暴力団融資事件
2013-10-28 やぶにらみ左膳
大手銀行の一角を占めるみずほ銀行の系列信販会社、オリコを通じての230件、計2億円の暴力団融資事件は、「まだ懲りずに不祥事を繰り返しているのか」と唖然とした消費者が大半だろう。佐藤康博・現頭取までが、役員会で報告は受けていた、というから始末に負えない話となった。
大手の銀行のトップを務めた経済人は、「役員会では普通、暴力団絡みの案件は付属資料に添付されて報告される。日本の銀行は、1990年代のバブル崩壊時に、暴力団絡みの不動産融資で大損した苦い経験がある。以来、暴力団融資には神経を使ってきたはずだ」と、首をひねる。しかし、今回のような暴力団融資が温存された原因について、思い当たる節があるというのだ。
小泉政権が2003年厳しい方針を打ち出し、100兆円以上の銀行の不良債権処理を断行して以降、金融庁の指導で銀行の融資の現場では、著しくマニュアル化が進行した、という。銀行は、融資に値するかどうかの数値基準をあらかじめデータベース化し、それに合わせて振るい分けする手法が一般化した。「マクドナルドなどファーストフードチェーンが、従業員のお客様サービスをマニュアル化したのによく似ている。そうなると、銀行員が、融資相手を危険か、適格かを自主的に判断する余地はほとんど無くなってしまう。融資の自主的判断は、銀行員の命と言われてきたはずなのだが」という。
オリコのテータベースには、暴力団情報が手薄だった、と伝えられるので、マニュアルに依存して自動的に暴力団融資を続けた恐ろしい事態は否定できない。一方、暴力団の方は、警察庁のここ数年の厳しい立法規制を受け、銀行への提出書類は巧妙化する一方だ。金融機関のデータベースの方が、暴力団の悪知恵に追いついていない。国内の有力暴力団は、バブル崩壊以降、米国の先進金融技術に精通した人材をアドバイザーとして利用している、と言われ、金融機関より上手を行っている可能性大だ。
「指示融資の禁止」という、銀行員の自主的な融資判断を停止状態に追い込みかねない基準が、融資現場では今幅を効かせている、という。指示融資とは、例えば、金融機関の役員が、融資部門の現場の長に対して、企業名を具体的に挙げて融資の便宜を図るよう働きかけることを指す。銀行は、一般メーカーなどと比べて上下関係が厳しい組織だ。金融庁と銀行が、バブルの不良債権処理の苦い教訓として導入したのだろう。しかし、「成長戦略を掲げる安倍政権では、経営者の手腕と企業の技術力を自主的に判断して、将来有望な企業にはリスクを取って積極融資する必要がある。企業に目利きの上司なら、部下に融資を指示するケースがあって当然だ」と、先の経済人は指示基準の見直しを提言する。
日銀は、4月以降、毎月8兆円前後の国債などを銀行から購入し、銀行の手元資金は今あふれ返っている。住宅ローンとアジア向け融資は増え続けるが、肝心の国内企業向けは伸び悩む。銀行員の創意工夫を殺す融資の著しいマニュアル化に原因があるようだ。
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