都知事選挙;舛添支援の連合と細川支援の民主党


–マニフェスト・政策に反する候補を組織的勝手連で支援する民主党に、異議申し立ての連合–

2014-01-31  元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫

組織的勝手連とは、日本語として不可解。言葉の「ねじれ」

1月23日告示、2月9日投票の東京都知事向けて、民主党の東京都連(松原仁会長)は、告示直前の1月15日になって、ようやく「組織的勝手連」として細川護煕氏を支援することを常任幹事会で確認した。

組織として推薦・支持するということではないが「他の候補の応援は困る」(松原仁会長)と、よくわからない対応である。

この方針、対応について、民主党東京都連でも異論も多く出された。

異論といっても反対論であり、

1) 脱原発の細川候補は、民主党の政策(下記)と違う、

2) 連合東京との関係が問われることがあってはならない、

3) 細川陣営には政策協定を結ぼうという動きもない、

などである。

 細川陣営の方針は、党派性を薄めるためなのか、民主党議員の街頭演説は拒否、公選葉書による支持者紹介は不要、ポスター貼りも23区内は人手があり不要だが、三多摩地区は民主党地方議員の手を借りたい、というもの。

 民主党議員は街頭に出るな、と言いながら、三多摩などではポスターを張ってほしいという。(公示直前になって23区内のポスターも、民主党に貼って欲しいとの依頼があった)

 細川支援陣営には、おおむね3つのグループがある。ひとつは日本新党グループで、野田佳彦、海江田万里、松原仁、長浜博行、松野頼久など。2つは井出正一などの旧さきがけグループ。3つは小泉チルドレンの元衆議院議員の馬渡龍治氏(1月27日に細川選対事務局長を解任された)らのグループ。

 民主党東京の方針は支離滅裂である。そもそも「組織的」と「勝手連」は、対語である。組織されないから勝手連であり、勝手に行動するから組織的でないのである。組織的勝手連は、言葉の「ねじれ」そのもの、日本語として不可解であることは言うまでもない。

応援団無視の身勝手「民主党」

 都知事選に対し、連合東京は1月18日に三役会議で舛添要一候補の推薦を決定。週明けの20日に舛添候補と3項目の政策協定を締結した。つまり連合は、民主党が支援する候補を敵に回し、自民党が推す候補者の支援を決定したのである。マスコミの従来型の報道では、最大の民主党支援組織である連合は、考え方も行動も民主党と同じと見られていたために、奇異な感じを受ける。

 そもそも労働組合と政党では、組織の成り立ちも行動原理も違う。民主党と連合はそれぞれが独立した組織であり、すべての選挙で100%共同歩調をとれるわけはない。とりわけ地域特有の事情や利害が絡む地方選挙での対応が異なることは、これまでもあった。

 連合東京・大野博会長は、「15日に舛添氏と会談し、支援要請を受けた。雇用・労働政策などで考えが同じであった」「細川氏側からは支援の申し入れがなかった」と説明。連合東京の三役会議では「自主投票にした方がいい」などの意見も出たが、舛添氏支援でまとまった。舛添氏は厚労相の経験もあり雇用・労働問題に明るく、連合の最重視する雇用・労働政策と舛添氏が協働できるという判断となり、政策協定の締結となった。

 都議選の争点として浮上しているエネルギー政策について、「即時原発ゼロ」を掲げる細川氏と連合の主張は異なっている。連合の「2013年度の重点政策」は、次のように確認している。

「原子力エネルギーに代わるエネルギー源の確保、再生可能エネルギーの積極推進および省エネの推進を前提として、中長期的に原子力エネルギーに対する依存度を低減していき、最終的には原子力エネルギーに依存しない社会を目指していく必要がある。その際、『安全・安心』『エネルギー安全保障を含む安定供給』『コスト・経済性』『環境』の視点から、短期・中長期に分けた検討を行う必要がある」。一方、舛添氏は記者会見で、「省エネ、分散型の発電、自然エネルギーの比率を増やす努力をしたい」「原発に依存しないで良い社会は大多数の人にとってコンセンサスになりうると思うが、風力は安定性や価格の問題があるし、原発がなくなった時に代替エネルギーをどういうパッケージでやるのかを考えなければならない」と述べており、舛添氏の政策の方が連合のエネルギー政策に近いといえる。もっとも国策であるエネルギー政策が、都知事選のメインの争点に設定されること自体を疑問であるが。

