ー東京五輪が追い風にー
2013-11-04 豊島典雄
カジノはギャンブルを行う施設の一つであり、ルーレットやブラックジャックなどのゲームで金銭を儲ける場所である。日本では刑法185条や186条で賭博行為や賭場の開設が禁止されているため開設できない。
浮かんでは消え、浮かんでは消えるカジノ解禁問題だが、この臨時国会(12月6日まで)にカジノを合法化し、それを中心とした観光施設を整備するための「特定複合観光施設区域整備推進法案」(カジノ法案)が提出され、来年にも成立する可能性が高まっている。2020年の東京五輪までにカジノを中心にして、劇場や国際会議場、ホテルを併設する統合型リゾート(integrated resort=IR)が実現しそうだ。
もちろん、カジノ解禁には、犯罪の発生や青少年への悪影響、賭博依存症や多重債務者の発生といった懸念もある。あるいは暴力団の利権になる、官僚の天下り先になるといった批判がある。
それでも、解禁されると思われる第一の理由は国民の意識の変化である。賭博に伴う暗いイメージが薄くなっている。多くの日本国民がラスベガス、マカオ、シンガポール、韓国、大型客船内等のカジノで楽しんだ経験を持っているからである。
第二の理由はカジノ法案を推進する自民党、民主党、公明党などの超党派の議員による「国際観光産業振興議員連盟」(カジノ議連)が4月に再発足したことである。ここが11月に総会を開いて具体的な法案をまとめ、各党の了承を得てこの臨時国会(12月6日まで)に提出する。この議連の会長は細田博之・自民党幹事長代行(元幹事長)、事務局長は萩生田光一・自民党総裁特別補佐で、ともに安倍晋三首相も所属した清和政策研究会(町村派)の会員である。安倍首相と最も近い人脈が中枢を占めているのだ。議連の最高顧問は安倍首相、麻生太郎副総理、石原慎太郎・日本維新の会共同代表と小沢一郎生活の党党首である。
この議連には日本維新の会、みんなの党、生活の3党の議員も参加しており、約150人の会員がいる。下村博文文部科学大臣も議連のメンバーで「カジノがつくれたら、売り上げの相当部分を文化芸術の財源として活用したい」と語っている。
安倍首相も3月8日の衆院予算委員会で、シンガポールやマカオのカジノ成功例に言及しつつ、「私自身は、メリットも十分にあるなと思う」と述べ、カジノ合法化に具体的に言及するまでに至っている。このカジノ解禁に反対している政党は共産党と社民党だけになっている。
第三の理由は現在、カジノは世界の120カ国以上で合法化されており、2000件以上のカジノが存在しているということである。世界の先進大国が参加するG8で、カジノを合法化していないのは日本だけになっているということである。
第四の理由は、アベノミクスの三本目の矢である成長戦略の目玉になるということである。「成長戦略といってもなかなか目玉がないんです」(自民党幹部
A氏)。国家戦略特区にカジノを含むリゾート施設が建設されば、経済効果が大きく町興しどころか国興しにもなるというのだ。税収も上がり雇用増にもな
る。
世界のカジノビジネスの市場規模は2010年現在で1176億ドル、2015年には1828億ドルに拡大すると予想されている。カジノは世界で注目を集める成長事業になっている。世界最大のカジノ市場はラスベガスを擁し、世界の約50%、約575億ドルの市場規模を占める米国である。
経済効果だが、シンガポールでは、2010年にオープンした二つのリゾート型施設によって、外国人観光客は開業前の約968万人から翌年には1160万人にまで拡大し、観光収入はいきなり前年の1.5倍になり、GDPを1.7%押し上げる効果があった。約6万人の新規雇用が創出されている。「日本でカジノが実現すれば、これ以上の成果が期待できる。五輪との相乗効果で経済成長の大きな起爆剤となる」(柿沢未都・衆院議員)。
「証券会社のCLSAは、日本でカジノ解禁後に大規模カジノリゾート施設が2か所できれば、それらの施設から生まれる娯楽関連収入は少なくとも100億ドル規模になり、シンガポール(59億ドル)や米国のラスベガスを上回ると試算している」(ロイター通信4月24日)。「ラスベガスに本社を置くユニオン・ゲーミング・ グループは、日本でのカジノ収益は1兆5000億円に上る可能性があり、アジア第二の市場になると予想する」(英フィナンシャル・タイムズ紙、10月25日)。世界最大のカジノ都市はマカオである。2日の日経新聞によれば、10月のカジノ収入は約4500億円。
日本でカジノが開設された場合、市場規模は2兆~3兆円、経済波及効果は4~7兆円、誘発雇用人員は49万人~78万人と計算している研究者もいる。
第五の理由は五輪成功と観光立国推進という大義である。カジノを中心としたリゾート施設が実現すれば五輪見学に来る海外からのお客様に日本をより楽しんでもらえるということである。そして、海外からの観光客も増える。
今や2020年の東京五輪は水戸黄門の印籠のようなものになっている。「この紋所(五輪)が目に入らんのか」である。「五輪成功のため」は最高の権威となっている。
予想される今後の工程表としては
①、来年にも特定複合観光施設区域整備推進法案を成立させる。
②、その後、特定複合観光施設区域実施法案を成立させる。
③、規制機関を設置し、民間事業者の選定準備や実際の運営に際しての監視・監督のための体制が整備される。
④、誘致を希望する地方自治体の申請に対する審査がなされ、特定複合観光施設区域が指定される。
⑤、指定を受けた地方自治体は、公募により特定複合観光施設の計画・投資・開発・整備・運営を行う民間事業者の選定を行い、開発協定を締結する。
⑥、選定を受けた民間事業者は、国の規制機関に対して免許を申請・取得するのと並行し、本格的な開発を進めていく。
関係者は2020年の東京五輪開催までの開業を目標としている。
–以上−