先進技術実証機[ATD-X](心神)から次世代戦闘機[F-3]へ、


2013-09-02  松尾芳郎

 ATD-Xレーダー模型

図:(防衛省技術研究本部[TRDI])レーダー反射面積試験用に作られたモックアップ。ATD-Xは全長14.2m、翼幅9.1m、高さ4.5m、離陸重量13㌧、エンジンはIHI XF5-1を2基。想定される次世代戦闘機[F-3]の半分以下の大きさ。2014年度の初飛行を目指す。

ATD-X強度試験

図:(防衛省技術研究本部[TRDI])2012年3月に製作開始した[ATD-X]強度試験用機体の様子。

 

推力偏向機構

図;(三菱重工技報Vol.45 No.4 2008)三菱重工開発の3ペダルを備えた推力偏向機構。

 

防衛省技術研究本部[TRDI]が三菱重工と契約して開発中の「先進技術実証機[ATD-X](心神)」は、2014~15年(平成26~27)の初飛行を目指して準備が進んでいる。[ATD-X]はその後2年間試験を続け、先進技術の成果を見極めて計画を終了する。防衛省・[TRDI]は、これで得た技術を基にして2016~17年より次世代戦闘機[F-3]の開発をスタート、2025年に初飛行、2027年頃からの量産開始を目論んでいる。

[ATD-X](心神)については、ブログ「世界の大学ニュース、志望校を知ろう、母校を応援しよう」内の「大学生のための現代教養講座」に次ぎの記事を掲載済み。

*  2012-04-16掲載「先進技術実証機“心神”の組立て始まる」

*  2012-11-12掲載「日本の次世代戦闘機F-3 は実現するか?」

 

ATD-X開発の経緯

2000年代初頭に我国はF-22の購入を米国に打診したが、議会から秘密保持を理由に断られた。これを契機に我国では独自でステルス性を含む新技術を盛込んだ近代的戦闘機を開発すべし、と云う機運が高まった。

*2005年には早くもレーダー反射面積(RCS)検証のため[ATD-X]の実物大模型が作られ、フランス国防省の協力で試験が行われた(米国での試験が断られたため)。

*2006年には1/5サイズの無線操縦モデルが完成、4機を使って北海道で40回の飛行試験が行われた。この試験には、高迎角域の飛行特性、先進エアデータ・センサーの検証、故障や損傷が生じた場合の自己修復飛行制御機能(self-repairing flight control)等の重要項目が含まれていた。

*2012年3月26日から三菱重工で[ATD-X]の構造試験供試用機体の組立が開始された。

 

ATD-X設計の大要

[ATD-X]は、第五世代戦闘機に必要な先端技術を実証するための機体で、サイズは[F-3]とされる新戦闘機の半分から1/3に過ぎない。しかし将来の実用化を目指して随所に新技術が組込まれている。

*3次元の推力偏向装置(TVC=Thrust Vectoring Cntrol)は、120度間隔で設けられた3枚のパドルで推力方向を変え、フライトコントロールの一部を受持ち、機体の運動性を高める。

*フライトコントロール・システムには、フライバイライト(英語ではfly-by-opticsとも云う?)を採用。これは電気信号でなく電子妨害を受け難い光信号で操縦舵面等のコントロールを行なう方式である。海自哨戒機P-1および空自輸送機C-2に採用済みの技術を適用する。

*レーダーには、多機能型高周波センサー[Multifunction RF Sensor]と呼ぶAESAレーダーが搭載される。このレーダーは、単に索敵、射撃を司る火器管制機能だけでなく、電子戦妨害(ECM=electronics counter measures)、電子戦支援(ESM=electronics support measures)、通信機能、そして電磁攻撃機能(microwave weapon functions)などを併せ持つシステムになる予定。基本となるAESAレーダーは、我国独自の技術でF-2戦闘機や新護衛艦「あきずき」級で実用化済みのガリウム・ナイトライド(GaN)半導体素子が使われる。

*フライトコントロールに自己修復飛行制御機能(Self Repairing Flight Control Capability)を持たせる。これは操縦舵面に故障、損傷が生じた場合に自動的に検知し、他の正常な舵面などを使って飛行を安定化させる機能。前述の1/5無線操縦モデルで飛行試験を実施済みである。

*エンジンはIHI開発のXF5-1を2基搭載する。XF5-1はアフトバーナ付きターボファン、推力重量比8程度、推力11,000lbsで、すでに数台が完成納入済み。これを元に2010年より「次世代エンジン主要構成要素の研究」が2017年終了を目標に進行中。これで得た知見を使い2025年に新戦闘機[F-3]用として推力33,000lbs級の「次世代ハイパワー・スリムエンジン」の実現を目指している。

 

このように先進技術実証機[ATD-X]は、長期目標である次世代型戦闘機、仮称[F-3]、の先導的役割を担う重要なプロジェクトである。官民総力を挙げて予定通り2014年の初飛行、2016年の計画完了を達成して、[F-3]開発計画に繋げてもらいたい。これが政治目標である「力強い日本をつくる」の大きな柱となることは間違いない。

–以上−