―自らの身を切らずに増税かー
政治アナリスト 豊島典雄
4月末で期限切れになる国会議員(定数は480人、参院242人)の歳費の2割カットが継続となるかどうかが注目されていたが、元に戻ることになった。「議員歳費、また満額に 復興進まぬ中で『身を切る改革』終了」(東京新聞4月29日)である。
「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」(日本国憲法第15条)。この歳費2割削減問題で、国民への奉仕者であるべき国会議員の姿勢が問われたが、世間の常識は通じなかったようだ。国民にはこれからも増税などの痛みは続くが、議員先生は別なようだ。
法律では、国会議員の1年の歳費は期末手当などを含めると2160万円余り。しかし、2割削減でおよそ1685万円に抑えられていた。
あの東日本大震災の復興財源を確保するために平成24年5月に13%削減し、同年末に議員定数削減が実現するまでの措置としてさらに7%削減した。国会議員は、本音では歳費の2割カットはやめたかったのである。だから、2割削減という特例措置を続けるかどうかをめぐり、与野党間の意見集約が難航した。まとまらなかった。時間切れである。
各党の姿勢は
自民党の石破茂幹事長は「借金してでもいろんな事務所の運営費に回しているものが多いという中で、議員が生活に困窮するのはいかがなものか」と歳費削減には消極的で、民主党や共産党は「検討中」。一方、公明党は「議員定数の削減にめどがつくまでは(歳費カット)を継続すべき」(山口那津男代表)として、議員定数の削減が進んでいないことから、歳費の7%減額分だけを継続する法改正を主張していた。
党内で意見が大きく揺れたのは日本維新の会である。国会議員団はいったん1割削減に緩和する方針を固めたが、橋下徹共同代表が4月13日、党所属議員へのメールで「公約は3割だったはず。全く納得できない」と批判したほか、日本維新の会と地域政党の大阪維新の会の「分党」の可能性にも言及して見直しを求めた。結局、橋下氏の「恫喝」が効いて3割削減という公約に戻った。初心忘るべからず、である。
結いの党も3割カットを訴えていた。みんなの党は公約に当たるアジェンダで「給与3割、ボーナス5割カット」を掲げていた。維新と結い、みんなの党は4月24日に、2016年12月末まで新たに3割削減する法案を衆院に共同提出した。
各党間の意見集約が難航したのは「議員の懐事情から元に戻したいのはやまやまだが、消費税率を8%に引き上げた直後だけに世論の反発が気になるからだ」(4月18日15時09分の朝日新聞デジタル)。国会議員の本音では、大政党が悪役になって、歳費2割削減を終わりにしてほしかったのだ。結果的にはその通りになった。
国会議員には歳費以外の収入がある
国会議員の収入がこの歳費だけなら、国会議員の本音も分からなくもないが、国会議員には税金からなる別の収入やさまざまな特権がある。
① 文書通信交通滞在費が月100万円、年間1200万円が支給されている。歳費2割削減でも、歳費と文書通信交通滞在費を合わせれば、年収2685万円である。
② 立法事務費が国会議員には、月65万円、年間で780万円支給されている。ただし、所属会派の懐に入る。
③ 国会議員は公設秘書を3人雇えるが、その3人分の人件費は2300万円である。息子や娘を公設秘書にしている者もいる。
④ 激安議員宿舎。たとえば、豪華議員宿舎として話題になった衆院赤坂議員宿舎(平成19年完成、総事業費334億円)は一議員あたり82㎡で、月9万2000円の家賃は、一昨年引き下げられて月額8万4291円。不動産鑑定士によると民間の賃貸なら月42万円になるという。サラリーマンなら年間500万円の負担になるが、国会議員は100万円の負担ですんでいるのだ。400万円得していることになる。大変な特権ではないか。
古い議員宿舎の中には、一等地にありながら家賃一万円台のところもある。
