(その1)
2015-01-15 松尾芳郎
中国では経済成長が鈍化しつつあり、2014年のGDP成長目標7.5%に達しなかった模様、さらに2015年の成長率は7%に低下すると予想されている。それにも拘らず人民解放軍の予算は依然として2桁の成長を維持している。2014年3月の全国人民代表大会で発表された2014年度の国防予算は2013年度対比で12.2%増の8,082億元(1,320億㌦=15兆8,400億円)に達した。4年連続の2けたの伸びで、2013年の10.7%増の伸び率も上回った。
図:(時事ドットコム)2014年度までの中国国防費の伸び、10年で4倍に著増。
この会議で李克強首相は次ぎのように演説し、沖縄県尖閣諸島と歴史認識で、脅迫とも受け取れる発言をし、我国を強く牽制した。
「我々は国の領土主権と海洋権益を断固として守った。これからも平時の戦闘の備えと国境・領海・領空の防衛を強化する。我々は第2次世界大戦の勝利の成果と戦後の国際秩序を守り抜き、歴史の流れを逆行させることは決して許さない。」
2015年度の中国の国防費は、米国防総省では10%+の増の8,880億元(1,750億㌦=21兆円)を越えると見ている。これに対し我国の2015年度防衛予算は4兆9,800億円、中国の国防費はこの4倍以上に相当する。
中国はいつも国防費の増加理由として、人件費と訓練費の増額を挙げ、特に下士官の技能向上に費用が掛かると弁明してきた。しかし、実際には東シナ海、南シナ海を含む周辺海域での活動強化、インド洋周辺国で艦艇寄港可能な港湾設備の整備、さらにアフリカ各地で紛争防止と称し多数の兵力を駐留させるなど、の活動に多額の費用を投じている。
図:(Aviation Week)中国国防軍の活動を示す表。推定予算、兵員総数、派兵活動、いずれも我国の水準を遥かに超えて米国に迫る状況を示している。
昨年12月4日に行われた国防軍会議で、中国共産党主席兼人民解放軍総指揮官の習近平(Xi Jinping)は、「武器開発を一層加速するよう」命じた。新華社通信によると、習主席は「今や各種兵器システムは戦略的配備を進める段階にあり、今後はこれ等兵器の早急な開発・改良がキーポイントとなる。」と述べた。
昨年11月に北京で開かれたアジア太平洋経済首脳会議で、米中首脳は海上での不測の衝突を減らすため、双方の軍事演習の予定を通知し合う約束を取り交わした。しかし一方で、戦略核兵器についての討議は拒み続け、また東シナ海と南シナ海で島嶼の領有権を主張し近隣諸国との緊張を高めている。
去る11月に開催された珠海航空ショー(2年毎に開催)では、各種兵器の驚異的な開発ぶりを見せつけた。すなわち、前回に比べ地上用兵器とエレクトロニクス兵器の展示スペースは格段に拡充された。展示の目玉は、自国開発のステルス戦闘機の2つ目となる “瀋陽航空機製J-31”と、最大の国産輸送機”西安航空機製Y-20”輸送機であった。さらにJ-31を改良した量産型の”FC-31”の実物大モデルとその先進型のコクピットが展示されていた。
図:(Chinese Military Review)瀋陽(Shenyang) J(殲)-31は、2012年10月に初飛行した次世代型ステルス戦闘攻撃機。双発である点を除けば米国のF-35と良く似ている。先に公表された大型のJ-20ステルス戦闘爆撃機を補完し対空、対地戦闘を主任務とする機体とされる。試作1号機31001はロシアのRD-93 (推力19,000lbs/84kN)エンジンを2基搭載している。中国空軍はRD-93の国産型Guizhou WS-13(推力22,000lbs/100kN)をJF-17戦闘機に使用中だが、これをさらに改良したWS-13Aエンジンが完成すれば量産型J-31に採用する予定だ。J-31は、全長16.9m、翼幅11.5m、高さ4.8m、全備重量17.6㌧、戦闘行動半径1,250km。
大型輸送機Y-20は数機が完成して飛行試験中だが、中国は海外派兵能力を強化するため、改良型エンジンの早急な実用化を図ると共に性能向上に力を入れている。Y-20は2017-2018年頃には配備が始まると見られ、中国空軍の高官によると400機を揃えると云う。
図:(Chinese Internet)2013年1月に初飛行したY-20大型輸送機。最大離陸重量約200㌧でC-17より小さく、EUのA400M輸送機より大きい。エンジンはロシアSoloviev D-30Kpターボファン推力23,000lbs、C-17のF117推力4万lbsより小さい。将来は国産のWS-20ターボファン推力31,000lbsに換装する予定である。最大離陸重量は220㌧、最大積載量は66㌧、航続距離は4,300km。「数100機揃えば、3日間で15個空挺師団を日本の6大都市に派遣占領できる」とは中国軍高官の弁。
珠海航空ショーで、兵器製造企業のNorinco工業、Casic (China Aerospace Science & Industry=中国航空宇宙科学工業)、およびCASC (China Aerospace Science & Technology=中国航空宇宙科学技術)の各社は、敵の偵察能力を攻撃するシステムを開発中だ、と公表した。すなわち、相手の早期警戒監視システムを無力化するため、戦闘管理システムの指揮の下、レーダーと無人機で捕捉し各種戦術ミサイルと対空ミサイルと連携して攻撃、破壊するシステムを構築する。中国はこれで西太平洋海域での“自国勢力圏内への介入拒否能力”(snit-access/area denial capabilities)を高めつつあり、同盟国にもこのシステムを供与しようとしている。
図:(Chinese Defense Review)対空ミサイル・システムHQ−6/LY-60D は、空対空ミサイルPL-10をSAM化したシステムである。SAMシステムは、4輛のレーダー(探索用1台と追尾・火器管制用3台)、電源車両1台、6輛のミサイル搭載・発射車両(TEL=Transporter/Erector/Launcher)で構成する。各ミサイル発射車両TELには2-4基のミサイルを搭載する。中国軍では、次ぎの図に示すNorinco LD-2000対空機関砲システムと共同で運用する。
図:(Bill Sweetman/Aviation Week)Norinco製LD-2000 7銃身30mmガトリング・ガン・システム。指揮通信車両の指揮下で、前掲のHQ-6ミサイル・システムと共同で拠点防空(point defense)システムとして使用する。いわゆるシステム・オブ・システムズ(system-of-systems)の実現を図っている。LD-2000システムは、米国や日本の艦艇が使う20mm 6銃身CIWSと似たシステムで、その陸上版と云える。
昨年7月には“瀋陽J-20”ステルス戦闘機の4号機が完成し、2017-2018年頃には初期運用が始まる。自国開発の戦闘機を改良した性能向上型の”瀋陽J-10B”は、最初の部隊が間もなく発足する。西安では、ロシアのスーホイSu-27を模したJ-11B戦闘機、複座のJ-16攻撃機および空母搭載型のJ-15戦闘機の生産が急ピッチで進んでいる。
(その2)に続く