2015-10-28(平成27年) 松尾芳郎
図1:(US Marine Corp / Sgt. John Jackson)V-22オスプレイの不整地着陸時の様子。着陸時はプロペラが高速回転となり大量の砂塵を巻き上げるので、現在の「砂塵セパレーター(EAPS)」では効果が不十分、現在改良型を開発中。
V-22 Ospreyは、Bell HelicopterとBoeing Rotercraft Systemsが共同開発した多目的テイルトローター輸送機で、垂直あるいは短距離・離発着が可能、巡航時はエンジン・ローターを水平にし時速500 kmで飛行する。乗員4名、兵員24名または貨物9トンを輸送できる。全長17.5 m、ローター直径11.6 m、翼幅14 m、最大離陸重量27.4トン、エンジンはRR Allison T406/AE 1107Cターボシャフト、軸馬力6,150 hpを2基装備。空中給油しない場合の戦闘行動半径は722 kmで代表的な輸送ヘリCH-47の2倍以上。米空軍と海兵隊用に200機以上が使われている。単価は約7,200万ドル。
図2:(you tube/Hawaii News Now)5月17日オアフ島空軍基地で演習中のV-22オスプレイが着陸時に左エンジンがストールしたため、降下速度が過大になり墜落、炎上した。
去る5月(2015年)17日、ハワイで演習中のMV-22Bオスプレイが、ハード・ランデイング事故を起こして死傷者を出した件は、我が国でも伝えられたので覚えている方も多いだろう。
この事故は米海兵隊所属の3機のオスプレイが、オアフ島(Oahu, Hawaii)ワイマナロ(Waimanalo)ベローズ空軍基地(Bellows Air Force Station)で着陸訓練を行っている際に、突然1機が高度を失ってハード・ランデイング/火災となったもの。これで2名が死亡、パイロット2名を含む20名が負傷した。
現在事故調査中だが、明らかになったのは「オスプレイの問題点の一つとされるエンジン系統に生じた故障が寄与している」模様。このためV-22操縦マニュアルの中の「視程が悪い場合の着陸操作(RVL=restricted visibility landing operation)」法がより厳しく改められた。
エビエーションウイーク誌が入手した事故報告書案(9月9日作成)には、2010年4月にアフガニスタンで起きた米空軍CV-22Bオスプレイの死亡事故を参照し、「アフガン事故は、エンジン故障ではなく操縦ミスが主因」と述べている(詳しくは6ページ参照)。
オスプレイには、不整地着陸の際に砂塵を大量に巻き上げそれをエンジンが吸込み、内部が損傷するという問題がある。このためエンジンの改修が必要だが改修案が決まるのは2017年以降となり、全機に改修が行きわたるのは何時になるか未だ決まっていない。V-22エンジンの寿命は、在来型ヘリコプターに比べ数分の一だが、対策が完了すれば同程度に伸びる見込みだ。
事故機は当日2度目の「視程が悪い場合の着陸操作=RVL」中に、高度150 ft (50 m)より下で、左エンジンがコンプレッサー・ストール(失速)を起こし、出力を失った。すぐに右エンジンの出力がクロス・シャフテイング・システム(cross-shafting system)を介して左ローターに伝達され、左右のローターが同じ回転となり機の姿勢は水平に保たれた。しかし、パワー不足で適正な降下率を維持できず、墜落に至った。
事故機に続いて、編隊で着陸中の2番機でも同様な出力低下が起き危うく追突しそうになった。
図3:(RR, US Navy)左側2枚は今回の事故機の左エンジンの高圧タービン・ノズル。右側2枚は2013年8月にネバダ州クリーチ空軍基地(Creech AFB, Nevada)でハード・ランデイング事故となった機の高圧タービン・ノズルとブレード。左側2枚のノズルにはガラス状の凹凸付着物が沢山付いており、これで高圧タービン出力が落ちコンプレッサー・ストールとなった。右側写真でも同様な付着物があるが、やや少ない。
事故調査報告書案によると、パワー・ロスの原因は、熱で反応し易い[CMAS]と呼ぶ鉱物を含んだ砂をエンジンが吸い込んだため、と云う。[CMAS]は、エンジンの燃焼室で溶け、それがタービン・ノズル・ベーンに付着して固形化する粉末状の物質で、成分は「カルシウム(calcium)、マグネシウム(magnesium)、アルミニウム(aluminum)、シリコン(silicon)」である。[CMAS]がタービン・ノズル・ベーンに付着し空気流を阻害するので、タービン/コンプレッサーの回転数が低下して“サージング(失速)”に対する余裕が少なくなる。この状態でパワーを出そうとレバーを進めると警報音が鳴らなくてもストールになる。
双発ヘリと同様V-22は、片方のエンジン停止や両エンジンの出力が落ちた場合には、前進飛行をしない限り高度を維持できない。前進飛行ではプロペラ/エンジンを前傾させるが、この操作は一定高度以上でのみ許されている。操縦規定では“片発停止時の飛行回避範囲(one-engine inoperative avoid region)”として決められている。今回の場合は、規定高度以下でパワー・ロスとなったので、着陸を続けざるを得なかった。