⑤ ホテルのような快適な議員会館。一人の議員に1100㎡のスペースが提供されている。ただである。光熱費など使い放題である。一議員あたり2377万円の血税がかかっているという。
⑥ 選挙区との往復に使う航空券、グリーン車にも乗れるパスも提供されている。国費で海外旅行(=海外派遣)という機会もある。
⑦ 国民一人当たり250円負担している政党助成金(年間320億円)の一部が政党本部から国会議員が支部長を務める政党支部に支給されている。年間1千万円振り込んでいる政党もあった。公私混同の使い方が時々問題になっている。
⑧ 政党の財政は政党助成金に大きく依存している。政党によっては、盆暮れに、国会議員にもち代、氷代と称して現金を支給している。税金が回っているのだ。昨年の暮れに自民党は所属議員にもち代を100万円ずつ支給している。かっては250万円から300万円が支給されていた。
⑨ 政治献金も受けられる。しかも、公私混同の使い方がなかなかなくならないではないか。
国民の痛みは強くなるばかり
先週も政治家の「励ます会」と称する金集めパーティーをのぞいてみたが、バブル時代だと比べると参加者が格段に少なくなっている。「懐はさびしいよ」(自民党のベテラン議員)という。しかし、一般庶民は月給や年金しか収入はないのである。議員さんのようにいくつもの財布があるわけではない。特権もない。
「給料の 上がりし春は 八重桜」。安倍首相は「桜を見る会」で企業のベースアップ実現を自作の俳句で自賛した。確かに、大企業のサラリーマンは賃上げでアベノミクスの恩恵を受ける。デパートで高額品が売れている。安倍内閣になり、日経平均も昨年は急上昇した。しかし、一般庶民の懐はさびしくなるばかりである。例えば、
① 新年度から、消費税は8%に引き上げられた。
② 東日本大震災の復興財源としてすでに所得税は引き上げられているが、住民税も引き上げられた。
③ 70~75歳までの方の医療費の窓口負担も、この4月に70歳になった方から引き上げられた。1割負担が2割負担になったのである。
④ 現役世代の年金保険料は引き上げられた。
⑤ 年金世代は年金をカットされた。
――これで終わりではない。消費税率は来年10%に引き上げられることになっている。困窮しているのは政治家ではない。一般庶民である。痛みの連続である。議員さんに「先憂後楽」の姿勢を望みたかった。
身を切る改革は掛け声倒れ
先週、話をしたベテラン議員も「秘書が議員会館に4人、地元に8人います。福利厚生費を含めると1人当たり600万円かかります。人件費も大変です」と話していた。だが、「金がかからない小選挙区中心の選挙制度になったはずではないか。金がかかるのではなく、かけているのだ」という批判もある。
今週会ったベテランの政策秘書Aさんは「衆院選が中選挙区制から小選挙区制中心になっても、有権者の意識は変わらないので、相変わらず金がかかります」と言っていた。Bさんも「忘年会、新年会出席などは昔と同じ回数出席しています。100回をはるかに超えています」と言う。有権者、政治家の意識改革が必要である。
国会議員定数の抜本的な削減は行われていない。人口3億余の米国は日本の参議院(定数242人)に当たる上院議員が100人である。日本の衆議院(定数480人)に当たる下院議員は435人とスリム、筋肉質である。
国会議員歳費2割削減は何のために行われたのか。東日本大震災被災地の復興はどれほど進んだのか?国会議員定数は抜本的に削減されたのか。
東日本大震災の復興はまだまだである。議員定数の抜本的な削減や東日本大震災の復興のめどがつくまで、歳費の2割削減は続けるべきであった。しかも、わが国は一千兆円を超える借金大国である。財政再建は待ったなしではないか。身を切る改革が求められているのではないか。国会議員のことを選挙で選ばれた立派な人という意味で「選良」ともいう。選良の名に恥じぬ判断を期待したかった。
–以上−