–ボーイングとエアバスが競り合う市場のバランスが、JALのエアバス発注で変わるか–
2013-10-30 松尾芳郎
図:(Airbus)エアバスA350の2号機MSN3は2013-10-14午後2時半にツールース空港を飛び立ち、5時間の初飛行を完了した。これに先立ち去る6月14日に初飛行した初号機MSN1は順調に試験を続け70回、合計330時間の飛行を行なっている。試験飛行にはさらに3機が加わり、型式証明取得のため2,500時間の飛行をする。カタール航空への引渡し開始は2014年6月末が目標。今回のJAL発注でA350の確定受注は756機となり、競合するボーイング787の980機に迫ってきた。
図:(Airbus)2013年10月7日にJALはエアバスとの間で、A350-900(下)を18機とA350-1000(上)を13機、計31機の確定発注、他にオプション25機の購入契約を締結した。確定発注分31機の総額は、公示価格で9,500億円。就航は2019年からの予定。
2013年1~10月の受注機数 | これ迄の全受注機数 | |
エアバスA350 |
174機 |
756機 |
ボーイング787 |
133機 |
980機 |
図:受注機数は、両社が10月に発表した値(エアバス:今年/143機および全受注/725機、ボーイング:今年/132機および全受注/979機)を基にして、その後発表されたJAL/A350/31機とKAL/787/1機、をそれぞれ追加して表示した。全受注数では依然787が優位だが、今年に限ればA350受注が逆転している。
ボーイングとエアバスが競り合う世界の航空機市場のバランスがJALのA350選定で変動しそうだ。これ迄日本の市場はボーイングが90%を占めていたが、今回の契約で状況が変わるかも知れない。日本の航空宇宙業界はずっとボーイングと緊密な関係が続いてきたが、ここへ来てJALのみならずANAもエアバス発注に踏切る可能性が出てきた。またJALはこれで暫くはボーイング777Xを買うことはなさそうだ。
これに先立つ半年前、実はエアバスは米国でも同じ成功を収めていた。すなわち、アメリカン航空からのA320neo 130機を含むA320型機の合計260機の大量受注である。アメリカン航空は、少数のA300を除くとこれ迄ずっとボーイング製旅客機を使ってきたが、これでボーイングの牙城がアメリカでも崩れ出したと云う一例だ。
本来A350はボーイング787の対抗として開発が進められてきたが、その過程でA350はやや大きくなり、777-200あるいは-300型と競合する位置付けに変ってきた。これは今回のJALのA350選定の理由で”777の更新用“と云っていることでも頷ける。従って、図で示した「A350と787の確定受注比較」は、余り意味がないかも知れない。
エビエーションウイーク誌(2013-10-14/21)に、業界の専門家、テイール・グループのリチャード・アボウラフィア(Richard Aboulafia)氏(以下A氏と略称)とメルリリンチのアナリスト、ロナルド・エプスタイン(Ronald J. Epstein)氏(以下E氏と略称)のこの件に関するコメントが掲載されている。
A氏はエアバスの日本での勝利について「競争の流れが変わってきた、エアバスがA 350開発に力を集中した結果だ」と述べている。
一方ボーイングは、2011年以来顧客から求められていた777Xは、やっと来月のドバイ航空ショウで開発が公表される。
JALは現在777-300ER 13機を含む34機の777を運用中だが、これをすべて2019年から7年掛けてA350で更新する。A氏は次ぎのように続けている。「ANAは-300ERを 22機含む合計57機を使用中で、これを2020年頃から更新すべく、777XとA350を候補として検討している。ところが777Xは、ルフトハンザの777-9X購入覚書(確定34機+オプション30機)には、就航予定は早くても2020年とされ、ANAが導入を決めた場合はそれ以降となりそうだ。これではJALに遅れを取ることとなり、恐らくANAはA350の発注に踏切るのではないか」。
B氏は次ぎのように語っている「これまでボーングの幹部は、狭胴型機の市場は大変競争が激しいが、広胴型機の分野では独占的地位を確保して行きたい、と述べていた。今回のJALの発注は悪い予兆となるかも知れない。ただそうは云うもののボーイングの負けとは言い切れない、A350発注済みの35社のうち20社は依然としてボーイング機も注文しているからだ」。
A350の新しい対抗馬となるボーイング 777-9Xは、本ブログ2013-10-16掲載『エアバスA350XWBの概要』の末尾に示すように、777-300ERの胴体を2.13m延長し76.5mに、主翼は複合材製で幅71.3m、翼端折畳み時では64.8m、客室は3クラス標準で407席の仕様となる。つまり777-300や350席型のA350-1000よりも大型で、ボーイングの新型ジャンボ機747-8に匹敵するサイズになる。
前述のE氏は続けて「今回のJAL決定はサプライチェーンの再編成のきっかけになるかも知れない」とも述べている。これまで787で日本の3重工に与えてきた主翼、中央翼などの大型部品の注文が、ボーイング777Xプログラムでは変る可能性があると云うのだ。一方、エアバスは日本でのA350部品製造を拡大したいとしている。ボーイングは数十年にわたり日本企業と密接な関係を維持し、日本の航空宇宙産業の基盤を支えてきた経緯がある。
航空会社の方は、前述のように、JALは、JASとの合併に伴いJAS所有のエアバスA300を30機使っていたし、ANAはA320を暫く運航していた。しかし、長距離国際路線では、両社ともにボーイング機の独占状態が続いている。この他にエアバス機を運航しているのはA320を使う格安航空の数社がある。それにスカイマーク社、ここは2014年からエアバスの大型機A380 6機とA330-300をリースで導入しようとしている。
纏めとして云えることは、エアバスがA380や787の開発遅延の理由を仔細に検証、是正してA350の開発に取入れたことがA350のスムースな飛行試験に繋がった。それが相次ぐ大型受注の成功となり、大型機分野でボーイングを追い上げるエアバスの姿を示していると云うことだ。
–以上−