中国海軍とロシア海軍、日本海で島嶼上陸の合同演習開始


2015-08-22 松尾芳郎

 

ウラジオストク発共同通信によれば、ロシア海軍と中国海軍は20日、ウラジオストク周辺の日本海で合同演習「海上連合-2015を開始した。演習には対空、対艦、対潜水艦作戦に加え、合同で行う島嶼上陸訓練が含まれている。参加した中国艦隊7隻には大型揚陸艦2隻を含んでいることでも裏付けされる。これは中国が領有権を主張する我が国沖縄県尖閣諸島や南シナ海に点在する島々を念頭に置いた訓練と見られ、演習を通じて日本やアメリカを牽制、威嚇する狙いがある。演習は8月28日まで続けられる予定だ。

日本のメデイアは一部の新聞が小さく取り上げただけだ。多くは、例によって日中友好に配慮してか、あるいは日頃の安保法制反対の主張に沿わないニュースのためか、この報道を黙殺している。

防衛省統合幕僚監部が去る8月17日(月)付けで発表した3件のニュースには、中露合同演習「海上連合-2015に関係する情報を含んでいるので紹介したい。

すなわち、—

 

1) 8月16日午前11時頃、鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機および佐世保基地第43掃海隊所属の掃海艇「うくしま」が、対馬海峡を北上するロシア艦隊を発見した。ロシア艦隊は、ウダロイI級ミサイル駆逐艦1隻、ゴーリン級航洋曳船1隻、ドウブナ級補給艦1隻の合計3隻編成。艦隊はその後対馬海峡を北上し日本海に入った。なおこれらの艦艇は2月5日(木)に対馬海峡を南下したものと同じである。

 

2) 8月16日午後0時半頃、八戸基地第2航空群所属のP-3C哨戒機が北海道宗谷岬の西南西約200 kmの海域を北東に進むロシア艦隊を発見した。艦隊は、グリシャV級小型フリゲート1隻、グリシャIII級小型フリゲート1隻、タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇4隻、ロプチャーI級戦車揚陸艦1隻、アリゲーターIV級戦車揚陸艦1隻、ソニア級沿岸掃海艇2隻の10隻編成であった。その後艦隊は宗谷海峡を通過してオホーツク海に入った。この件は「中露海軍合同演習」に直接の関係はない。

 

3) 8月17日午前8時頃、鹿屋基地第1航空群所属のP-3C哨戒機及び佐世保基地地方隊所属の護衛艦「あまくさ」が対馬海峡を北に向け通過する中国艦隊を発見、艦隊は下対馬の南西約130 kmを北東に進み対馬海峡を抜け日本海へ入った。中国艦隊は揚陸艦2 隻を含む7隻で、ルージョー級ミサイル駆逐艦1隻、ソブレメンヌイII級ミサイル駆逐艦1隻、ジャンカイII級フリゲート2隻、ユウジャオ級揚陸艦1隻、ユーチンII級揚陸艦1隻、フチ級補給艦1隻で構成されていた。

 

以下に統合幕僚監部17日発表のニュースに掲載された中国、ロシア海軍艦艇の写真のうち主なものを転載し、それぞれに説明を加える。

 

1)8月16日午前11時頃、対馬海峡を北上したロシア艦隊

 16日ウダロイI駆逐艦548

図1:ウダロイI級ミサイル駆逐艦、艦番号548。ウダロイ(Udaloy)級駆逐艦はロシア海軍では1155大型対潜艦と呼ばれ、対潜、対空任務に重点をおいた汎用艦。前級ソブレメンヌイ級駆逐艦の後継となる。満載排水量8,500トン、最大速力約30 kt、AK-100 100 mm単装砲2門、対空機関砲30 mm CIWS 4基、対空ミサイルSA-N-9 8連装VLS 型8基、対潜ロケット12連装発射機2基などを装備する。太平洋艦隊には4隻が配備中。日米海軍のイージス艦に近い性能と兵装を持つ。

16日ドウブナ補給艦

図2:ドウブナ級補給艦(PECHENGA)。満載排水量11,000トン、全長130 m、速力15ノット、艦船用燃料2,100トン、デイーゼル燃料2,000トン、真水900トンなどを搭載できる。太平洋艦隊に所属する補給艦は合計8隻、そのうちドウブナ型は2隻である。

 

 

2)8月16日午後0時半頃、宗谷海峡を東進したロシア艦隊

 16日グリシャV級フリゲート350

図3:グリシャV級小型フリゲート、艦番号350。本艦は去る7月10日夜宗谷海峡を西進、日本海に入った。グリシャ(Grisha)型は1124型小型対潜艦と呼び、1970年代から90隻以上が建造された。グリシャV型はその最新版で28隻が就役中。満載排水量1200トン、速力34 kt、対潜ロケット砲2基 (96発)など強力な対潜装備を持つ。

