–ロールスロイス、GKN、共同で次世代型複合材製ファンブレードを開発中–
2013-10-23 松尾芳郎
2013-10-24 Revised
図:(Rolls-Royce, GKN)ロールスロイスとGKNが共同開発した複合材製ファンブレード。現在のチタニュウム製ファンに比べ、ケースを含めエンジン当たり1,000lbs(450kg)軽くなる。空力性能を高めたチタン製ブレードと同じ形状、厚さで軽量化に成功。前縁(奥)、後縁(手前)、翼端(上)にはチタニュウム板を組込んでいる。複合材表面は青色の保護膜で被われている。
図:(Rolls Royce)ボーイング787用トレント1000エンジンのチタニュウム製ファンブレード。ブレードは幅広のワイドコード型。ANA発注の787(-8/36機+-9/30機=計66機)にはこのエンジンが使われている。
米国GEと並ぶ英国のエンジンメーカー、ロールスロイス(RR=Rolls Royce)社は、40年前にファンブレードを複合材で作ることを試みたが、不成功に終わっていた。一方GEは、777用のエンジンで複合材製ファンブレードの実用化に成功(1995年)した。大きく差を付けられたRRは、巻き返しを図るべく再び複合材ブレード開発に努めている。以下はその現状である。
昨年(2012)初めのシンガポール航空ショウで、ロールスロイス(RR)はセレター(Seletar, Singapore)に初めての海外工場の設置を発表した。ここではトレント(Trent)エンジン用の内部が中空のチタニュウム製ファンブレードも製作する。
チタンブレードの後継として、ロールスロイス(RR)は次世代型の炭素繊維強化ポリマー(CFRP=carbon fiber-reinforced polymer)複合材製のファンブレードの実用化に取組んでいる。
ロールスロイス(RR)は、40年前にロッキードL-1011旅客機用RB211エンジンにハイフィル(hyfil)複合材ファンブレードの採用を試みたことがあったが、当時の稚拙な技術、それに自身の倒産などの理由で不成功に終わっていた。以来同社はチタン製中空ファンに切替えて現在に至っている。当初のファンは、内部のハネカム構造をチタニュウム板2枚で挟む形式だった。次いで現在の業界での定番となっている2枚のチタニュウム板の間に不活性ガスを封入、隔離しながら圧着する「super-plastic forming, diffusion bonding (SPD/DB)」法を開発、現在に至っている。
コンピュータ流体力学(CFD=computer fluid dynamics)の発達で、これまでよりずっと精密なブレード設計ができるようになった。当初は、CFDは空気の流れの解析が目的だったが、今では複合材の製造にも使われるようになり、CFRP布を3次元形状に積層する作業等もこれで自動化されるようになった。GKNではCFDを使って、チタンブレードと同じ薄さで、複雑な3次元寸法通りに、CFRPの厚さを正確に変えながら成形できるようになった。
一般にCFRPブレードは軽くできるが、強度を保つために金属製ブレードより厚くしなければならない。厚くすると吸入空気流が減り、空力性能が落ちる。しかしCFDのお陰でCFRPブレードはチタンブレードと同じ厚さで、しかも軽く作れるようになった。
CFRPブレードは、織り込む繊維の方向を変えることで鳥衝突のような衝撃や荷重にも耐えられるように作られる。ブレード飛散試験では、CFRPでは破片が細かくなる、一方金属ブレードでは大型の破片が生じ損傷が大きくなるが、CFRPではこのような事がないことが判った。従ってファンケースが受持つ運動エネルギーは分散され、少ない強度でも耐えられ軽量化できる。ファンが軽くなればエンジンが軽くでき、パイロンも軽くなると云うことだ。
ファンのCFRP化で得られる軽量化についてRRは明言していないが、トレント級で500lbs(225kg)〜1000lbs(450kg)の利得があると云われる。
ブレードの耐久性を高めるため、前縁、後縁、翼端にはチタニュウムエッジを組込み、これで鳥衝突や日常の砂の吸込みなどによる損耗を防いでいる。特に前縁にチタンを取付けることで前縁をシャープにでき、空力特性が良くなる。
この新しいファンブレードの開発は、2007年からは英国政府の支援を受けて進められてきた。近く行なわれるフライトテストもその一つで、RR所有の747飛行試験機に、改修したトレント1000エンジンを取付け行なわれる。
このトレント1000には、フルセットのCFRPファンブレード(20枚)に加え、EUが進めているクリーンスカイALPS(Advanced Low Pressure System)計画により開発された低圧タービン(LPT)も組込まれる予定だ。
新CFRPファンブレードの量産化の準備も進められ、今年の1月には専用の新工場が開設され初期少量生産が始まっている。この成果を組込んだ軽量化・新トレント・エンジンは、2020年までには姿を現すだろう。
最後に競争相手のGEがすでに実用化している複合材製ファンブレードについて簡単に触れる。
図:(GE)GE90-115Bの複合材製ファンブレード。GE90-115Bはボーイング777-300ER用のエンジンで世界最大の推力115,300lbsを誇る。ファンは22枚構成で、ファン直径128㌅(3.25m)。素材は、繊維に捻れやボイドのない”carbon reinforced epoxy”を使っている。製造には最新のセンサ/データ記録システム、データ情報変換技術、圧縮成形技術、等を使う。すでに8年以上の使用実績があり、高い信頼性と低廉な整備コストを実証済みである。
図:(GE)2009年パリ航空ショウに展示されたGEnxエンジン、ボーイング787と747-8に搭載。推力は53,000~75,000lbsでGE90系列よりやや小さい。ファンブレードはGE90で実証済みの複合材ファンに準じて作られ、ファンバイパス比は9.6:1、ファンがエンジン推力の95%を受持っている。幅広のブレード18枚で構成され、金属製ファンの場合と比べ全体で159kg軽量化できた。JAL発注の787 (-8/25機+-9/25機、計45機)にはGEnxが搭載されている。
ボーイング777用のGE90それに続く777-9X用のGE90nx用として独自の製法による複合材製ファンブレードを使用している。またGE/スネクマはCFM Leapエンジン用に3次元編込み型複合材ファンを開発中だ。このLeapエンジンのファンには日本カーボンが生産する炭化硅素繊維「ニカロン」が使われている。「ニカロン」は軽さと強さ、耐熱性を備えた先端素材だ。
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