-中国政府が9月3日の抗日戦勝利70周年記念軍事パレードで見せた中距離弾道ミサイルは、DF-16、DF-21C、同D、DF-26、さらに米本土も射程に入れるDF-31Aなど-
2015-10-02 松尾芳郎
9月25日付け日経朝刊記事「中国軍事パレード、透けた虚実」(高坂哲郎氏)に次のような記述があった。
「日本に直接脅威となるとみられるのが、DF-16やDF-21 という射程が2000km前後の短・中距離弾道ミサイルだ。配備数が多く、日米のミサイル防御システム(BMD)では対処しきれないほどの[飽和攻撃]ができる。・・・脅威の大きさの割に日本では対策がほとんど議論されておらず、問題にふたがされている感がある」。
日経記事とは別に某サイト上で北村淳氏が、中国で評判の「3D模擬奇島戦役」と題する“中国軍が在日米軍を撃破する動画”を紹介している(2015-09-17)。
内容は;—「某軍事同盟軍が中国に奇襲を仕掛けるが、中国軍が反撃し、軍事同盟軍基地の島を占領する」というもの。軍事同盟軍とは日米同盟軍を指し、それが国際法を無視して中国軍基地を奇襲するが、中国第2砲兵軍が大量の「DF15B」、「DF-16」、「DF21C」などの弾道ミサイルで反撃し、基地(沖縄を指す)を攻撃破壊する。さらに空軍のH-6K戦略爆撃から「CJ-10」、「CJ-20」巡航ミサイルを発射し日本各地を叩く。また、イージス艦が護衛する米空母部隊を「DF-21D」弾道ミサイルの飽和攻撃で撃破する。そして最後は中国海軍の強襲揚陸艦部隊が登場、基地の島を占領する」というシナリオ。
この動画は、ミサイルの大量飽和攻撃で沖縄駐留の米軍を壊滅させるフィクション「短期激烈戦争」で、米軍を叩いて短期間で日本を降伏に追い込もうという中国の意図を示したものである。
これら記事に登場する中国軍のミサイルの現状を以下に簡単に紹介する。弾道ミサイルは「東風(Dongfeng)」シリーズで「DF」と略称され、いずれも第2砲兵軍に配備されている。また巡航ミサイルは「長剣(Chang Jian)」と呼ばれ「CJ」と略称される。
「DF-15」短距離弾道ミサイル/SRBM:
短段式固体燃料ロケットの弾道ミサイルで、弾頭に炸薬500kgを搭載し射程は600km。1995-1996年の台湾国政選挙に圧力をかけるため、中国軍は「DF-15」を6発、“演習”と称して発射し威嚇した。現在は旧型の「DF-11」と合わせ1,000発以上を保有している。
「DF-16」中距離弾道ミサイル/MRBM:
今年の北京軍事パレードに登場した「DF-16」は「DF-15」の改良型で射程が800-1,000kmに長くなった。2013年から配備が始まっている。「DF-16」は台湾の対空ミサイル“ペトリオットPAC-3”での迎撃が難しくなる、と云う。台湾攻撃の場合「DF-16」は射程を調節するためより高い弾道を飛ぶので落下速度が速くなり、PAC-3での迎撃精度が落ちる。このため台湾軍では新型の”PAC-3 EMS”への改修を迫られている。「DF-16」の弾頭は多弾頭式で、”MIRV=Multiple Independently Targeted Re-entry Vehicles”と呼ばれ、3発までの通常弾、核爆弾、またはクラスター弾を搭載できる。
図1:「DF-16」中距離弾道ミサイル/MRBM(Medium Range Ballistic Missile)。10輪型 TEL(Transporter Erector Launcher)(トランスポーター・エレクター・ランチャー)に搭載し、不整地も走行できる。日本全土がその射程に入る。
「DF-21」中距離弾道ミサイル/MRBM:
2段式固体燃料ロケットの中距離弾道ミサイルで、1970年代末に開発された。重量500kgの核弾頭1個を搭載し射程は2,500km。「DF-21」には派生型があり、潜水艦発射型の「JL-1」SLBMは射程約2,100kmで、中国初の戦略原潜「夏(Xia)」に12基搭載される。1996年には改良型の「DF-21A」が出現、2010年までに「DF-21/DF-21A」合計で80基が配備され、さらに増加中である。最新型は「DF-21D」対艦弾道ミサイル(ASBM)、射程は約1,600kmだが終末誘導の精度を高め、航行中の空母攻撃が可能で「空母キラー(Carrier Killer)」と呼ばれる。もちろん米艦隊の対空ミサイル網は来襲する「DF-21D」の大部分を撃墜するが、撃ち漏らした1発が空母に命中することで艦隊は機能を失う。
