エアバス、生産増に対応するため超大型貨物機を開発


-主翼や胴体などの大型部品輸送用として、現在のベルーガよりさらに大型のベルーガXLの開発がスタート-

 

2015-10-19 (平成27年) 松尾芳郎

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図1:(Airbus)「ベルーガXL」は2019年就航を目指している。貨物室容積は現在の「ベルーガ」を30%上回り、幅/高さ共約8 m、長さ43.7 mあり、長大なA350XWの主翼2枚を収納、輸送できる。貨物の搬出入は、貨物室前部の上開きドアから行う。このためコクピットは貨物室床面より下げてある。A330-200F貨物機の胴体下部と主翼、エンジンなどを使った派生型貨物機である。

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図2:(Airbus)「ベルーガXL」はA330と同じ垂直尾翼、水平尾翼を使うが、空力特性を維持するため垂直尾翼には背びれフィンを追加、水平尾翼は左右に延長し両端に補助垂直尾翼を追加する。

 

エアバスは、欧州の航空機メーカー連合として設立され、参加各国で大型部品を分担して製造し、それを最終組立工場に集めて完成するため、大型部品輸送用の貨物機を保有している。現在は自社の旅客機A300-600Rをベースにした「A300-600ST」「ベルーガ(Beluga)」貨物機を5機製作、1996年以降子会社(ATI)の手で運航し欧州11箇所の工場を結んで飛行している。

「ベルーガ」は、主翼、エンジンと胴体下半分はA300-600Rと同じで、胴体上半分は大型貨物を搭載する貨物室になっていて、異様に太いのが特徴だ。貨物室は幅、高さとも最大で7.1 m、長さ37.7 mで与圧はされていない。貨物室前方には、積み降ろしのため上開き式ドアがある。コクピットは貨物搭載が容易なように貨物室床より低く下げてある。

エアバスの生産機数の増加に伴い「ベルーガ」の稼働も増え、今では1機・1日当たり2~4便の輸送をこなしている状況である。

エアバスでは、今後のA350XWB機の生産増と狭胴型機の受注増に対応するため、新たに「ベルーガ」より大きい「ベルーガXL」の開発を決めた(2015年11月)。「ベルーガXL」は、A300型機より大型のA330-200F貨物機をベースにし、貨物室容量を「ベルーガ」より3割ほど大きくする。

「ベルーガXL」は、最大離陸重量227トンで、デルタやスカンジナビア航空が使っている最も重いA330の旅客機型より15トンほど軽い。これは「ベルーガXL」では、搭載重量はさほど問題ではなく、貨物室の容積が必要なためだ。

「ベルーガXL」の貨物室は、「ベルーガ」対比で幅が1 m長さが6 m大きくなり、A350 XWB機の主翼を2枚同時に輸送できる。現用の「ベルーガ」は1枚しか運べない。「ベルーガXL」は2019年から就航し合計5機が作られ、順次現在の「ベルーガ」と交代する。

「ベルーガXL」の基本設計は2015-09-16に決定し、これから詳細を詰める段階に入り、最終組立ては2017年にスタートする予定。A330-200貨物機の胴体下部、主翼、尾翼、RR トレント700エンジンなど、主要部をそのまま流用するので、開発決定からわずか5年で就航開始が可能になる。

完成した暁には、「ベルーガXL」は軍民を問はず世界最大の貨物室容積を持つ輸送機となる。

 

「ベルーガXL」の主要部位の設計と製造分担は、このほど次のように決定した(2015-06-17);—

・Stellar Aerospace(英国):胴体機首部分と貨物室上開きドア

・Aernnova(スペイン):後部胴体と背びれフィン

・Deharde(ドイツ) およびP3 Volth Aerospace(フランス):胴体貨物室部分

・  Aciturri(スペイン):水平尾翼延長部分とそれに取付ける補助垂直尾翼

胴体下半分は、あらかじめ主翼とランデイングギアを取付けて、現在のA330の生産ラインと同じツールース(Toulouse, France)の工場”L34”で作られる。なお、主翼は英国のBAe Systemsで、ランデイングギアはフランスのClement Ader工場で作られる。

ツールース工場で行われる「ベルーガXL」改造に関わる主な作業は、巨大な貨物室の取付けと、機首コクピットを貨物室床レベル下に変更する工事である。1号機の初飛行は2018年夏の予定。エアバスは、「派生型型式証明(derivative type certificate)」を申請し取得する予定で、試験飛行時間は1000時間で収まると見ている。そして1号機の就航開始は2019年夏、2号機は同年末を想定し、続いて3機を作る。

この計画は現在の受注、生産状況で決められたもので、受注が増えれば変更される可能性がある。

すなわち、狭胴型のA320neoの受注が好調なので、現在の月産50機(今はA320が主)体制を2020年までに60機以上に増やすことを検討している。またA350 XWBの生産増も考えている。それからすでに1200機以上が引渡し済みのA330は、これから月産10機から6機に減らすが、改良型のA330neoの生産が始まれば増える可能性がある。

このような状況なので旧型の「ベルーガ」5機の退役予定“2025年”は延長されるかもしれない。

-以上-

本稿作成の参考にした主な記事はつぎの通り;—

Airbus @ 16 September 2015 “Beluga XL programe achieves design freeze”

Airbus @ 17 June 2015 “Airbus selects major aerostructure suppliers for Beliga XL”

Aviation Week @ Sep 29, 2015 “Airbus Freeze Beluga XL Design” by Jens Flottau