米空母打撃群(CSG)に挑戦する中国の巡航ミサイル


—米空母は西太平洋上で中国巡航ミサイルの飽和攻撃に耐えられるか–

 

2014-06-26 松尾芳郎

 3M54Eシズラー

図:(Novator)ロシア・ノバトール設計局が開発した 「3M54E シズラー(Sizzler)」超音速対艦ミサイル。中国海軍はロシアから購入した“キロクラス”潜水艦(12隻配備中)用として購入配備している。国産化モデルは”YJ-18”と云う。シズラーには地上、航空機、それに潜水艦発射型など大別して5種の派生型がある。発射後、海面上10mの高度で飛行、予め入力された複雑な航路をたどりレーダー網をくぐって亜音速で目標近くまで飛び、18kmほどに接近すると弾頭部分が分離、ロケットでマッハ3の超音速に加速、目標に衝突、200-400kgの高性能炸薬が破裂する。潜水艦発射型は533mm魚雷発射管(Klub-S)あるいは垂直発射管(Klub-N)から発射できる。射程は200km。

YJ-12超音速ミサイル

図:(Chinese qianzhan com) 先に「空母キラー」として登場した弾道ミサイル「DF-21D」に続く第2弾の 「YJ-12超音速巡航ミサイル」。液体燃料使用のラムジェット、個体燃料ブースターで最大マッハ4に加速、飛行する。中国は、これで西側のあらゆる近接防御システムを突破可能になった、と豪語している。射程は最大で400km、全長7m、発射時の重量は2〜2.5㌧。H-6G爆撃機あるいは艦船から発射する。ロシア製Kh-31に似ているが中国で設計、製作のミサイル。

 

米国の軍事アナリストが「西太平洋上で中国軍の巡航ミサイル配備が著しく増強され、米国および同盟諸国は脅威に曝されている」との報告書を出した。6月になり米国のメデイアが相次いで報じた。

報告書は”A Low-Visibility Force Multiplier: Assessing China’s Cruise Missile Ambitions” 「増え続ける探知困難な兵器:中国の巡航ミサイルの野望に迫る」という表題。米国国防大学・国家戦略研究所の中国軍問題担当センター(The Center for the Study of Chinese Military Affairs at the Institute for National Strategic Studies)から公表された。

なお、本稿の表題にある「空母打撃群(Carrier Strike Group=CSG)」とは、攻撃型空母を中心に、僚艦防衛 (Local Area Defense) 能力を持つイージス艦など数隻と、場合によっては潜水艦を含む艦隊を云う。

 

以下は米誌が報じた同報告書の概要である。

 

中国政府の国防方針は、「antiaccess/area-denial (A2/AD)”すなわち『領土侵犯を許さず/領域への接近を拒絶する』能力を培い展開すること」が基本とされる。具体的には米空母打撃群を中国本土に近ずけないことを意味する。

この方針に沿い、地上、空中、および艦艇から発射する高精度の対艦巡航ミサイル(ASCM)と対地攻撃巡航ミサイル(LACM)を大量に準備、展開している。

すでに中国は各種巡航ミサイルを数千発保有していると見られ、陸海空から発射するためのプラットフォームの整備、それに必要な電子戦(C4ISR)の準備を進めつつある。これで米国と地域の同盟国の活動を封じ込める狙いだ。

艦船を攻撃する巡航ミサイルは、1950年代から当時のソビエトで開発が進められたが、冷戦終結後は中国がこれを受け継ぎ、独自に「多くの点で世界水準に達した中国製巡航ミサイルを開発」量産を続けている。

 

報告書は巡航ミサイルの持つ優位性を次ぎのように示し、警告している;—

*  多くの巡航ミサイルは(僅かな変更で)陸海空いずれの発射装置(プラットフォーム)からでも発射できる。

*  (弾道ミサイルに比べ)比較的小型で、発射の事前準備作業が少ないため、地上発射の場合は車両搭載型にできるので特に機動性が高い。

*  巡航ミサイルは、赤外線排出量が小さいので、相手のミサイル防衛システムのレーダー探索をかいくぐることが出来る。

*  超音速巡航ミサイルの場合は、レーダー反射面積の小さいことと、極低空飛行(高度10m程度)で接近するので、防御側の対空レーダーや早期空中警戒機(AWACS)の探知を容易に突破できる。

*  巡航ミサイルは比較的安価に調達できるので大量に装備し易い。これは、米国や同盟諸国のミサイル防衛システム整備に要する費用に比べて、遥かに優位にあることを意味している。

*  つまり米国と同盟諸国の持つ現在のミサイル防衛システムを、中国軍は現在持っている巡航ミサイルで簡単に打ち破れる。中国は、巡航ミサイルは防衛システムと比べ費用は9 : 1で済む、と云っている。

*  考えられる攻撃方法は、目標に対し弾道ミサイル攻撃と同時に巡航ミサイルの一斉射撃(salvos)を浴びせる戦法。これで相手の防御能力を飽和状態に陥れ、短時間で目標を破壊する。

 

報告書はさらに続けて、「中国は旧式の「SY-2 Sabbot」対艦ミサイルを大量に保有しているが、これを空母打撃群(CGS)攻撃の初期に投入し、相手の防衛力を消耗させ、その後に高性能新型ミサイルで止めを刺す戦法を採る」と述べている。