図3:「DF-21C」中距離弾道ミサイル/MRBM。原型の「DF-21」に終末誘導機能を追加した型で、東シナ海沿岸地域に配備され沖縄を含む日本列島を射程に収める。
図4:「DF-21D」中距離弾道ミサイル/MRBM「空母キラー」。弾頭には終末誘導装置(MaRV=Manoeuvering Re-entry Vehicle)を備えている。これに対抗するため米海軍は全てのイージス艦にBMD(弾道ミサイル防衛)機能を持たせ、搭載する対空ミサイルをSM-3の最新型に更新中である。
「DF-26C」中距離弾道ミサイル/MRBM:
射程約3,500kmで米軍のグアム基地を攻撃できることから「グアム・キラー(Guam Killer)」と呼ばれる。9月3日のパレードでは「大型艦のみならず中型艦も目標」と説明しているので「DF-21D」と同じく対艦攻撃能力があると見られる。他の弾道ミサイルと同様、車載型なので平時はトンネル内に待機し、有事には外に出て短時間で発射するので探知が難しい。
図5:「DF-26C」中距離弾道ミサイル/MRBM「グアム・キラー」。「DF-21」より大型のため12輪型TELに搭載されている。
図6:9月3日パレードで天安門広場を走行する「DF-26」MRBM、別の写真では少なくとも16両が行進に参加した。
「DF−31」大陸間弾道ミサイル/IRBM:
「DF−31」は、中国最新の固体燃料、車載型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)で、射程は8,000kmプラスとされる。弾頭には1,000ktの核弾頭1個、または20- 150-ktの核弾頭3個(MIRV)を搭載できる。改良型「DF-31A」は射程が11,000kmに伸び米本土の大部分を射程に収め、DF-5など旧型のサイロ発射式弾道ミサイルとの更新が進んでいる。2009年までに30基が配備され、その後増加中である。派生型として水中発射型の「JL-2」があり、原子力弾道ミサイル潜水艦「晋(jin)」級(排水量8,000トン)4隻にそれぞれ12基が搭載されている。
図7:「DF−31」大陸間弾道ミサイル/ICBM、重量42トン、全長13m、直径2.25m、なので16輪型TELに搭載。
図8:中国本土からの距離。沖縄列島と九州西部は600kmの範囲なので、中国が1000基以上配備済みのDF-15弾道ミサイルの射程内にある。射程2,000kmのDF-16やCF-21日本全土をくまなく攻撃でいる。また巡航ミサイル「CJ-10」や「CJ−20」も同様である。
「CJ-10」巡航ミサイル/LACM:
対地攻撃用巡航ミサイル (LACM=Land Attack Cruise Missile) で1990年代にロシアのKh-55ミサイルを入手、また、アフガニスタンやパキスタンで拾得した米国のトマホークの部品情報など、をもとに開発した。500kgの通常あるいは核弾頭を装備し、射程は1,500kmに達する。2009年までに500発を保有済みと見られる。「DH-10」とも呼ばれる。
弾道ミサイルに対し巡航ミサイルは、飛行中に目標の変更ができ、超低空を飛ぶのでレーダーに発見されにくく、ターボファンエンジンを使うので軽量かつ長距離を飛べる、と云った利点がある。
図9:各ランチャー(TEL)は「CJ-10」を3発搭載できる。発射時の写真、尾部のフィンは開いているが、主翼と胴体下のエアインテイクはまだ展張していない。尾部のロケットで加速しそれからターボファンで飛行する。
「CJ-20」巡航ミサイル:
CJ-10を空対地ミサイルに改良したのが「CJ-20」、戦略爆撃機H-6Mには4発、同H-6Kには6発搭載でき、射程は2,000km、日本全土およびグアム島基地を攻撃圏内に収める。2018年に配備が始まるとされる。
図10:「CJ20」を6基搭載する戦略爆撃機H-6Kの想像図。原型の「H-6」は1950年代のツポレフTu-16を国産化したものだが、以来改良を加え、H-6Kは2007年に初飛行、エンジンはD-30ターボファンに換装、アビオニクスも最新に改められた。戦闘行動半径は3,000kmを超える。
むすび
先日の抗日戦勝利70周年記念軍事パレードで姿を見せた各種弾道ミサイルと巡航ミサイルのあらましを振り返ってみたが、改めてその脅威が身近に迫っていることに戦慄を覚えた。冒頭の日経紙記事を再録すると「・・・脅威の大きさの割に日本では対策がほとんど議論されておらず、問題にふたがされている感がある」。
まさにこの通りで、先の通常国会での新安保法制審議でも全く取り上げられず、これで我が国の安全保障は大丈夫なのか、疑念が沸き起こってくる。
-以上-