中国、国防費の年間伸び率は4年連続して10%台 –地域の緊張を高め周辺国に危機感–(その2)


(その2)

2015-01-15 松尾芳郎

 J-20の4機目

図:(Top 81 web page)4機目のJ-20 ”2012”号機の初飛行の様子(2014-07-26)。3号機2011から改良したのは、機首下部の電子光学目標追尾装置(E/O Targeting Pod)の位置を修正し、垂直尾翼の先端を短くした点。初期型のJ-20はロシア製Saturn AL-31またはAL-117Sエンジンを装備するが、国産のWS-15エンジンが完成すれば置き換えられよう。消息筋によると、2020年には20機編成の初の航空団が編成される。

 

1980年代に起きた中国のロシア技術盗用問題(Su-27とエンジン)でぎくしゃくしていた中露関係は最近収まりを見せている。すなわちロシア政府とその業界は中国がロシアから最新の機材を購入する限り、ロシアが開発した前時代技術を中国が習得するのを黙認するようになっている。中国はロシアからスーホイSu-35戦闘攻撃機24機と最新のAlmaz-Antey S-400対空ミサイル・システムを購入すべく交渉してきたが、2015年には契約できそうだ。

海軍では、排水量20,000㌧クラスのヘリ空母2隻(081型?)の建造が進みつつある、これは071型強襲揚陸艦の改良型になるようだ。さらに米国防総省では、中国海軍は063型と呼ばれる次世代型攻撃原潜(SSN)を 6隻建造中と把握している、加えて095型第3世代SSNが2020年代に14隻も完成すると云う。

宇宙/戦略システムの分野でも2015年にはかなりの進展が予想され、CASC製の新型の移動式多弾頭ICBMの配備が始まり、094型弾道ミサイル搭載原潜による“戦争抑止パトロール(deterrence patrols)”が開始される。ロシア軍事筋の伝えるところでは、中国軍はこれ等に搭載するために、核弾頭2000基を保有している、と云う。

珠海航空ショーではCasic製の移動式固体燃料使用の打上げロケットFT-1と軍事衛星攻撃用の小型衛星6個が展示されていた。また12月7日の新華社通信によると、CASCは2015年末までに”長征5号(Lon March 5)”あるいはLM-5と呼ばれる大型打上げロケットを発射する、そしてさらに大型化し低地球周回軌道(LEO)に130㌧を打上げられる”長征9号(LM-9)”を2030年までに完成させ、月と火星の有人探査を進めたいとしている。

LM-5最終組立

図:(cjdby.net)長征5号(LM-5)打上げロケットは次世代打上げロケットで、最大で地球周回低軌道LEO)に25㌧、または地球静止軌道(GTO)に14㌧の打上げが可能。目的に応じてブースタを取付けた数種の組合せが計画されている。米国のデルタIV、アトラスV、あるいはファルコン9に相当する。LM-5の初号機は今年末に海南島南東海岸のWenchang発射基地から打上げられる。写真は,CALT (China Academy of Launch Vehicle Technology) のTianjin工場で最終組立中のLM-5ロケット1号機。直径は5m、3段式、1号機は2基のブースタを取付け合計推力は1,080㌧になる。

LM-5用ブースタ

図;(cjdby.net) LM-5ロケットには、目的に応じ最大5本までブースタ・ロケットを取付ける。写真はブースタ・ロケットYF-120 型、液体酸素/ケロシン燃料を使用120㌧の推力を出す。直径3.35m。一般にブースタは固体燃料型が多いが、このYF-120は珍しく液体燃料使用である

Cz5

図:(Wikipedia)長征5 (LM-5)型ロケットの系列機:左からCZ-5-200、CZ-5-300、CZ-5-340、CZ-500コア(単独では飛べない)、およびCZ-5-522。いずれも高さ58mでCZ-522型はLEO 高度200kmに20㌧、あるいは静止軌道GTOに11㌧のペイロードを打上げる。

 

長征5型ロケット(LM-5)の最大のモデルCZ-5-504は高さ62mで上図LM-5の本体延長型で重量は800㌧、低地球周回軌道(LEO)に25㌧の重量を打上げる。

 

まとめ

中国は、尖閣諸島周辺の領海内へ頻繁な侵犯、東シナ海に不当な防空識別圏(ADIZ)の設定、日本列島を周回する艦隊行動、などに加え、政府高官は我国に対ししばしば威圧的発言を繰り返してきた。そして今年の軍事費は前年比10%+増の21兆円に達する。

これに対し我国の防衛費は中国の1/4にも満たない4兆9,800億円、前年比2%の微増だ。安部首相は常日頃安全保障に関して「領土、領空、領海への侵犯を防ぎ、国民の生命、財産を守る」と云っているが、彼我の実態を眺めるとその言葉は空虚に響く。

昨日閣議決定した2015年度予算では、社会保障費は3%以上の伸びで31.5兆円、中でも伸び続ける高齢者の年金、医療、介護などの費用が全体の1/3を占める。高齢者向け費用は、一般国民の生活向上やGDP増には効果が少ない言わば後ろ向きの費用だ。「これをもっと削り、浮いた財源でGDP増に繋がる社会保障費や、“国民の生命財産を守る防衛費”を充実して欲しい」と望むのは無理だろうか。

中国の脅威をひしひしと感じる今日この頃である。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week eBulletin Jan 8, 2015 “China’s Rising Defense Budgets Stoke Regional Concerns” by Richard D. Fisher,Jr.

Aviation Week Nov. 14 2014 “Zuhai 2014;Defense Technology Banquet” By Gill Seetman

時事ドットコム 2014-03-05 “中国国防費12.2%増、4年連続2桁の伸び–尖閣・歴史で対日牽制–中国全人代“

Popular Science Dec. 12, 2014 “China is building one of the world’s largest space launch vhicles” by Jeffrey Lin and P. W. Singer