SY-2旧式ミサイル

図:SY-2は個体燃料ロケットで、長さ6m、直径0.54m、重さ1.7㌧、炸薬365kg、速度マッハ0.9、射程130km。系列型は「シルクワーム(Silkworm)」と呼ばれ、中東各国に輸出されている。

DF-21D 弾道ミサイル

図:(Chinese Military Review)「DF-21」は、個体燃料2段式ロケット単弾頭の中距離弾道ミサイル。米国防総省は、2008年時点で第2砲兵軍に“ミサイル本体で60〜80基、発射車両60輛が配備済み”と推測している。最新型の「DF-21D」は対艦弾道ミサイルで「空母キラー」と呼ばれている。射程は1,500km、着弾時の速度はマッハ10、誘導は慣性誘導(INS)と最終段階ではレーダー誘導方式。

 

中国が数年前から展開中の対艦弾道ミサイルDF-21D(東風21)は、米空母打撃群(CSG)を襲う「空母キラー」として注目を集めているが、実は対艦巡航ミサイル(ASCM)の方が脅威としては遥かに大きい。

中国軍は、米空母打撃群(CSG)に対し、陸上、海上艦艇および潜水艦、それにHG-6爆撃機を含む、あらゆる手段を使って長距離から対艦巡航ミサイル(ASCM)を発射し、多方向からの飽和攻撃を遂行する能力を持っている。

一方、空母打撃群に随伴し防御の役を担うイージス艦は、主にM41型垂直発射装置(VLS)内に対弾道ミサイル「SM-3」を装備している。これは弾道ミサイル防御には威力を発揮する。しかし大量の巡航ミサイル攻撃を防ぐには、M41の残りのセルに収納された「ESSM発展型シースパロー対空ミサイル」では数的に不十分で、別に装備する近接防御システムに頼らざるを得ない。しかしこれも携行弾数に限界があり、飽和攻撃に充分対応できるか危ぶまれる。作戦遂行中に洋上で「M41垂直発射装置」にミサイルを補充装填するのは極めて困難とされている。

 

(注)米国および同盟諸国の海軍が装備する近接防御システムは「ファランクス(Phalanx)」「CIWS=close-in weapon system」と呼ばれ、20mm機関砲6銃身のバルカン砲、発射弾数4,500発/分、有効射程3.6km、携行弾数は1,550発。その後2000年前後からは、航空機用ミサイルを転用した「RIM-116 SeaRAM」が出現、新型艦に装備されるようになっている。「RIM-116 SeaRAM」は速度マッハ2以上、有効射程9km、1発射装置にミサイル11基を収納する。これ等を使って来襲する巡航ミサイルを迎撃する。

 

さらに中国は、巡航ミサイルの高性能化を急ぐと共に、ミサイルの種類と発射システムの多様化に力を入れている点にも注意する必要がある。米海軍の対応はこれとは対照的に明確さを欠いている。

しかし中国の巡航ミサイル戦術にも弱点がある;—

*  巡航ミサイルを有効に使うには明確な方針と組織が必要だ。しかし中国軍の指揮官が、複雑で長時間に亘るミサイル攻撃を統率、指揮する能力を備えているか疑問。中国海軍には海上戦闘の経験が全くない。

*  精巧に組立てられた電子戦「C4ISR」、つまり「指揮、管理、通信、コンピューター、情報、監視および偵察(command, control, communications, computers, intelligence, surveillance and reconnaissance)」の能力を統合化、駆使するシステムが未完。

*  沿岸設置レーダーには「水平線以遠」(OTH=over the horizon)探知能力がない。

*  レーダー網と発射プラットフォームを結ぶ高速データリンク機能がない。

 

中国は対地巡航ミサイル(LACM)の配備にも力を注いでいる。最初は台湾侵攻を目指して配備が進められて来たが、2000年前後から米国「トマホーク」に匹敵する長距離ミサイルの開発に力を入れて来た。最も注目されるのが「DH-10 (東海10)」。いわゆる第2世代の対地攻撃ミサイルだが、これを改良したのが空中発射型の対地、対艦型「CJ-10」系列で「YJ-62」を含む。慣性航法(INS)、GPS、地表追尾装置(terrain mapping system)を内蔵し、目標接近後はデジタル目標視認で着弾する。命中誤差半径は僅か10m。

米国防省の推定では射程1,500kmタイプが500基ほど配備済みと云う。

CJ-10-GLCM-TEL-2009-1S

図:(Chinese Internet)「DJ-10」地上発射型対地巡航ミサイル。炸薬500kgを搭載し1,500km離れた目標に正確に着弾する。

–以上−

 

本稿作成の参考にした主な記事は次ぎの通り。

 

 

The Diplomat “Cruise Missiles: China’s Real Carrier Killer” June o5 2014 by Zachary Keck

Aviation Week June 9, 2014 “West Pacific Cruise” by Bradley Perrett

Global Security Newswire May 13, 2014 “Analysis : China’s Cruise-Missile focus Raises Proliferation Stakes” by Diane Barnes

Air Power Australia Update Jan 27 2014, “PLA Cruise Missiles, PLA Air-Surface Missiles” by Dr. Carlo Kopp

Andrew S. Erickson 12 May 2014 “A Low-Visibility Force Multiplier: Assessing China’s Cruise Missile Ambitions”