–ロンドン・ヒースロー空港で火災のため、胴体後部クラウンエリアが焼損したエチオピア航空787は修理が完了し、昨年12月21日に試験飛行を完了、その後23日から運航に復帰している–
2014-03-08 松尾芳郎
図:(Wiyiyit)ロンドン・ヒースロー空港貨物地区で修理中のエチオピア航空787。垂直尾翼を取外してある。
火災が起きたのは昨年7月12日、エチオピア航空機が到着し全員が降機した後の駐機中のことだった。英国航空事故調査部局(AAIB)によると、火災の原因は後部胴体客室天井に取付けてある非常用位置通報装置(ELT=Emergency Locator Transmitter)内のリチウム・バッテリーの取付け方法が誤っていたため、と判明した。
ELTの発火で客室後部の天井が燃え、その火炎で複合材製胴体後部の垂直尾翼取付け前縁部のクラウンエリアが広範囲に焼け焦げたのである。調査の結果、焼損箇所は後部胴体(Section 47)と尾部(Section 48)にまたがり、交換が必要なスキンの大きさは、長さ25㌳(7.63m)、湾曲幅18㌳(5.49m)、と判定された。
ボーイングの787修理担当部長マイク・フレミング(Mike Fleming)氏は、Aviation Week 誌に対し、本件の修理に関しておおよそ次ぎのように語っている。
「787導入当初から、複合材製機体の損傷、すなわち『トラックが機体の横に衝突』、『ノーズギアが折損』、『尾部がランウエイをヒット』、『ドア周辺の損傷』などについては、予め想定し修理出来るよう準備を進めていた。今回のELTの発火は予想外であったが、これまで検討してきた解析方法、修理手法を援用して解決することができた。」
「今回の損傷に対してボーイングは、787の第2の生産ラインであるノース・チャールストン(North Charleston, S.C.)工場で胴体尾部バレルを製作し、そこから修理に必要なクラウンエリア(約7.6m x 5.5m)を切り取り、ロンドンに搬送した。損傷を受けた787はヒースロー空港の南側の貨物地区に移して垂直尾翼を取外し、修理のため仮小屋で胴体を部分的に覆い、焼損したクラウンエリアを切除した。
それから到着した新しいクラウンエリア・パネルを取付けた。新パネルは予めストリンガー(縦通材)とフレーム(枠)が接着されており、取付け後に機体側の対応するストリンガーおよびフレームにスプライス・プレート(当て板)を使って接着し、ボルト締めで結合した。従って修理箇所は、接着と機械的結合を組合わせた形なっている。作業は完璧に行われ、我々のAOG(Aircraft-on-ground)チームが成し遂げた成果を賞賛したい。」
(注)AOGチームは大修理が必要な場合に、ボーイング社内から専門家を集めその都度結成され、修理に赴く。
このAOGチームについては、苦い経験がある。御巣鷹山日航機事故(1885-08-12)はJA8119号機で起こったが、同機はその7年前に大阪で尾部接触事故を起こし(1978-06-02)、その修理をしたのがAOGチーム。この作業が間違っていたため、後日後部隔壁が疲労破壊、事故の主因となった。
複合材修理の一般的方法
フレミング氏の本件に関わる話はこれだけだが、併せてしばしば遭遇する複合材修理について次ぎのように解説している。
1) 落雷による傷(lightning hit)
これまで20件以上を調査したが、複合材は導電性が良いため大きな損傷にはならない。経験した最大の落雷は、787就航直前(2011年10月)に起こった。この時はかなり大きな孔が開いたので、取り敢えず湿気を防ぐためにシーラントで塞ぎ、後日開口部を整形して4㌅x7㌅(10cm x18cm)のパッチを当てて接着修理をした。いわゆる“パッチ修理(patch repair)”である。その後経験した落雷はいずれもごく僅かな損傷で表面に変色が起きる程度。
2) ランプ作業で起きる傷(ramp rash)
ランプ作業では、細かい傷を多く経験するが、殆どが許容範囲内である。これ等の場合、傷口から湿気が入らないようにテープをする必要がある。湿気が入ると氷結、膨張して複合材内部にポーラスを生じ剥離の原因になる。勿論傷が大きい場合は、パッチ当て接着修理が必要である。目視判定が難しい場合は超音波探傷器を使うと良い。
3) 大きい傷の修理・スカーフ接着法 (bonded-scarf method)
複合材含浸シートをレイアップして成形する際に用いる真空接着法を適用する。損傷箇所の層を剥がし正常な層に達してから、真空シートで覆いながら修理用含浸シート(スカーフ)を1枚ずつ積層して接着、復元する。
4) 急速接着パッチ法(quick-cure patch process)
パッチ当て修理で接着剤を塗布し、化学加熱パックで、接着箇所を加熱し化学反応を促進させる方法。これだと1時間程度で修理が終わる。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
The Seattle Times, Jan.9. 2014, “Ethiopian 787 flying again after secretive repair of fire damage” by Dominic Gates
Aviation Week, Dec. 21. 2013, “Ethiopian 787 Returns to The Air” by Anthony Osborne and Tony Osborne
Aviation Week, Mar. 3. 2014, “The Fix Factor” by Guy Norris