2014-08-05 松尾芳郎
図:(MBDA)「ミーテイア(Meteor)」長距離空対空ミサイル(BVRAAM=beyond visual range air-to-air missile)は、英国が主導し、欧州6ヶ国で共同開発した次世代型ミサイル。主契約は欧州のMBDA社、時速マッハ4以上、エンジンは「可変推力、空気吸入式、固体燃料ラムジェット」を搭載。射程は公表されていないが米国製AIM-120C-7の100kmをかなり(一説では3倍!)越える。
英国国防省(MOD=Ministry of Defense)がMBDA社と「ミーテイア」ミサイルの開発契約を結んだのは2002年12月。契約は他の共同開発参加国ドイツ、イタリア、スペイン、フランス、スエーデン、を代表して行われた。そして2006年までに、ユーロファイター・タイフーン(Eurofighter Typhoon)、グリペン(Gripen)、ラファエルRafale)、の各機に搭載、発射試験を実施。その後、開発、改良が行われたが2014年3月までに完了し、間もなく量産を開始、配備が始まろうとしている。
MBDA社は、英国BAEと仏マトラ合弁のマトラ・BAEダイナミックス社、独仏合弁のEADS社の誘導武器部門、それに、英GECと伊アレニア合弁のアレニア・マルコーニ社の誘導武器部門、の3社が合併し2001年に設立された欧州誘導武器企業である。
中長距離用空対空ミサイルでは、長距離の目標を攻撃する際に解決すべき問題が二つある;—
1) 目標を追尾するミサイルが終末誘導段階で燃料切れのため制御不能となり攻撃に失敗、回避されてしまう。
2) ミサイルは母機(あるいは友軍)の誘導で目標に向かい、ミサイル搭載のシーカーの有効距離まで誘導を続ける。このシーカーの有効距離を“スタンドオフ・レンジ(stand off range)”と云う。有効距離に入ると母機誘導から切り離され、ミサイル自身のレーダーで終末誘導に入りロックオンし攻撃する。母機の誘導期間が長いと危険に曝されるので、”スタンドオフ・レンジ“は大きい方が望ましい。
これに対しMBDAが「ミーテイア」で採った解決策は;—
1) 推進に固体燃料を使うのは一般の空対空ミサイルと同じ。だがドイツのバイエルン–チェミー(Bayern Chemie)社が開発した「可変推力、空気吸入式、固体燃料ラムジェット(Throttleable, air breathing, solid fuel ramjet)」を使う。ラムジェットは飛行中ずっと作動が可能で、目標に接近する最後の数秒まで高速度を維持し、離脱を試みる目標を逃さない。一般的な空対空ミサイルの固体燃料ロケットは、発射後一旦作動、加速してから停止、“スタンドオフ・レンジ”に入ってから再点火、加速して目標を追跡すると云う方式が多い。
2) 誘導には母機からのデータリンクが使われる。ミサイルの飛行中に母機から目標の最新位置、あるいは新しい目標への変更、さらにシーカーに目標取得の情報などを伝える。「ミーテイア」では、終末誘導用シーカーにタレス社製AESAレーダーを使うが、米国製のAIM-120 AMRAAMミサイルの水準に達しておらず、改良が必要とされている。ここで登場したのが高性能を誇る日本製のAESAシーカーだ。
消息筋によると、「ミーテイア」の更なる性能向上を検討中だった英国防省は、我国の“武器輸出新原則”つまり”事実上の緩和”の閣議決定(2014-04-01)」を受け、すぐに日本側に接触、技術供与の可能性を打診してきたと云う。
協議の結果、日本の国家安全保障会議(National Security Council)は、英国と共同でラムジェット推進「ミーテイア」空対空ミサイルの改良研究を行なうことを承認した(2014-07-17)。正式調印は今年9月に行われる予定となっている。英国防省によると、”日本はシーカー技術を供与”する、計画の詳細は公表されていないが、両国は(多分日本側の意向に沿って)「この共同開発は、特定の脅威に対抗するものではない」と強調している。
図:(防衛技研)三菱電機製「AAM-4B」空対空ミサイル。前身の「AAM-4」は10年以上を掛けて開発され、1999年に「99式空対空誘導弾」として正式化された。送受信装置、シーカー、近接信管などに特殊な変調方式を採用、敵の受動探知システムに探知されずに攻撃できる。固体燃料ロケットは射程延伸のため2段階燃焼パターンを採用している。これに新レーダーと新信号処理装置を搭載し性能を向上させたのが「AAM-4B」、すでに改修済みのF-15JおよびF-2戦闘機への搭載が始まっている。
図:(防衛技研)「AAM-4B」開発に際し、提示された運用構想図。諸外国の空対空ミサイルは対航空機戦闘を主目的にして作られている。しかし「AAM-4B」は周辺の厳しい環境に対応するため、対航空機戦闘のみならず、大型地対空ミサイル、超低空を飛来する巡航ミサイルも迎撃可能で、かつ、対電子戦能力/ECCM能力を向上させ、ミサイルの飛行方向を横切る形で飛ぶ目標の追尾能力をも向上させることを目標としていた。
