2013-09-14 松尾芳郎
8月27日〜9月1日の間モスクワ郊外のジューコフスキー(Zhukovsky)空軍基地で開かれた第11回のロシア航空ショウMAKS 2013のトピックスを紹介する。27日開会式当日はメドベジェーエフ(Medvedev)ロシア首相が出席、演説の後、各所の展示を視察、デモ飛行を観閲して、関係者を激励して回った。展示内容は期待を上回るものだったと云う。
中国を含む43ヶ国から1000の企業が集い、100機以上の地上展示が行われ、10以上のグループ100機による飛行演技が行なわれた。
以下はトピックス。
*スホーイT-50次世代型多目的戦闘機、3機が参加
図:(MAKS 2013)ロシアが誇る次世代型多目的戦闘機「スホーイT-50」は3機が揃って参加した。
「T-50」はすでにこのブログで紹介したように、全長20m、翼幅14m、高さ6m、最大離陸重量37㌧の大型多目的戦闘機。プーチン大統領は本機の実戦配備を2016年に開始すると発表している。次ぎの動画はMAKS 2013でデモ飛行を行なったT-50の様子。動画は9分とやや長いが、曇天のもと低空で繰り広げる“コブラ飛行”、“水平旋回飛行”などの軽快な運動性が判る。注意してみるとエンジン間隔がかなり離れていて垂直尾翼がF-22と比べかなり小さい。この曲技飛行はロシア連邦英雄セルゲイ・ボグダン氏の操縦で行なわれた。
T-50は、ミサイル等を収納する胴体の兵装庫(weapons bay)、いわゆる“爆弾倉”は、F-22やF-35よりも大きく、改良型の対レーダー・ミサイルKh-58UShEを搭載できることが判った。Kh-58UShEは、重さ630kgでかなり大型、マッハ4の速度で飛翔する。高度2万mで発射した場合240km先のレーダーサイトを破壊できる、と云われる。また、長距離型空対空ミサイルRVV-BDも収納出来るらしい。RVV-BDミサイルは正対する目標に対し200kmの距離から攻撃できる。これに対し米空軍のAIM120 AMRAAMミサイルは射程70km程度、また我が空自の99式空対空誘導弾AAM-4は射程100kmと云われる。この差は、F-22やF-35ではステルス性に重点を置き、ミサイルは射程を節約して、軽量、小型としてコスト削減する考え方によるもの。
*大型輸送機Il-78、ロシア空軍が大量発注を予定
図:(MAKS2013)空中給油をするイリューシンIl-78。リアノーボスチ通信によると、MAKS2013でロシア空軍最高幹部ボンダレフ中将が、イリューシンIl-78大型輸送機を40機購入する、と語った。
Il-78輸送機はIl-76の発展型として開発され、新型のPS90Aターボファンを4基搭載し、空軍名はIl-478。すでに空軍は同型機を21機配備済み、両主翼と胴体後部左の3ヶ所に給油用ポッドが装備され、そこからボースが伸びて同時に3機に給油が出来る。米国と同じプローブ&ドローグ方式を採用している。全長46.6m、翼幅50.5m、最大離陸重量190㌧、燃料搭載量48㌧、時速830km、航続距離7,300km。
*ステルス機探査用長距離レーダーを公開
図:(MAKS 2013)ロシア、ニツニイ・ノブゴロド(Nizhny ovgorod)研究所製の新型対空レーダー55Zh6UMEシステム。”VHF”と”L”バンドを使うレーダー。妨害電波のある環境下で高度30,000mを飛行するレーダー反射面積(RCS)1㎡の飛翔体を430kmの距離で捕捉できる。左に見える小型アンテナは敵味方識別応答用のVHFアレイアンテナ。
55Zh6UMEアンテナシステムは、超短波と呼ばれるVHF帯(波長1~10m)を使う八木アンテナと電子装置からなる送受信モジュール合計168個で構成されるAESAレーダー。VHF(1mクラス)を使うことで感度と探知距離が向上する。写真のVHFレーダーは左側を向いているが、その背面にLバンド(波長10~100cm)レーダーがあり反対側を警戒する仕組みだ。
AESAレーダーとは「Active Electronically Scanned Array Radar」、つまり、従来のレーダーはアンテナを上下左右に動かしていたが、AESAは平面上に多数の小さなアンテナ(送受信ユニット=T/R unit)を並べ、それぞれから放射される電波の位相を電子的に制御して、上下左右にスキャン、探索する装置。
艦船用にはCバンド(4~8GHz)およびXバンド(8~12GHz)の短い波長帯が使われ、航空機用にはXバンドが一般的。空自F-2戦闘機用のJ/APG-2(三菱電機)、米軍のF/A-18E/F用のAPG-79(レイセオン)、F-35用のAPG-81(ノースロップグラマン・レイセオン)などはXバンドを使っている。
* 新型対空ミサイルシステム、PAC-3を凌ぐか
図:(MAKS 2013)対空・対レーダー・ミサイル発射用車両PU50P6E。対レーダー攻撃用ミサイル9M962、射程60km、重量450kg、を12基搭載するランチャーである。
この対空・対レーダー・ミサイル発射用車両PU50P6Eは、対空防衛システム専門の「アルマズ・アンテイ」社が開発した新型中距離地対空ミサイルシステムでS-350E「ヴィチャージ」と呼ばれる。2013年6月プーチン大統領に初めて披露した最新型自走ミサイル発射機である。旧型のS-300ミサイルシステムに替わり、これから配備が進む。ロシアでは我国などが配備するパトリオットPAC-3システムより勝れている、としている。
*中国空軍曲技飛行チームが初出演
図:(MAKS 2013)タキシー中の中国空軍曲技飛行チーム「八一飛行表演隊」J-10戦闘機。5機がジューコフスキー空軍基地に飛来し、曲技飛行を披露した。
MAKSにとって初めてとなる中国機のショウは、来場の観客の注目を集めた。
「J-10」は「殲撃10」とも呼ばれ、成都航空機で作られ、1998年に初飛行、2005年から実戦配備に付いている。カナード付きデルタ翼の戦闘機で、イスラエルからラビ戦闘機の技術を購入、ロシアからAL-31Fターボファンを入手して、作り上げたと見られている。全長16.5m、翼幅11.3m、離陸重量18㌧、戦闘行動半径は約1000km。総合的な能力はF-16C/Dに匹敵すると見られる。2011年に224機が配備中で、パキスタンに輸出されている。
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