同報告書案には、[CMAS]吸引が引き金となった類似の過去3件の事故を引用している。その一つ、図3右に示すクリーチ空軍基地での事故は、”A”クラス事故とされ、着陸後火災となった。さらに大事故には至らなかった[CMAS]吸引による“突然のパワー・ロス(rapid power loss)”が6件報告されている。
V-22 オスプレイのRolls-Royce AE 1107Cエンジンは、メーカーで[CMAS]吸引の影響を調べる試験を行っていない。ガスタービンでは、砂塵吸引でコンプレッサー・ブレードが磨耗し次第に性能が低下すること、は広く知られている。しかし[CMAS]がタービン・ノズルに及ぼす問題は比較的新しく、その影響は使用する着陸地域によって異なる。そして、これはエンジンの ”ストールに対する余裕(surge margin)“を減殺するので問題は大きい。
図4:(Rolls-Royce) 米海兵隊用MV-22および米空軍用CV-22オスプレイ用AE-1107ターボシャフト・エンジン。民間用として1998年にFAA型式証明を取得済みである。2軸式で、構成は、軸流14段コンプレッサー、燃焼室、コンプレッサー駆動用の2段高圧タービン、ローター駆動用の2段低圧タービンとなっている。コンプレッサー圧力比は16.7。図の左側シャフトにローターが取付けられる。T406あるいはAE 1107C-Libertyとも呼ばれる。
米海軍は「海軍航空訓練および操縦方法の基準(Natops=Naval Air Training and Operating Procedures Standardization)」で、V-22の操縦について次のように定めている。すなわち;—
『各ミッションで実施する「視程が悪い場合の着陸操作(RVL=restricted visibility landing operation)」は60秒以内で行うこと。そして[RVL]操作は、高度150 ft (50 m)以下、かつ、前進速度20ノット以下で行う離着陸操作に適用する。』
しかしハワイの事故機の場合[RVL]操作は110秒間も続いていた。
「Natops」では、地上運転時での砂塵吸込みを防止する方法として『エンジンナセルを75度前傾させ同時にエンジン出力を落とす』こと、また、ミッション終了後エンジンの高熱部(hot section)を洗浄し残留物を洗い流すこと』を推奨している。
2ページに記載したが、ハワイ事故と似た事故が2010年4月にアフガニスタンで起きている。これは空軍のオスプレイCV-22Bが山間部に着陸する際に起きたもので、当該事故報告書の結論とは別に、当時の事故調査担当の専門家は『事故前の点検で、左エンジンの「砂塵セパレーター(EAPS= engine air particle separator)」の目詰りがあったが、そのままミッションに出発、このため着陸時に左エンジンがストールしたようだ』と語っている。この時は、地表から200 ftの高さで突然降下率が増え、通常の4倍にもなる2,000 ft/分となり機首から墜落した。
V-22のエンジンRR AE 1107Cの寿命についてだが、海兵隊では、2007年から4年間の実戦経験を元に以前は“使用時間(time-on-wing)”は「戦闘に使い続ける場合は200時間、訓練や後方兵站で使う場合を含めると560時間」としていた。しかし今では860時間までに改善されている。エンジン寿命は使用環境で大きく左右され、不整地使用が多い場合と、舗装されたランウエイや空母の甲板上で使う場合とではかなり異なる。しかし輸送用双発ヘリCH-47FチヌークのエンジンT55-L-714A (ハニウエル製)の寿命は3,000時間で、両者にはまだ大きな開きがある。
海軍は、エンジン寿命、特にタービン・ノズル、ブレードの寿命を延ばすためにMDS Coating technology社と共同で「Black Gold 窒化チタン・コーテイング」の適用を研究中だ。
エンジン・インレットに取付ける新しい「砂塵セパレーター(EAPS)」の研究は2013年から始まっている。新「EAPS」はオイルを含浸させた綿製フィルターとなり、離着陸時のみに使用し、巡航になるとバイパス・ドアが開いて空気をそのままエンジンに吸入する仕組みになる。2017年には完成する予定で、全機の改修が始まるのはその後になる。
我が陸上自衛隊はV-22オスプレイを17機導入する予定で、このほど最初の購入契約が発表された(2015-07-14)。すなわち、テキストロン社ベル・ヘリコプター部門とボーイング社でつくる共同体は、日本向けとして最初の5機を、国防総省の”対外軍用品売却プログラム“の一つとして海軍省経由で受注した。引渡し時期は2016年からになる。
-以上-
本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。
Aviation Week Oct 19, 2015 “Hawaii V-22 Accident Investigation Points to New Ingestion Issue” by Bill Sweetman
Boeing News July 14, 2015“Bell Boeing Annouces Contract for First V-22 Ospreys to Japan”