2015-01-10 松尾芳郎
長文のため(その1)と(その2)に分割する。
はじめに
ルフトハンザが2008年ファンボロー航空ショーでボンバルデアCSeiresを発注、ローンチ・カストマーとなったが、7年後の現在CSeriesは飛行試験の最中にある。遅れて2010年12月に開発がスタートしたA320neoの飛行試験は急ピッチで進んでおり、就航は予定を早め今年秋になる。
在来機に次世代エンジンを搭載する開発競争はCSeriesが口火を切ったが、これで狭胴機の分野で広がりを見せ、さらに広胴機でもA330neoの開発決定で同じことが始まった。
狭胴機では、エンブラエル社のリージョナル機ERJ170、ERJ190、ERJ195の改良型E2系列機、ボーイング737NGのエンジン換装型737MAX。広胴機では、777の改良型777X、エアバスのA330neoの開発がそれだ。
エアバスA320neo
今年(2015年)10月には他の次世代エンジン機に先駆けてA320neoの引渡しが始まる。受け取るのは中東のカタール航空(Qatar Airways)、ここは2014年暮に最新の広胴型機A350の初号機を受領している。エアバスでは、初期のA320neoの座席当たりの燃料消費はA320ceoに比べ15%改善するとしていたが、追加の改良で改善は20%以上になると云う。
A320neo(1クラス標準164席)シリーズには、他にA319neo(同134席)とA321neo(同199席)があり、エンジンはPW1100G-JMあるいはCFM Leap 1Aのいずれかを選択できる。PW1100G-JMには日本の三菱重工、川崎重工、IHIが開発に参加している。
エアバスでは受注好調のため、3年以内にA320neoを月産46機に増加する予定だ。初号機の引渡しまで未だ10ヶ月あると云うのに、確定受注数はA320neoが2,790機、A321neoが734機に達している、一方全般的な大型指向の影響のためA319neoの受注は僅か49機に止まっている。
図:(Airbus)A320neo初号機PW1100G-JMエンジン付き、がツールース(Toulouse)空港から初飛行に向け離陸したところ(2014-09-25)。A320neoは従来のA320ceoに比べ座席当たり20%の燃費改善に加え航続距離も伸びている。60社から3,300機を越える確定受注を獲得。競合する狭胴型機の(ボンバルデイアCSeries、ボーイング737MAX、中国COMAC C919、ロシアIrkut MS-21)は開発が遅れ気味だが、A320neoは反対に就航が早まりそうだ。当初予定の2016年第2四半期から今年(2015)10月に変更、ローンチ・カストマーのILFCに引渡される。
エアバスA330neo
エアバスは既存の広胴機A330のエンジンに最新のロールスロイス(RR)製トレント(Trent) 7000を搭載することを検討していたが、エアライン3社とリース会社3社から購入覚書を得て開発に踏切った。開発するのはA330-800neoと胴体延長型のA330-900neoの2機種。2014年7月ファンボロー航空ショウで開発を発表、詳細設計が進みつつある。A330neoは現在のA330に比べ新エンジン装備と空力改善のお陰で燃費は座席当たり14%改善され、航続距離は400nm (740km)伸びる。A330-900neoの設計は今年(2015)末に完了し、就航は2年後の2017年末を予定している。確定発注はデルタ航空が最初で(2014-11-19) A330-900neoを25機、以後覚書を交わした各社が相次いで確定に切替え、総数は120機に達している。エアバスとしては、昨年秋に型式証明を取得したもう一つの新型機A350XWBと、このA330neoを広胴型機ビジネスの双璧とし将来に期待をかけている。
図:(Airbus)A330-900neoの完成予想図。新開発の「トレント7000」エンジンを装備し、翼幅をA330より3.7m長い64mにすることで、上述の性能改善が得られる。A330-800neoはA330-200の更新で2クラス標準252席仕様、A330-900neoはA330-300相当で同310席、航続距離はそれぞれ7,450nmおよび6,200nmとなっている。
RR「トレント7000」については、本サイト(2014-07-29掲載、2014-08-02改訂)の「エアバスA330neoに装備するRR「トレント7000」エンジンとは」を参照されたい。
エアバスは、重要顧客である中東のエミレーツ(Emirates)航空からA380のエンジン換装計画を2015年内に開始するよう強く求められている。これに対し、エアバスCEO のF. ブレゲー (Fabrice Bregier) 氏は「2020年以降にA380の胴体延長と新エンジン換装を実現すべく、近い内に開発を決めたい」と語っている。
