2015-01-10 松尾芳郎
ボンバルデイアCSeries
このように2015年は、ボーイング、エアバス両社にとっては開発を進める年となるが、カナダのボンバルデア社には極めて重要な一年となる。現在同社が開発中の 狭胴機CS100の飛行試験機(FTV=flight-test vehicle) 5機が遅れを取り戻すべく飛行試験を行っている。遅れた理由は、昨年夏に1号機、FTV-1で起きたPW1500Gエンジンの潤滑システム不良に起因するエンジン破裂事故で、4ヶ月近く試験飛行が中断したこと。ボンバルデアでは、CS100の納入は予定通り2015年6月から開始したい、としているが疑わしい。並行して開発中の胴体延長型CS300は、初号機の組立てが終わり昨年末から地上試験を始め、今年初めから飛行試験を開始する。そしてCS100の就航開始後6ヶ月となる2016年の就航を目指している。
図:(Bombardier)ボンバルデイアCSeries CS100の 1号機(FTV-1)が着陸・接地したところ。2008年7月ファンボロー航空ショウでルフトハンザから30機確定+30機オプションの購入覚書を得て開発を決定した。胴体中央部分は中国瀋陽航空機で、尾翼はイタリアのアレニアで、それぞれ作られる。最終組立はモントリオール近郊のミラベル空港にある同社の工場で実施。初飛行は2013年9月に実施、その後上述のように地上試験中にエンジン破裂事故が発生(2014年5月)、対策後同年9月から試験飛行が再開された。系列機には、CS100型(1クラス標準で110席)と胴体を3.7m延長したCS300型(同135席)がある。エンジンはPW1500G(推力21,000-23,300lbs)2基を搭載。現在の確定受注機数はCS100が63機、CS300が180機で合計243機。
三菱MRJ、COMAC C919など
今年注目される他の初飛行はアジア勢の動きである。我国の三菱航空機が開発するリージョナル機三菱MRJの初飛行は2015年第2四半期に行われる。海を挟んだ中国では国営企業COMACが作る横6列仕様の狭胴機C919が、またロシアではMC-21の開発が進行中で今年中に初飛行が行われる。
MRJの初号機は昨年10月18日にロールアウトし現在は地上試験を実施中、さらに2機が最終組立て中だ。飛行試験には5機を充当し、それに強度試験用の2機を製作するが、いずれも92席型のMRJ90。続いて78席型のMRJ70も組み立て試験飛行を予定している。エンジンはPW1200Gギヤード・ターボファン(推力15,600-17,600lbs)を2基、エンジンの最終組立は三菱重工が行う。各システム開発には、パーカー・エアロスペース/油圧系統、ハミルトン・サンドストランド/電源、APU、フラップ、客室空調、ロックウエル・コリンズとナブテスコ/操縦系統、住友精密/ランデイングギア、が協力している。
三菱は、MRJの製造に際し他機の製造工程に比べ格段に精密な加工を行い空力性能の向上を目指しており、これが一つの特徴になっている。リージョナル機の名門エンブラエル社の新型機E2の開発開始で競争が激しさを増す中、この精密加工が一層重要性を帯びてくる。
MRJの型式証明取得は、2012年と2013年と2度にわたる遅延で、今では当初の目標から3年遅れの2017年第2四半期に予定されている。今後の生産計画では、確定受注191機を消化するため、生産数を引渡し開始後5年以内に当初予定の2倍となる月産10機に上げる。これで、2017-2022年間で新規受注に充分対応できる体制を作る。
三菱では、型式証明取得時(2017年6月)では月1機の割合で生産をスタートするが、それから5年掛けて順次月産機数を10機に増やして、2022年半ばまでに330機の引渡しを想定している。つまり確定受注分を引くと残りは139機となり、これは現有オプションの184機よりかなり少ない。さらに、これ等には日本航空からの購入覚書32機を含んでないので、これを入れると確定数は223機になる。早晩月産数の増加改訂が必要となりそうだ。
図:(Bloomberg)三菱MRJ初号機”JA21MJ”ロールアウトの模様(2014-10-18)。三菱MRJは、2008年3月全日空から確定15機+オプション10機の発注を受け開発が決定、三菱航空機が設立された。三菱航空機は設計、型式証明取得などを担当、試作、飛行試験、製造は三菱重工名古屋航空宇宙システムが行う。初飛行は今年(2015)第2四半期、ANAへの初号機納入は2017年第2四半期に予定している。
