは何時になるか)

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図2:(英国国防省)空母「HMSクイーン・エリザベス」の完成予想図。2016年末に海軍に引渡され、2020年から配備に付く予定。2番艦「HMSプリンス・オブ・ウエルス」は2016年着工、就役は2020年代になる。搭載機F-35B STOVL(短距離離陸・垂直着陸)機の発艦用に“スキージャンプ”甲板を採用する。従って発艦用カタパルトはない。

艦橋は2つあり、前方は「航法ブリッジ(Navigation Bridge)」、後方は「航空管制センター(Flying Control Center=flyco)」、に分かれている。そして艦橋の後にそれぞれ航空機昇降用の大型リフトがあり、それぞれはF-35Bを同時に2機、あるいはCH-47チヌーク・ヘリを1機昇降させることができる。

*STRICTLY EMBARGOED UNTIL 00.01 SATURDAY 22 FEBRUARY 2014*

図3:(BAE Systems) 「クイーン・エリザベス」艦上に「F-35B」STOVL攻撃戦闘機が着艦する様子、コンピュータ・グラフィックスのイメージ。艦首には発艦用の“スキージャンプ”甲板が、また右舷には航法用艦橋と飛行管制センター艦橋が描かれている。

 

英国海軍(Royal Navy)の発表;—

『現在英国中の造船所で建造中の”HMS Queen Elizabeth”と”Prince of Wales” の2隻は将来海軍の旗艦となる。当初はヘリコプター搭載艦として国防軍が保有する全ヘリコプターを使う予定だ。しかし2020年からは、最新鋭のステルス戦闘機F-35Bの導入で強力な打撃力を保有することになろう』

 

英国で作られた最大の軍艦で、固定翼機を運用する次世代空母「HMSクイーン・エリザベス」排水量65,000㌧の命名式が、去る7月4日に行われた。

且つて世界の海に君臨した大海軍の威信を取り戻すべく、2007年7月に62億㌦(6,200億円)の予算で大型空母の建造を決め、BAE Systemsの手で作業が進められてきた。その後の型式変更など出費がかさみ、予算は当初の1.7倍、約100億㌦(1兆円)近くに膨らんだが、漸く全貌を現わし、今回の晴れの命名式に漕ぎ付けた。しかし就役までにはあと4年掛かる模様。

新空母は、当初案の通りロッキード・マーチン製F-35B STOVL(短距離離陸・垂直着陸)型機を搭載、就役後50年間は英海軍の中核として運用される。建造途中で、一旦は米海軍と同じ空母艦載機型F-35Cの採用が検討された。しかし、F-35Cを採用するとなると“発艦用カタパルトと着艦用アレステイング装置”(CATOBAR =Catapult Assisted Take off but Arrested Recovery)を装備せねばならず、多額のコストが掛かるため廃案となった。この結果再び当初案に戻り、カタパルトの設置を諦め「クイーン・エリザベス」、「プリンス・オブ・ウエルス」両艦ともに「F-35B STOVL機」離艦のための「スキージャンプ(ski-jumps)甲板」を設置することが決まった。

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図4:(US Navy) F-35Bが米海軍強襲揚陸艦「ワスプ(Wasp)」に着艦中の様子。上部には白色のリフトファン用大型ドア、その後にはエンジン吸気用ドア(2枚中の片側)が開いている。また胴体後部にはエンジン排気孔が90°真下に向いている。胴体下にはリフトファン排気用ドアが開いている。さらに主翼下面に姿勢制御用のロールポスト・ドアが開いて見える。F-35Bのエンジンは他の系列機と同じP&W製「F135」ターボファン1基。推力はドライ時で28,000lbs(125kN)、アフトバーナ時で43,000lbs(191kN)。英国ロールスロイス(RR)社が、”リフト・システム”、すなわち、リフトファン、ロールポスト、後部ベクタリング・ノズルを担当、製造している。

 

この搭載機種変更の騒ぎで、要した設計変更などの費用は7,400万ポンド(1億1,400万㌦or 114億円)に達したと云う。

「クイーン・エリザベス」級は、小型空母「インビンシブル(Invincible)」級*と同じ679名で操艦できるが、航空要員を含んで約1,600名が勤務する。排水量は65,000㌧だが、将来の改造を見越して設計上は70,000㌧以上までの大型化を考慮してある。飛行甲板の全長は280m、幅は70m、高さ56m、吃水は11m。高コストのため原子力推進の採用を中止、RR製トレントMT36ガスタービン(48,000馬力)2基とデイーゼル・エンジン4基(12,000馬力x 2基と15,000馬力x2基)を使う電気推進方式となった。

 

(注)*「インビンシブル」は、満載排水量22,000㌧の軽空母で1997年に進水、同級艦3隻とともに英海軍の中核として働いてきたが、2011年に退役した。

 

艦橋は、”図2説明”のように前後に分かれ、前は航法用、後は航空管制用となっている。飛行甲板の直ぐ下はハンガーデッキで、F-35Bと回転翼機併せて20機を収容できる。ハンガーの大きさは長さ155m、幅33.5m、高さ6.7m–10mで、CH-47チヌークやV-22オスプレイの整備に充分な容積がある。ハンガーデッキから飛行甲板に航空機を出し入れするために右舷に開放型の大型リフト2基を備え、いずれもF-35 を2機乗せて1分で昇降できる。

大型艦であるにも拘らず人員を小型空母並に押さえるため、各所に自動化システムを導入している。特にバブコック(Babcock)社が開発したミサイル、誘導弾などの兵装取扱いシステムは、艦内深部にある兵装庫からミサイルなどをパレットに乗せ、待機する航空機まで送る一連の作業を、完全自動化した最新の搬送設備である。試算に依ると、従来の方式で行うと200名が必要だが、自動化により40名で全てを賄える、と云う。

防空能力はこのサイズの艦としては貧弱で、近接防御用ファランクスCIWS(20mm機関砲6連装)を3基備えているに過ぎない。いずれ、航空機用空対空ミサイルを転用した「RIM-116 SeaRAM」などが装備されることになろう。

搭載機数は、今のところF-35Bを12機としているが、24機に増やし、ヘリコプターを含め合計で30-40機とする案が検討されている。上陸作戦などの場合には、空軍のCH-47チヌーク、マーリン(Merlin)と呼ばれるAW101ヘリ、さらには陸軍のアパッチ攻撃ヘリ、などの搭載し運用することを考えている。しかし当面は、F-35B を12機、それにアグスタ・ウエストランドEH101ヘリを14機、の編成で始める模様。

英国国防省の計画では、F-35Bの購入は合計48機、これを空軍と海軍で折半して導入する。そして空母搭載機の要員の58%は空軍(619飛行団)が用意し、残りの48%要員は海軍側(809飛行団)で準備する。

搭載するレーダーは、英海軍の最新型駆逐艦45型と同じBAE SystemsとフランスのThalesが開発したS1850M長距離レーダーと、BAE 製Artisan 3D Type 997 AESA型の中距離用レーダーなどを装備する。BAEの説明では、S1850Mレーダーは約400kmの範囲内で1000個の目標を自動で同時に検知、追尾できる、と云う。また、Artisan 997は20km離れた野球ボール大の目標を追跡できる。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week June 30, 2014 page 59-61 “Fresh Start” by Tony Osborne

“Lockheed Martin F-35 Lightning II” Wikipedia

“Queen Elizabeth-class aircraft carrier” Wikipedia

“Aircraft Carrier” Royal Navy