88億㌦の巨大プロジェクト、ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡


–NASAは20年の歳月を費やして2018年秋の打上げを目指すー

 

2013-09-16  松尾芳郎

JWSTミラー

 

図:(Wikipedia/NASA)組立中の主鏡、18枚のセグメントで構成され口径は6.5m。ハブル望遠鏡(口径2.5m)に比べ面積は5倍以上25m2にもなる。各セグメントはベリリウム製で金メッキが施され、背面にあるアクチュエータで数日毎に精密に鏡面の焦点位置を調整する。写真は2011年6月に最初の6枚が取付けられ極超低温試験を始めるところ。2011年12月には予定より6週間早く全ての鏡面の組立てと試験が完了した。

JWST展示

図:(NASA)2013年3月にオーステイン(Austin, Tex.)で野外展示された[JWST]の実物大模型。背景はオーステイン市街の夜景。中央の直径6.5mの主鏡で集めた映像を、3本の支柱の先にある2次鏡で反射して主鏡中心にある望遠鏡本体に送る。主鏡の背後には「統合型科学計測装置」が取り付けられる。主鏡の下側には太陽光遮蔽用の幕が取付けられる。打上げ重量は6.2㌧、地球から150万km離れた太陽周回軌道に乗り、地球と同じ1年で太陽を一周する。

 

初めに

本稿は、“世界の大学ニュース、志望校を知ろう、母校を応援しよう”サイトに2012-01-15掲載した「ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡の開発は」の補足である。

10数年前に始まったNASA最大のプロジェクト「ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡(JWST=James Webb Space Telescope)」の開発は、技術面では難題に直面しながらも解決に向け進んでいるが、コストの高騰に悩まされている。[JWST]開発計画は、ハブル宇宙望遠鏡[HST]の後継として1990年代末に予算10億㌦(1,000億円)で始まった。

しかし、NASAが2011年1月に公表した[JWST]開発計画の改訂版によると、開発費総額は88億㌦(8,800億円)を多少超えるまで膨らみ、完成して軌道投入は余裕を見て当初計画から10年遅れの2018年10月になると云う。

現在活躍中のハブル宇宙望遠鏡[HST]は1990年4月に打ち上げられ、地球周回軌道600km上空を約1時間半の周期で回っているが、2021年には地表に落下して運用を終える。

 

ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡[JWST]の概要

この後継機となる[JWST]は、「地球周回軌道」ではなく、地球が太陽を回るのと同じ「太陽周回軌道」に打上げられる。場所は、地球の軌道の外側、地球から150万km離れた点(ラグランジェ・ポイント 2)になる。ここで[JWST]は、太陽光を地球の影で常に遮りながら星空を観測する。従って太陽を1周するには地球と同じ365日掛かることなる。

観測する波長帯は、[HST]が主として可視光線と紫外線、赤外線の一部を含む領域で観測するのに対し、[JWST]は赤外線領域での観測が主となる。赤外線を使うと、宇宙空間にあるガスや塵で遮られて可視光では見えない星々を観測できるようになる。赤外線領域での観測は利点が多いが、装置自身の発熱で観測に影響が生じるので、装置の冷却(絶対温度0度近くまで)が必要となる。

そして何と云っても最大の違いは主鏡の大きさだ。[HST]の主鏡は直径2.4m、これに対し[JWAT]の主鏡は18枚のセグメントで構成され直径は6.5mにもなる。主鏡が大きいと集光能力が高まり、望遠鏡としての性能が格段に向上する。この巨大な主鏡を支えるため、後ろに自動車のシャーシーのような構造があり、その中に望遠鏡の心臓部となる「統合型科学計測装置[ISIM]」が収まる。

この[ISIM]の中には、「中赤外線計測装置(MIRI)」、「近赤外線分光器(NIRSpec)」、「近赤外線カメラ(NIRCam)」、など4つの計測装置が入っている。

 

直面する技術的諸問題は

いまNASAが直面している技術的問題は主としてこれ等計測装置に関係している。すなわち;–

1) ESAが担当する「中赤外線計測装置(MIRI)」は2012年5月に納入済みだが、もう一つの「近赤外線分光器(NIRSpec)」は、2011年6月に故障が見つかり作り直し中で、2013年9月に一部部品不足のまま仮納入される。

2) ロッキードマーチンが作る「近赤外線カメラ(NIRCam)」は予定を11ヶ月遅れて2013年7月に引渡された。

3) [ISIM]はこれ等計測器を搭載した状態で長時間の極超低温真空試験が必要。前回は計測装置搭載が不完全なまま行なわれ、[NIRSpec]搭載してのテストは2015年になる。

4) 「中赤外線計測装置(MIRI)」を冷やすための長さ10mにもなる超低温クーラーはNASAジェット推進研究所で開発中だが、バルブの漏れの問題で再設計を繰り返している。2015年の長時間の極超低温真空試験には仮バルブ付きでテストに臨む。

5) 上記3つの計測装置に使われるテレダイン製の「赤外線フライト・デテクター」が、使用中に劣化する。改良型は2015年の試験には間に合う模様。

6) [JWST]全体の重量は1,754kgと設定されているが、昨年後半の推定では11,960kg。今後軽量化に努めるとともに、打上げロケットのESA「アリアン5」側とも協議する。

 

結び

このように様々な問題を抱えてはいるが、NASAは「全体として2011年に改訂したスケジュールと予算通りに計画は進んでいる。特記すべきは18枚のセグメントで組立てる主鏡とそれを支える支持機構の完成だ。これは最も困難を伴う作業だったが、予定より6週間も早く完了した(2013-07)」と云っている。

「ジェームス・ウエブ宇宙望遠鏡[JWST]」は、総費用88億㌦(8,800億円)を上回る巨費を投じ20年の歳月を掛けて実現を目指す、NASAにとっての最大のプロジェクトだ。20年前に生まれたこの計画が実現することを望むとともに、このような非凡なアイデアを育てる米国の風土と政治が羨ましい。折から米国では財政難を理由に国防費を含む様々な分野で歳出削減が議論されている。[JWST]は大型空母建造にも匹敵する巨大な事業だけに、依然としてその行方に一抹の不安を感じるが、乗り越えることを期待したい。

–以上−