2014-08-31 松尾芳郎
図:(三菱航空機)日本航空が運航子会社”ジェイエア”用として発注した三菱MRJの完成予想図。2021年から7年間で32機を受領する。
図:8月28日共同記者会見でMRJ模型を前にして握手する三菱航空機江川豪雄会長(右)と日本航空植木義晴社長(左)。
三菱航空機と日本航空は8月28日共同で「日本航空が国産小型旅客機“三菱MRJ”を32機確定発注した」と発表した。
報道によると、「世界に冠たる日本のエアラインからの受注は、諸外国にもMRJが優れた航空機だと云う裏付けになる」。28日、日航植木社長と共同記者会見に臨んだ三菱航空機の江川会長は笑みを浮かべてこのように語った、と云う。
植木社長は「燃費の良いこと、客室の快適性」を購入のポイントとして挙げた。
購入するMRJは大阪伊丹空港に本拠を置くグループ会社”ジェイエア(J-Air)”の路線に2021年から投入される。
三菱MRJは、全日空から2008年3月に確定発注15機とオプション10機の注文を得て、開発が決定した小型リージョナルジェット旅客機、全日空への初号機の引渡しは2017年を予定している。三菱側から日航にも購入の働き掛けがあったが、当時は経営が悪化し2年後(2010年1月)の倒産の直前でそれどころではなかった。
日航は倒産後、稲盛和夫会長の指導で社員の意識改革と部門別採算制度を導入して再建を果たし、2年7ヶ月後の2012年9月に東証1部に再上場した。これで、企業再生支援機構が出資した公的資金3,500億円は株式の売却で7000億円となって回収された。一部にある“日航は税金で再建云々”とする非難は的外れな意見だと云える。
以来日本航空は安定した収益構造を維持して今日に至っている。有力業界誌が今年始めに行ったエアライン調査報告で、“売上60億㌦以上の大規模エアライン評価で日航がトップに”と紹介されている。これが冒頭の三菱江川会長の発言の裏付けとなったことは疑いない。
一方MRJは、総開発費1,500億円のほぼ3分の1を国が出資する国家的プロジェクト。担当の経済産業省は茂木敏光大臣を先頭に、経営安定を果した日航にMRJ購入の働きかけを行ってきたと云われる。
業績好調な日航は、子会社のジェイエアの機材更新の時期が迫っていることがあり、国の意向をも踏まえて、今回MRJの発注に踏切った。リージョナル路線の運営を長年行ってきた日航グループがMRJを使えば、その経験がMRJのさらなる改善に反映され、三菱にとっても将来の販路拡張に資することになろう。
同時に、日航はブラジルのエンブラエルE-17とE-190合計15機(+オプション12機)を発注し、2015年から導入すると発表した。これは旧式化した既存機の更新として採用するが、これ等を含め2021年度以降7年掛けて全てMRJに置き換える予定と云う。
図:(日本航空)日航ホームページ関連運航子会社情報から作成した表。「ジェイエア」は大阪伊丹空港を拠点にボンバルデイアCRJ 200とエンブラエルE-170を使い国内各地を結ぶリージョナル路線を運営している。
図:(日本航空)日航がMRJ 32機発注と同時に、購入を発表したエンブラエルE-170(78席)と同E-190(104席)リージョナル機の完成想像図。装備するエンジンはそれぞれGE製CF34-8E とCF-34-10E。Eシリーズは2004年から就航が始まっていて、これまでに1,041機が引渡され、受注残は240機。2013年1月にエンジンをMRJと同じPW1000Gに換装した次世代型”E2シリーズ”を発表した。”E2”の引渡しは2018年から始まる。
図:(三菱航空機)三菱重工名古屋航空宇宙システム製作所小牧南工場(豊山市)でほぼ完成したリージョナル機三菱MRJ-90(92席)。細長い主翼、燃費の良いPW1217G エンジン2基を搭載、航続距離は約3,300km。このエンジンの最終組立と試運転は三菱重工名古屋誘導推進システム製作所(小牧市)で行われる。初飛行は2015年の予定。証明取得の試験飛行は日本国内と米国ワシントン州モーゼスレイクで行われる。MRJについては本サイト掲載の「三菱MRJの最終組立始まる」2014-02-13掲載を参照されたい。
今回の日本航空の発注で三菱MRJの受注機数は、確定223機、オプション184機、合計で407機となった。MRJにはMRJ-70とMRJ-90の2機種がオファーされているが今のところMRJ-70の購入を決めたところはない。発注会社と機数は次ぎの通り。
全日空 :確定15機、オプション10機
トランスステイツ :確定50機、オプション50機
スカイウエスト :確定100機、オプション100機
イースタン航空 :MOUで確定20機、同オプション20機
マンダレー航空 :確定6機、オプション4機
日本航空 :確定32機、オプションなし
この中の「イースタン航空」とは、1926年から1991年まで米国の4大航空会社の1つとされたイースタン航空とは全く別物で、”新イースタン航空“とも云いマイアミを拠点とする新設の航空会社である。2014年初めに旧イースタン航空の商標を買取りスタートし、今年末から737-800をリースしてチャーター業務を計画している未だ業務を始めていない企業である。最近737-800を確定発注10機とオプション10機の契約をしたと云われる。MRJのMOU発注の20機+20機が確定発注として実現するかは定かではない。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
*三菱航空機&MRJ News「JALグループ、次世代リージョナルジェット機と してMRJの導入を決定」2014-08-28
*日本航空プレスリリース「JALグループ、次世代リージョナルジェット機としてMRJの導入を決定」2014-08-28
*日本航空プレスリリース「エンブラエル170の追加導入、ならびにエンブラエル190の新規導入を決定」2014-08-28
*日本経済新聞「MRJ日の丸の重圧」2014-08-29
*本サイト「三菱MRJの最終組立始まる」2014-02-13
*本サイト「売上60億㌦以上のエアライン評価で日航がトップに」2014-06-02