政策・マニフェストに反する候補を支援する民主党の支離滅裂

 ちなみに民主党のマニフェスト(政権時の2012年)は、エネルギー政策について「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入」「再生可能エネルギーを飛躍的に普及させ、省エネを劇的にすすめることが不可欠」「原発再稼働については、原子力規制委員会の安全確認を得たもののみとする」としている。

 明らかに、即「原発ゼロ、再稼働反対」の細川候補の公約とは違うし、お世辞にも政策協定を結べるものではない。

 そもそも連合が民主党を支援してきたのは、雇用・労働政策や子育て支援、さらにはエネルギーも含めた「政策の一致」である。政策実現のために連合は、これまで民主党と支持・協力関係を築いてきたのである。つまり連合には、即「脱原発や原発ゼロ」という選択はなかった。

 東日本大震災による原発事故が、なぜ大事故となり、多くの住民を避難させる状況になったかは、当時の菅直人内閣が事故への初動対応を間違えたからである。原発の存在そのものではなかった。

 福田博幸著「公安情報に学べ!」(日新報道刊) は、次のように指摘する。

震災後の事故時に在日米軍は、原子炉の爆発による放射性物質の飛散を防ぐため、大量の冷却剤を即時に投下散布するよう菅総理に進言し、ヘリの発着場として最短で往復作業の可能な学校の校庭の提供を要請した。

ところが菅総理は、在日米軍の冷却剤散布の申し入れを拒否した。菅総理は 「学校の校庭から米軍のヘリが発着する光景は戦争のようであり、そのような光景は私の思考の中には無い」という理由だった、とされる。人々の命が危険に晒されているときであり、即座の対応が求められていたにもかかわらず、在日米軍の全面的な協力を、菅内閣は拒否したのである。

 その結果、3月12日15時31分、福島原発一号機と三号機それぞれの建屋内にある「使用済み燃料貯蔵プール」が冷却不足のため水素爆発、大量の放射性物質が飛散するという事態を招いてしまった。(ただし原子炉本体である圧力容器と、それをカバーする格納容器は破壊していない)

細川ブランドに乗り、低迷脱却が民主党の本音か?

そもそも東京都の政策課題は、

1) いつ起きても不思議ではない首都直下型地震の対策、

2) 子育て支援、待機児童対策、

3) 教育、社会保障、

4) 2020年オリンピック・パラリンピックの成功、

などである。

 これらの課題よりも、国策である原発の是非を争点にしようという細川陣営に、民主党が擦り寄っている。その理由は、選挙では惨敗の連続で低落一方の民主党を、細川ブランドに乗せたいということではないのだろうか。

 かつて昭和42年(1967年)に美濃部亮吉氏が都知事候補になったとき、いわゆる山の手マダムなどとともに、元来は保守的な層も、政策も関係なしで「美濃部ブランド」で票が流れたことがあった。当時、自民党の地方議員すらも公然と美濃部批判を躊躇する勢いであった。そのブームを細川候補に期待し、党勢の回復につなげたいという思惑が見える。

 当時、山の手マダムと言われた層は、死語となった。バブルによる地上げ、バブル崩壊による相続税・固定資産税の負担、20年間のデフレなど人口減少で消滅した。実際、渋谷区の都議の定数は、4名から現在は2名となっている。

 民主党は、細川ブランドに乗って党勢の浮上につなげたい思いは強いが、美濃部ブランドの再来は絶望である。逆に細川陣営からも、連合や支援者からも、有権者からもソッポを向かれるであろう。

−以上−