中国COMACが開発中のC919は、三菱MRJが開発を発表(2008年)した数週間後に開発が決まった機体で、リージョナル機より大きくA320neoや737MAXと同じ狭胴型機に分類される。エンジンは同じ次世代型のCFM Leep1C(推力25,000-30,000lbs)を搭載する。大きい分だけ開発に時間が掛かり、現在最終組立が始まったばかり、就航は2018年と云われている。初飛行は今年(2015)末を目標にしているが、ロールアウトが今年9月予定なので時間的に無理と見られている。COMACによると、エアチャイナなど中国のエアラインと複数の中国系リース企業から合計430機の受注を獲得している。FAAやEASAの型式証明取得を目指すが否かはっきりしない。
COMACはC919より先に、13年前から米国マクドネルダグラスのMD-80を模したリージョナル機ARJ21の開発に取組んで来た。漸く昨年末に中国航空当局の型式証明を取得したが、FAAなど西側諸国の証明取得作業は中断したまま。
図:(COMAC)COMAC C919の完成予想図。COMACは「Commercial Aircraft Corp. of China」の頭文字。C919は1クラス仕様で168席、客室幅はA320より大きく横6席配置が可能。標準型で航続距離は4,000km。
エンブラエルE-2
ブラジルの航空機メーカー・エンブラエル(Embraer)社は、リージョナル機のベストセラーE-Jet系列の次世代機E-2シリーズの開発を決め(2011年11月)、基本型となるE-190-E2の詳細設計が進んでいる。現在同社の主力E-Jet系列機は座席数70-130席をカバーする4機種で構成され、合計で1060機を引渡し済み、受注残266機を抱えている(2014-09-30現在)。
この市場を将来にわたって確保すべく3機種のE-2シリーズの開発を決め、2020年までに順次投入する予定だ。次世代機の基本型となるE-190-E2は、現在のE-190型機と同サイズだが、主翼は新設計となり、エンジンはPW1900Gギヤード・ターボファン、尾翼が改良され、ランデイングギアや各システムも新しくなる。就航は2018年前半の予定。続いて胴体延長型のE-195-E2(132席)が2019年に就航、さらにE-175-E2/88席型が2020年に出現する。
E-2シリーズの確定受注は、E-175-E2/150機、E-190-E2/70機、E-195-E2/50機、の合計270機に達している。開発決定が遅れたにも拘らず、現在型Eジェット系列の販売実績がE-2の後押しした形だ。
図:(Embraer)エンブラエル社が開発中のE190-E2完成予想図。現在のE-190対比で、席数は2クラス標準97席で同じ、燃費はPW1900Gエンジン(推力19,000〜22,000lbs)と新主翼で16%向上する。航続距離はE190-E2が最も長く5,000kmを越える。他はいずれも3,500km程度。三菱MRJの強力なライバルとなる。
終わりに
次ぎの図に、今後5年間の小型機を除く民間航空機のメーカー別市場占有率の予測を示す。左に生産機数、右に生産価格、をそれぞれ円グラフで表示してある。機数、価格とも、広胴機から狭胴機までを揃えるボーイング、エアバスが圧倒的な姿を示す2強であるのに対し、リージョナル機主体のエンブラエル、ボンバルデイアの2社が僅か数%のシェアで食い込んでいる2弱の構図。その他の中に三菱MRJ、COMAC919などが含まれている。我国ではMRJの将来にかける期待は大きいが、エンブラエル、ボンバルデイアの水準に達するのさえ至難のわざと思える。これから一層の努力が必要だ。
図:(Aviation Week Intelligence Network)エビエーションウイーク誌が予測した民間航空機メーカー別の今後5年間の市場占有率を示す円グラフ。左の「生産機数」ではボーイングとエアバスがほぼ拮抗しているが、右の「生産価格」ではボーイングは大型機で優位なためエアバスを押さえている。三菱など新興メーカーは「その他」に含まれる。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は以下の通り。
Aviation Week eBulletin Dec. 29, 2014 “A320neo First Delivary will Herald Era of Re-Engined Derivatives” by Jens Flottau, Guy Norris and Bradley Perrett
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