16日グリシャIII級フリゲート369

図4:グリシャIII級小型フリゲート、艦番号369。図3の説明参照。

16日タランタルIII哨戒艇937

図5:タランタルIII級ミサイル護衛哨戒艇、艦番号937。この他に同型艦3隻、艦番号921、978、991が同行し都合4隻が艦隊に随伴した。タランタル(Tarantul)ミサイル護衛哨戒艇はコルベット艦で、ロシア海軍では1241型大型ロケット艇と呼んでいる。去る7月11日に宗谷海峡を通過、日本海に入ったのは艦番号(971) (978) (937)の3隻だった。満載排水量約500トン、対艦ミサイル3M-80連装発射機2基を備え、敵水上艦隊の撃破を主任務とする汎用哨戒艇。さらに個艦防空用の対空ミサイル9K38イグラ発射機1基を持つ。最大速力41 kt。20隻以上が現役として配備中とみられる。小型艦とはいえ侮り難い兵装を持つ。

16日ロプチャーI戦車揚陸艦055

図6:ロプチャー(Ropucha-class)I級戦車揚陸艦、艦番号055。ロプチャー級はプロジェクト775型と呼ばれ、艦の前後にドアがあり迅速な揚陸、収納ができるロシア海軍の揚陸艦部隊の中核的存在。現在19隻が在籍中、太平洋艦隊第100揚陸艦旅団に所属している艦は4隻ほどで、沿海州からカムチャツカへの物資輸送などに使われている。満載排水量4,000トン、全長112.5 m、タンクデッキに貨物500トン及び装甲車両24輌を搭載、兵員225名を輸送できる。

16日アリゲーターIV戦車揚陸艦081

図7:アリゲーター(Alligator-class)IV級戦車揚陸艦、艦番号081「ニコライ・ビルコフ(Nikolay Vilkov)」、ロシア太平洋艦隊第100揚陸艦旅団に配属中。1771型と呼ばれ,図6の「ロプチャーI」級は本級の後継艦である。1964年に就航14隻が作られたが現役は3隻。満載排水量約4,700トン、全長113 m、速力18ノット、搭載量は1,000トン、兵員約400名または戦車20両または歩兵戦闘車(AFV)40両を運べる。

 

 

3)8月17日午前8時頃、対馬海峡を北上した中国艦隊

17日ルージョー駆逐艦115

図8:ルージョウ「旅州(Luzhou)」級ミサイル駆逐艦、艦番号115、「瀋陽(Shenyang)」。2006年秋の就役。「旅洋I,II」型の後継防空艦で、ロシア製SAM 射程150kmのSA-N-20を8連装回転式VLSから発射する(8基装備する)。同型艦「116 石家荘」とともに北海艦隊に所属する。

17日ソブレメンヌイ駆逐艦138

図9:ソブレメンヌイ(Sovremenny)II級ミサイル駆逐艦、艦番号138、「泰州(Taizhou)」。2005年末就役、ロシア製ソブレメンヌイII級のなかの1隻で、後部の130mm砲を取り外し飛行甲板を拡張している。満載排水量8,000トン、速力32ノット。兵装で注目されるのは、両舷に装備する超音速対艦ミサイルSS-N-22 SSM の4連装発射筒。

17日ジャンカイIIフリゲート547

図10:ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号547「臨析」(Linyi)は2012年末に就役した新鋭艦。もう1隻の同型艦、艦番号568「衡陽」2008年就役も同行している。満載排水量約4,000㌧。現在同型艦は20隻が就役中で北海、東海、南海、の各艦隊に配備されている。対空ミサイル短SAM HHQ-16 は米海軍と似た32セルのVLS(前部甲板)に納められている。この他にYJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基を備える。後部にはKa-2ヘリ1機を搭載する。

17日ユージャオ揚陸艦989

図11:ユージャオ「玉昭(Yuzhao)」級ドック型揚陸艦の3番艦、艦番号989「長白山」で2012年秋に就役した新鋭艦。満載排水量は18,500トンと云われ、全長210m、ウエルドック内に大型エアクッション揚陸艇4隻を収納、上甲板格納庫にはヘリコプター4機、兵員500-800名と装甲車両15-20両を搭載できる。速力20ノット、航続距離は6,000海里とされる。同型艦3隻は南海艦隊に配備済み、さらに1隻が建造中で東海艦隊が使う予定。

17日ゆーちんII揚陸艦997

図12:ユーチン「玉亭(Yuting)」II級戦車揚陸艦、艦番号997「雲霧山」は、「玉亭I」級の改良型で、9番艦として2005年に就役、南海艦隊に所属している。満載排水量約5,000トン、速力17ノット、輸送能力は戦車10両と揚陸部隊250名。艦首には観音開きドアとランプ、艦尾にもランプを備え、戦車、兵員を迅速に揚陸できる。

17日フチ補給艦889

図13:フチ「福池(Fuchi)」級補給艦の3番艦で艦番号889「太湖(Taihu)」で2012年就役。中国海軍最新最大の補給艦で4隻就役中の1隻。満載排水量23,000トンで、燃料10,500トン、真水250トン、弾薬等の貨物680トンを搭載し、優れた外洋行動能力を持つ。前部のポストは給油用、後部はドライカーゴ用ポストである。艦後部には中型ヘリコプター1機を搭載する。ソマリア沖海賊対策に参加している。

 

-以上-