JAXA補給機”HTV4”、国際宇宙ステーション”ISS”に到着


   2013-08-13  松尾芳郎

HTVが2段ロケットから分離

図:(JAXA) H-IIBロケット第2段(左)から分離するHTV4補給機(右)の想像図

ISSとHTVの結合

図:(NASA) ISSに結合されるHTV3(前回の写真)

HTVの見取図

図:(JAXA)補給機「こうのとり」(HTV=H-II Transfer Vehicle)の構成図、大きさは全長9.8m、直径4.4m。HTV4の重量は搭載貨物5.4㌧を含み、全体で約16㌧になる。「補給キャリア」は「与圧部」と「非与圧部」に分かれ「与圧部」の貨物はISS「きぼう」内部に移され、「非与圧部」の貨物はロボットアームで「きぼう」船外のプラットフォームに固縛される。

非与圧部パレット

図:(JAXA/NASA)「非与圧部」には「多目的曝露パレット」(EP-MP)があり、ここに1.5㌧の実験装置などが搭載される。左下から「電力系統切替え装置」(MBSU=Main Bus Switching Unit)、左上「電力−通信インターフェイス機器(UTA=Utility Transfer Assembly)、上の”STP-H4”には国防総省宇宙テストプログラムの”H4”貨物と、NASA開発の「衛星無人燃料補給」(RRM)実験装置。

 

2013年8月4日午前5時前にH-IIBロケット4号機で種子島宇宙センターから打上げられた補給機「こうのとり4号機」”HTV4”は、予定通り15分後に切り離され、軌道を修正しながら国際宇宙ステーション”ISS”に向け飛行を続け、同9日午後8時過ぎに”ISS”のロボットアームに保持された。ついで8月10日午前1時過ぎに”HTV4”と”ISS”「ハーモニー」間の共通結合機構(CBM=Common Berthing Mechanism)のボルト締結が終了、午前3時半過ぎには”HTV4”の与圧部の起動が終わり”ISS”との結合を完了した。

この作業は、ISS側の宇宙飛行士クリス・キャシデイ(Chris Cassidy)とカレン・ニバーグ(Karen Nyberg)がカナダ宇宙局提供のロボットアームを操作し、日本の地上管制員と協力して行なわれた。

この”HTV4”には、合計5.4㌧の貨物が搭載されている。内容は次ぎの通り。

与圧貨物室;−

ここには約3.9㌧の物資が搭載される。

それぞれの物資は物資輸送用バッグ(CTB=Cargo Transfer Bag)に入れられ、室内の補給ラックに収納される。

食料、水(480 ㍑)、衣類、予備部品、実験に使う冷凍庫(–70℃保冷)、保冷ボックスなどの装置、超高感度カメラ、「きぼう」から発射される4個の超小型衛星、さらに”i-Ball”と呼ばれる「再突入データ収集装置」などが搭載されている。

超小型衛星の一つは、東大、IHI、ベトナムが共同開発した衛星、他の3つはいずれもNASAが用意したもの。

貨物の中に「きろぼ」と呼ばれる小型の会話ロボットがあるが、東大、トヨタ自動車、電通が開発したもので、相手の音声と表情を認識できる機能を持っている。

非与圧貨物室曝露パレット(EP=Exposed Pallet):—

ここには約1.5㌧の船外システム補用品や船外実験装置などが搭載される。

*  電力系統切替え装置(MBSU=Main Bus Switching Unit)

太陽電池トラス上に 4基設置されている電力の分配をする装置で、昨年夏に星出飛行士等が船外活動で交換した。

*  電力−通信インターフェイス機器(UTA=Utility Transfer Assembly)

太陽電池パネルの回転機構に設置され、各トラス間の電力供給と通信制御をする装置。

*  米国防総省宇宙テストプログラムH-4(STP-H4=Space Test Program H-4)

STP-H4パレットに搭載された貨物は;—

1)ゴダード宇宙飛行センターが開発したRRM(衛星への無人燃料補給)/(Robotic Refueling Mission)装置を搭載する軌道輸送用ケージ。

現在使用中の衛星の多くは燃料補給を考慮せずに作られているが、これ等衛星のライフを延ばすためにNASAは無人で超低温の燃料を衛星に補給する”RRM”システムを開発中である。すでに2012年に”ISS”上でフェイズ1の燃料補給試験を完了し、今回の”HTV4”ミッション成功でRRMのフェイズ2の試験の準備がほぼ整った。

次回2014年の”ISS”への補給輸送で、衛星の内部を観るための遠隔操作型ボアスコープを送り込む予定だが、これと組み合わせて、地上操作員の遠隔操作で衛星への燃料補給”RRM”試験が行なわれる。

2)”STP-H4”と呼ばれる国防総省宇宙テストプログラムの貨物

これには国防総省(DOD)開発の5個とNASAの3個の装置、合計8個の実験装置が含まれている。これ等の主たる目的は、軍用/民間用の通信衛星機能に関係の深い“宇宙天気予報の精度向上”である。太陽の爆発で生じる「コロナ質量放出」(CME)が地上や衛星の通信機能に影響を及ぼすので、NASAでは“爆発”と“CMEの地表到着”までの時間差を利用して“宇宙天気予報”サービスを行なっている。つまりCMEの規模と噴射方位を観測し、地球あるいは衛星に影響がありそうな場合には警報を出し、通信網や衛星活動を一時停止して被害を食い止める、ための予報である。

搭載装置としては、海軍研究所が開発した”SWATS”(Small Wind and Temp Spectrometer)や”MARS”(Miniature Array of Radiation Sensors)さらに”GLADIS”(Global Awareness Data-Exfiltration International Satellite Constellation Concept)等が含まれている。

 

JAXA 8月12日の発表によれば、10日午後8時過ぎに補給機”HTV4”の与圧部のハッチが開けられ”ISS”滞在の宇宙飛行士が与圧部室内に入り作業を開始した。また、12日の早朝から”ISS”ロボットアームで非与圧室から曝露パレットを引出す作業が始まり、午後1時には「きぼう」に付属している船外プラットフォームに取付けが完了した。

 

今回の“HTV4”の成功で、我国の打上げロケット”H-II”シリーズと宇宙補給機”HTV”の技術水準と信頼性の高さが世界的に証明された。我国のメデイアはこの点に焦点を当てて報道している。

しかし、搭載された貨物を観ると、我国が用意した機器類はそれなりに有用な品目ではあるが、米国の依頼で輸送した実験機器類と比較するとレベルの差を痛感する。宇宙開発で我国が米国の水準に達するのには未だ時間が掛かりそうだ。

 

本稿はJAXA、NASA、国防総省、その他発表の記事を参考にし、搭載貨物について多少の解説を試みたもの。

−以上−