ボーイング777X
ボーイングは、生産拠点のエベレット(Everett, Washington)工場に10億㌦(1,200億円)を投じて大拡張工事を開始した。ここは2020年以降の長距離広胴型機市場を目標に、社運をかけた大型機777Xの生産を行う設備となる。
図:(Boeing)777Xの主翼製造工場は、現在のエベレット主組立工場に隣接した北側に建設される。写真は建設が始まった工場。2014年10月16日に起工式が行われた。広さは100万平方フィート(約93,000m2)で、当初予定より7週間早めて着工された。完成は2016年5月。
777Xの主翼は、新工場内の最終組立工程に隣接した工場で作られる。100万平方フィートの専用工場が2016年5月に完成し、2017年から主翼の出荷が始まる。主翼はエベレット工場としては初めてとなる複合材製、現在技術習得のため長さ114フィート、幅23フィートの試作品を製作中だ。主翼の素材となる複合材は日本の東レが独占供給する。
777Xは、エアバスA350に対抗するために立案された機体で、2013年9月にルフトハンザから34機の購入覚書を得た。同年11月のドバイ航空ショーで開発を発表するや直ちに中東3社から合計225機の受注を獲得している。全体設計は2015 年末までに決まり、2016年中に詳細設計を決定、2017年から生産を開始する。
初期の生産は現在787組立てに使っている40-24号棟で行われ、約3年続けてから新工場に移し本格生産に入る。ボーイングでは、2015年から777の製造工程にロボット組立て方式を導入する予定だ。これは胴体を垂直にした状態で自動組立てをする方式で「FAUB」、すなわち「fuselage automated upright build」と呼ばれる。対象は前部および後部胴体部分で、胴体の内外からロボットが組立て作業をする。
日本企業の参画は、前述の素材を供給する東レの他に、機首部分などを除く胴体の製造が主で、構造部分全体の21%を三菱、川崎、富士、新明和、日本飛行機が受持つ。また客室内装でギャレイ、ラバトリー、客席の一部などをジャムコが担当する。
図:(Boeing)777-9Xの完成想像図。777Xには、777-8Xと777-9Xの2つがあり、確定受注と購入覚書の合計で300機の受注を得ている。-8Xは350席で航続距離9,300nm、上図の-9Xは400席で航続距離は8,200nm。エンジンは新型のGE9X、主翼は複合材製となり、幅は777-300ERの64.8mより長い71.3mとなり、揚抗比が改善される。新エンジンの燃費改善と併せて、座席当たりの燃費改善は15%に達する。
大型の747-8は、貨物機需要はあるものの受注量が先細りになっているので、2013年末の月産1.75機から2014年9月には1.5-1.3機に減らしている。
787の需要は堅調で、2014年10月には200機目の機体を納入した。300機目の納入は2015年8月頃の予定。787の月産機数は、2013年12月では7機だったが現在は10機、2016年には12機、そして2020年には14機と順調に増加する。
ボーイング737MAX
737MAXの最初の胴体は、今年(2015年)初めからウイチタ(Wichita)にある協力企業スピリット(Spirit AeroSystems)社で始まる予定。胴体は完成後(2015年7月)にはシアトル南部のレントン(Renton, Washington)工場に運び込まれる。そして737MAX8の初飛行は2016年前半に行われ、就航は2017年になる。
レントン工場では、737MAXと現在型737を混在するラインで生産すべく、すでに準備が始まっている。現在型737NGは、2014年初めから月産機数をそれまでの38機から42機に増加している。今後737MAXがこれに加わるので、737全体としては2017年に月産47機、そして2018年には52機に増える予定だ。
図:(Boeing)737MAX9の完成予想図。737NG系列機のエンジンをCFM Leap-1Bに換装、同時にウイングレットを含む機体各部を改良し737MAXとした。737NGに比べ燃費は20%向上。A320neo対比で座席当たり運航費を8%節減できると云う。系列機は373MAX7(1クラス標準で140席)、737MAX8(同175席)、737MAX9(192席)。737MAX8を最初に完成させる予定。原型の737の初飛行から50年目の2017年に初号機を引渡す(Southwest Airline)。すでに2,500機以上の確定注文を獲得。
(その2に続く)