2014-04-17 松尾芳郎
2014-04-18 Revised
1979年にスエーデンは、同国の主力戦闘機サーブ35ドラケンおよび同37ビゲンの後継としてJAS 39グリペン(Gripen)の開発を決めた。JAS 39は1988年に初飛行、1997年から配備が始まり、改良を重ねながら輸出にも力を入れ、これまでに250機ほどが生産された。
これをベースに、エンジンをGE製に、レーダーをAESA型に換装、内部燃料タンクを40%増量したのが、開発中の「JAS-39E/Fグリペン」である。すでにブラジル、およびスイスからの受注に目処がついている。
図:(Saab)スエーデンのサーブ(Saab)社が作る4+世代戦闘機「JAS-39Eグリペン(Gripen)」の完成予想図。前身となる「JAS-39C」とほぼ同じ形だが、若干大きくなり、コクピットの右前に“赤外線探知追尾装置”(IRST=infrared search and track)が新設され、垂直尾翼前縁付け根の冷却空気取入れ口の設置が外見上の違いとなる。
図:サーブ[JAS 39]グリペン戦闘機の比較表。現在の「JAS 39C/D」と開発中の「JAS 39E/F」の間には構造やシステム装備品の一部に共通性があるものの、「JAS 39E/F」は新規開発の機体と云ってよいほど変っている。しかしC/Dで培った兵装関係装備や関連ソフトは、その経験を充分活用している。
前身のJAS 39Cグリペンは、スエーデン空軍のみならず、南アフリカ、チェッコ、ハンガリーなど各国の空軍が使用中で、デルタ翼、機首にカナードが付き、フライバイワイヤ操縦システムを採用、単価は約70億円。
これを基本にして開発中のJAS 39E/Fグリペンは、試作モデルの複座型グリペンNGがすでに飛行中で、エンジンはGE製F414Gを搭載している。これは米海軍の主力機F/A-18E/Fに2基搭載されているF414-GE-400とほぼ同じで、最大推力は22,000lbs、アフトバーナ無しで(14,400lbs)、これで 重さ16㌧の機体の超音速巡航を可能にする。
図:(Saab)JAS 39E/Fグリペンに搭載されるES-05 Raven AESAレーダー。英国スコットランドのSelex社が開発したレーダーで、窒化ガリウム(GaN)送受信素子約1,000個から成るアンテナ面、このアンテナ面自体も可動式なので探査範囲が広い。
レーダーは、機械式スキャン方式のエリクソン&GEC製PS-05Aを、Selex 製ES-05 Raven AESA(電子式スキャンアレイ・レーダー)に変える。この新レーダーは同社のVixen AESAレーダーの一つで、これにSkyward-G型赤外線探知追尾センサー(IRST=infrared search and track)を組み合わせて、飛来する目標の熱を探知する。これでステルス性巡航ミサイル等の飛翔体の迎撃が可能となる。
一新された電子装備に付いて付け加えると、レーダー・システムにはこれまでのガリウム–砒素(GaAs)半導体素子に代わり、出力が3倍にもなる窒化ガリウム(GaN=Gallium Nitride)半導体素子を使う。そしてレーダーに「情報、監視、偵察」(intelligence, surveillance and reconnaissance)の機能を持たせる。さらにSelex-ES製の新型デコイ(Brite Cloud expendable active decoy)を装備し、ロシア製の新型対空ミサイルの脅威に対抗する。併せて次に述べる機体構造改修で、JAS 39Cに比べてレーダー反射面積(RCS=radar cross-section)をかなり少なくしている。
JAS 39E/Fは、ランデイングギヤを再設計し、これまで胴体内に格納していたのを、主翼付根のバルジに収めることにしたので、燃料タンクの容量が2,400lbs (1,000kg)ほど増える。ノーズギヤも従来の2輪式から大型の単輪に改め滑走路に設置する非常用停止ケーブルが使えるようになった。
機体構造も変更され、主翼–胴体フレームは主翼途中の内側パイロンまで延長され、そこで外翼と繋がるようになる。胴体の膨らみも僅かに変更され燃料タンク容量を少し増やしている。これ等の機体再設計で、搭載荷重が増えたにも拘らず空虚重量を減らすことに成功した。
スエーデン政府は昨年1月にJAS 39E(単座型)60機購入を決定し、スエーデン空軍は2018年から引渡しを受ける。JAS 39Eの初号機の初飛行は2015年に予定されている。
ブラジル政府は、昨年暮れに36機の新型グリペンの購入を決定し、2014年秋までに契約すると発表している。サーブによると単座型JAS 39Eが28機と複座型JAS 39Fが8機になる予定。
スイス上下両院は、2013年秋に22機の新型グリペンの購入予算を承認済み、発注は今年5月に行われる国民投票の結果を待って行われる。機種はJAS 39E単座型である。
図:(Saab)JAS 39Eグリペンの見取図。前身のJAS-39Cに比べ全長、翼幅、全備重量等はいずれも大きくなっており、エンジン、レーダーも本文説明のように変更され、殆ど新開発機と云って良いほどの機体になっている。
むすび
我が空自用のF-2攻撃戦闘機の改良プログラムをスエーデンのJAS 39Eグリペンと比較すると、興味深い。F-2が全備重量22㌧でJAS 39Eグリペンより重く、その分エンジン「IHI/GE F110-IHI-129」推力も131kNで大きくなる。電子装備はF-2では、三菱電機製の「J/APG-1 」AESAレーダー(GaN素子使用)とやはり三菱電機製の「J/AAQ-2」外装型赤外線探知追尾装置を装備する。これ等を含み電子装備全般ではF-2に一日の長がある。F-2の改修は2009年度から始まり2016年頃には完了する見込みだ。
しかしJAS 39Eは開発がやや遅れているものの輸出では大きな成果を上げている。最近我国の武器輸出規制が緩和されたので、F-2の輸出にも期待したいと思うのは間違っているだろうか。
–以上−
本稿作成に参照した記事は次ぎの通り。
SAAB “Gripen, The Multi-role Fighter,“Future Development”
Aviation Week Mar. 17, 2014, page 28 “TheContender” by Bill Sweetman
TokyoExpress 「航空自衛隊、装備近代化へ大きく前進」2014-02-27
その他