火星に彗星が接近中、衝突するか?


2013-08-07  松尾芳郎

 先ずは、次ぎのYouTube動画をご覧頂きたい。これはNASA ScienceのDr. Tony Phillips氏が監修した映像である。

 

 

本稿は、NASA Science News, March 27, 2013, “Collision Course? A Comet Heads for Mars”, Author: Dr. Tony Phillipsの大要である。同氏が動画で説明する音声の大意を邦訳したもの。

 

火星にはこれまで沢山の探査機が送り込まれてきたが、現在は3機の衛星が火星周回軌道から大気や地表の探査を継続中で、地上ではオポチュニテイ(Opportunity)とキュリオシテイ(Curiosity)の2台の探査機があちこち移動しながら生命の痕跡や水の有無などの調査に当たっている。

これ等の探査機は、間もなく全く予期していなかった事象に遭遇することになりそうだ。

NASAのJPL地球近傍天体プログラム(Near-Earth Object Program)担当D.ヨーマンズ(Don Yeomans)氏の発表によれば、「彗星2013 A1」が2014年10月に火星に接近、2000分の1のチャンスで衝突する可能性がある、と云う。

火星、彗星接近

彗星の核は直径1~3km、56km/秒(201,600km/hr)と云うかなりの高速で接近中。若し火星に衝突すればTNT換算で3,500万メガトンのエネルギーが放出される。

6,500万年前に地球に衝突し恐竜を絶滅させた巨大隕石の衝突では1億メガトンのエネルギーが放出された。また、今年2013年2月にロシアのチェリアビンスク(Chelyabinsk)に落下、建物や人命に被害を与えた彗星は

かなり小さいものだったが、これに比べると、今回接近中の彗星は8,000万倍もエネルギーを持っている。

仮に衝突が起こってもNASAの火星探査には支障はないだろう。NASAの火星探査プログラムの責任者M.メイヤー(Michael Meyer)氏は次ぎのように語っている「衝突で大量の砂、埃、水、岩石が舞い上がり、このため火星の気温は今より上昇するだろう」。

この影響でソーラー発電を動力源にしている探査機「オポチュニテイ」の活動に影響がでそうだ。しかし探査機「キュリオシテイ」は原子力発電なので全く問題ない。火星軌道を回る探査機は砂塵の舞い上がる大気のため、しばらくの間観測ができなくなるかも知れない。

でもNASAは「衝突の可能性は極めて低く2000対1と云うことは、1999は衝突無し、と云うことだ、むしろ高い確率で「ニアミス」が生じる」と云っている。

ニアミスだとしてもかなり大きな出来事に変わりない。最新の軌道解析によると、彗星は火星の30万km上空を通過しそうだ。これだけ近くを彗星が通ると火星は、彗星の尾、つまりコマのガスの中を通ることになる。火星の地上からは彗星が1等星の数倍も明るく見えそうだ。

アリゾナ州大の惑星科学担当J.ビル(Jim Bill)氏は次ぎのコメントをしている。「火星周回中のマース・オデッセイ(Mars Odyssey)とマース・リコニザンス・オービター(Mars Reconnaissance Orbiter)は、彗星のニアミスの様子を上空から見下ろして撮影できるかも知れない、詳しくは今専門家が解析しているところだ」。

火星地上で探査活動中のオポチュニテイとキュリオシテイは夜間撮影で威力を発揮しそう。オポチュニテイはソーラー発電なので昼間の活動をセーブして夜に備える必要がある。原子力発電のキュリオシテイは夜間撮影に問題はない。

専門家達は、彗星のガスと火星の大気がどのような反応をするかに注目している。流星のシャワーが生じるかも知れないし、彗星の分離ガスのスペクトル分析をすれば火星大気上層部の化学成分について何か判るかも知れない。

ニアミスで判るかも知れないもう一つのことは、火星のオーロラ(auroras)である。地球の場合は全体が磁力線で取巻かれているが、火星は部分的にしか磁界に被われていない。つまり、磁力線に被われている場所があちこちに散在していて、磁極は多くが南半球に存在する。イオン化されたガスが火星大気の上層に衝突すると、そこが磁力線の頂部の場合だとオーロラを発生させる。

この彗星接近が判るずっと前に、NASAは火星大気の調査のための探査機を送ることを計画していた。この探査機は、MAVEN(Mars Atmosphere and Volatile Evolution)、「火星大気とその揮発進展状況の探査機?」と呼んでいる。2013年11月に打ち上げられて予定通りならば2014年10月の彗星接近の数週間前に火星に到達する。

しかしMAVEN担当のコロラド大B.ジャコースキー(Bruce Jakosky)主席は、「火星近傍に到着しても、予定の周回軌道に入れ、科学計測機器を展張してテストをするなどに時間が掛かり、完全な活動状態になるのは多分彗星が通過してから2週間後になるだろう。だから彗星が衝突すれば、その後の大気の変動状況の観測に役立つかも知れない。」と話している。

現在世界中の天文学者が彗星「2013 A1」の動きをモニターしている。冒頭のD.ヨーマンズ氏によると、毎日集まってくる観測データで彗星の軌道を修正しているのでその誤差はますます小さくなっており、今のところ直接衝突の可能性はなく、火星近傍を通過すると見られる、と云うことだ。

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