−中期防で導入が決まった陸自の新鋭戦闘車、退役する74式戦車の更新用–
2013-12-21 松尾芳郎
図:(防衛省技研)2013-10-09防衛技研本部・相模原陸上装備研究所で公開された陸自用の機動戦闘車、2016年に制式化されれば「16式機動戦闘車」と呼ばれよう。道路のみならず不整地走行も可能。射撃統制装置や射撃反動抑制機構には10式戦車の技術が採用され、52口径105mmライフル砲の走行中の射撃性能は他国の装輪戦闘車より遥かに安定、優れている。開発費総額は178億円と云われる。
図:(防衛省技研)ターレット式砲塔を正面から見たところ。砲塔前面は楔状で中空増加装甲を備えている。中央が52口径105mmライフル砲、その直ぐ右には7.62mm同軸機関銃、砲塔上面には12.7mmM2型重機関銃が装備される。正面からみて左に砲手、その後に車長、右に装填手が座る。砲塔両側にあるスリット状窓はレーザー検知器、砲の左には砲手用直接照準眼鏡、その左上部にはフード付き砲手用サイト。砲塔中央上部の棒状は起倒式環境センサー(タレス社製)、これは射撃に必要な風向風圧を計測するための装置。
ここで採り上げる機動戦闘車(MCV=Maneuver Combat Vehicle)は、防衛省技術研究本部・陸上装備研究所(相模原市)が主管し、三菱重工が受託、2007年度から開発中の車両。これまでに4台が試作され、2013-10-09に報道陣に公開されたのは2013年9月に完成したばかりの4号車である。
8輪駆動の車両に52口径105mmライフル砲を備え、総重量を26㌧に押さえてある。高速道路を時速100kmで移動でき不整地走行も可能、また、空自に配備中の新型輸送機C-2に搭載できるので機動性が高いと云うのが特徴だ。遠隔地の島嶼防衛や市街地ゲリラ戦などで歩兵部隊(普通科)の前進援護をする直接戦闘射撃を想定していて、走りながら目標を捉え正確に射撃できる。公表された動画によると、スラローム走行しながら横向きに射撃する場面で、外国の同クラス機動戦闘車に比べて遥かに素晴らしい安定性を見せている。次ぎの動画は各国の装輪装甲車の射撃時の様子を比較した”Kouwa316”サイト作成のYouTubeである。陸自の「機動戦闘車」射撃場面は最後に出てくる。
機動戦闘車は全長8.45m、幅2.98m、高さ2.87m、重量26㌧、で米国のストライカー(M1128 Stryker MGS)やフランスのAMX-10RCより少し大きく、イタリアのB1チェンタウロ(B1 Centauro)とほぼ同じサイズである。エンジンは三菱重工製水冷直列4気筒デイーゼル、最大出力570ps/2,100rpm、車輪は、4軸8輪のうち前部2軸4輪が操縦用、全輪独立懸架方式で、動力は車体底面中央のドライブシャフトからギアを介して各輪に伝えられる。
車体は防弾鋼板の溶接構造、砲塔前部等は中空式増加装甲が取付けられる。車体前方左側はエンジンと自動変速機などのパワーパックが収納され、また右側は操縦席、ハンドルで走行操作をする。車体中央部はターレット式砲塔と戦闘室で車長、砲手、装填手が乗務する。車体後部は弾薬庫と予備室になっていて、後部ドアから出入できる、弾薬搭載量が少ない場合は兵員4~5名を収容できるらしい。
52口径105mmライフル砲は、日本製鋼所が新規開発したもので、74式戦車用の51口径105mm砲を基本にし、1口径分だけ砲身を延長してある。砲弾は既存の対戦車用105mm砲弾を使う。砲口付近には螺旋状に開孔された多孔式マズルブレーキを備える。なお、ベースとなった74式戦車の主砲は英国のRoyal Ordnance社製のL7型戦車砲を日本製鋼所がライセンス生産したもの。
26(2014)中期防では、新設される3個機動師団および4個機動旅団に配備するため99輛を調達する。新防衛大綱によると、本州に配備されていた74式戦車(推定280輛)は逐次退役し、新しい機動戦闘車がその後継となる。2035年(平成35年度)までに新機動戦闘車を300輛程度まで増やす予定と云う。
こう書くと、我国も国防に本腰を入れるようになったと感じる向きが多いと思う。米国の場合はどうだろうか。米国には同種の装甲車として105mm砲搭載のストライカー(Stryker)がある。1999年末に「ストライカー旅団構想」が発表され、その中核にGeneral Dynamics Land Systems (GDLS)社が開発した「LAV-III」が「ストライカー」として採用された。各種派生型を含めこれまでに約3,000輛が作られている。これ等は定員3,900名とされるストライカー旅団6個旅団と1連隊の配備されている。これに比べると我国の機動旅団構想は14年遅れでやっとその整備が緒に就いたばかり。早急な体制整備が望まれる所以である。
本稿作成に参照した記事は次ぎの通り。
機動戦闘車-Wikipedia
防衛省技術研究本部、研究開発:技術開発官陸上担当発表
その他
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