図:(防衛技研)AAM-4から「AAM-4B」への改良点。①アクテイブ・フェーズドアレイ・レーダーには窒化ガリウム(GaN)半導体製の送受信素子(TR unit)を使用する。
供与する技術は、日本がすでにF-15J、F-2に搭載、配備中の(2010年以降)の三菱電機製「AAM-4B」空対空ミサイルに使っている終末誘導シーカー技術である。このシーカーはAESA (active electronically scanned array)レーダーで、他の中長距離用空対空ミサイルの多くが使っている機械式あるいはAESAレーダーに比べ、高性能なのが特徴。
「ミーテイア」の胴体直径は17.8cm、これに対しAAM-4Bの胴体直径は20.3cm、従ってAAM-4Bのシーカーをそのまま転用はできないので、小型化する必要がある。つまり面積が2割ほど減るので、その分組込む送受信素子が少なくなるが、それでも現状より相当改善される見込みである。
2001年(平成13年)防衛省は、運用中の99式空対空誘導弾(AAM-4)の改良型「AAM-4B」の開発を決定した。目標に掲げたのは、母機の残存性を向上するため“自律誘導距離”(autonomous guidance range)を、2004年配備開始のレイセオン製AMRAAM「AIM-120C-7」、およびロシアの「R-77(AA-12 Adder)」(2009年配備開始)より40%延伸する点、であった。この中核となる技術がシーカーに使われる新しいAESAレーダーである。防衛技研と三菱電機は、13年掛けて“窒化ガリウム(GaN)”半導体を使う送受信素子(T-R units)の実用化に漕ぎ着けることができた。
GaN半導体素子を使ったAESAレーダーは、従来の“ガリウム砒素(GaAs)”半導体製AESAレーダーに比べ大幅に出力を向上でき、従って探知距離は少なくとも20%ほど延伸できる。
(注)詳しくは、本サイト2014-02-27掲載の「航空自衛隊、装備近代化へ大きく前進」を参照のこと。
ベースとなったAESAレーダーは、6-18 GHzの周波数帯を使う多機能型レーダー・システム(AMARS=advanced multi function airborne radar system)で、発信探索、受信探索、ミサイル誘導通信、電子妨害排除,の諸機能を備えている。他のAESAレーダーと同様、電子的に機能を素早く切替えるので、これらの機能は事実上同時に使える。本来は戦闘機用に開発されたが、水上艦の火器管制レーダーとしても使われ、また、AAM-4空対空ミサイルにも採用されている。これ等には送受信素子として“ガリウム砒素”半導体が使われていたが、その後性能を向上した“窒化ガリウム(GaN)” 素子が開発され、今日に至っている。
「ミーテイア」改良型の課題は、これから英国空海軍に導入が始まるF-35 JSFへの装備である。すでにミサイル本体は、フィンの寸法の修正とエンジン空気取入れ口の修正をすれば、F-35の兵倉庫内に装着できることが確認されている。しかしミサイル発射、誘導に関わるソフトの改修が必要であり、これ等が解決するのは2015年以降と見られている。
一方我国は、F-35を当面42機導入することが決まっており、将来F-15Jの退役にあわせての追加購入を考えると、最終的なF-35の機数は100機を越えると見られている。F-35にはAIM-120C系列ミサイル搭載が決っているが、我国としては将来の増機を考慮すれば「AAM-4B」使用を求めたいところだ。「AAM-4B」の直径はAIM-120より1㌅大きいが長さは殆ど変わらないため、F-35の兵倉庫への収納には問題はないとされている(Lockheed Martin 社VP談)。しかし、兵装システム用ソフトの改訂に期間と費用が掛かり、見通しは立っていない。
そこで浮上していのが、新シーカーを搭載する「ミーテイア」改良型を日英(日欧)共同開発とし、F-35搭載問題をクリアして我国でも生産し、空自のF-35に搭載する、と云う案である。消息筋によると、すでに国会の関係議員の間で検討されていると云う。
最後に、各国が配備中または予定の中長距離空対空ミサイルの一覧表を付けておく。
–以上−
本稿作成に参照した記事は下記の通り。
Aviation week July 28 2014, page 26 “A New Source” by Bradley Perrett
Aviation Week July 28 2014, page 27 “Japanese Guidance” Bradley Perrett
Air Force Technology com. “Meteor – Beyond Visial Range Air-to-Air Missile (BVRAAM) United Kingdom
防衛省経理装備局システム装備課、平成23年5月「誘導武器の開発・調達の現状」
防衛省「予算執行事前審査等調査(平成22年・・・チーム)