–バイキング・エアがボンバルデイアから製造権を取得、”DHC-6-400”型として製造中–
2014-09-06 松尾芳郎
図:(Viking Air)バイキング・エアが生産しているDHC-6ツイン・オッター400型の水上機版。DHC-6は、翼幅20m、長さ16m、航続距離1,400km、速度は80から160 kts(148〜296km/hr)の範囲を安全に飛べる。最大離陸重量5.7㌧、滑走距離は366m、客室は非与圧。エンジンはP&W Canada PT6-34。価格は700万㌦(7億円)。
デハビランド・カナダ製DHC-6ツイン・オッターは19席の短距離離着陸(STOL)性能を持つ汎用機で、1965年から1988年に掛けて850機ほど生産された。その後生産は20年間中断していたが、2008年から製造権を買取ったバイキング・エアの手で改良型の”-400”の生産が再開されている。
DHC-6ツイン・オッターは、高翼単葉3車輪式のSTOL機で、人員輸送だけでなく貨物輸送にも適し、スカイダイビング用にも多く使われている。また米陸軍のパラシュート降下訓練や空軍の訓練にも使われている。
日本では殆ど見かけないが、スキーやフロートが簡単に装着できるので、アラスカ、カナダ、アメリカのいたるところで飛んでいる汎用性の高い飛行機だ。
バイキング・エアのデイブ・カーチス(Dave Curtis)社長によると、生産は順調で現在は2週間に1機の割合で出荷中、これまでに50機以上が引渡され、受注残は100機を越えている、と云う。
デハビランド・カナダ社はDHC-6ツイン・オッターで成功を納めたが、カナダ政府の民営化方針で、1992年にボンバルデイア・エアロスペース社に売却された。当時作られていた双発ターボプロップDHC-8 Dash 8型リージョナル機は、現在ボンバルデイア社の手でDash 8 Q400型機(78席)として生産が続いている。Q400は日航の子会社「日本エアコミュータ」などで使われている。
一方バイキング・エア社は、1980年代後半からDHC製のDHC-2ビーバー(Beaver)、DHC-3オッター(Otter)、そしてDHC-6ツイン・オッター(Twin Otter)等の部品の供給、整備サービス、を手掛けて来た。そして2006年2月に、DHC-1(単発練習機)からDHC-7 Dash7(4発リージョナル機)に至るまでの全てのデハビランド・カナダ社設計の機体の型式証明を、ボンバルデイア社から買収した。
バイキング・エアは、世界に広がるツイン・オッターのユーザーと協議に末、2007年に-400型の開発を決め2010年から引渡しを開始している。
主要部品の製造は、太平洋岸バンクーバー島南端にあるビクトリア(Victoria, British Columbia)工場で行われ、最終組立は中部カナダのカルガリー(Calgary, Alberta)で行われている。
図:(Viking Air)カルガリー工場のDHC-6ツイン・オッターの最終組立の様子。
DHC-6ツイン・オッターは、1965年初飛行の双発ターボプロップ機だが、当時好評だった単発ピストンエンジン機DHC-3オッターのSTOL性を受け継ぐべく誕生した双発機である。丁度P&WC PT6A-20 (550 shp)エンジンが実用化された時期と合致し、これを搭載した”-100”の生産が始まり、1968年には改良型の”-200”に変りSTOL性能がさらに向上した。
1969年にはPT8A-27 (680 shp)エンジン付きの”-300”が誕生、性能、搭載量が改善された。”-300”型機は大変好評で1988年にデハビランド・カナダ社がトロント工場を閉鎖するまで600機以上が作られた。
バイキング・エアは、2006年ファンボロー航空ショウで、製造中止となって20年が経つDHC-6ツイン・オッターの生産再開を発表し、-400と名付け翌年から生産を始めた。-400は、エンジンをより強力なP&WC PT6-34 (750 shp)に替え、コクピット電子装備をこれまでのアナログ式からハニウエル製の「プリマス・エイペックス(Primus Apex)」一体型アビオニクスに一新し近代化を図った。さらにドア等に複合材を使うように改めた。
図:(Viking Air)DHC-6ツイン・オッター400のコクピット。「プリマス・エイペックス(Primus Apex)」フラット・パネル表示盤になり、一新された。エンジン推力調整のパワーレバーは-300と同じく頭上にある。
[プリマス・エイペックス]フラット・パネルに変更になり、これまでのデジタル表示では、30社で作られた150もの部品で構成されていたパイロット・パネルが、ベンダーは1社、部品は10点に簡略化された。
しかしこれに伴うソフトの承認には手間取り、今は機体の型式証明に必要なフェイズ1の取得を済ませた状態である。現在フェイズ2として“合成視認装置”の承認とオートパイロットの承認を得るべく作業を進めている段階にある。
もう一つ問題だったのは、フラット・パネル表示盤や関連ソフトが、水上機や不整地滑走用として耐久性が不十分だった点である。対策として米陸軍の主力戦車M1 エイブラムス(Abrams)搭載の表示パネルに変えたところ問題は解消した。
こうして-400は、世界各地に散在する次ぎのようなユーザーに引渡されている。米陸軍、ペルー空軍、マレーシアのMASWing、スイスのZimax、世界最大の水上機運航会社であるTrans Maldivian Airways、インド洋に浮かぶ155の島々を結ぶAir Seychelles、等である。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week Sept.1, 2014 page 33 “Revival Mission” by Howard Slutsken
Viking Air home page “Twin Otter Series 400”
“De Havilland Canada DHC-6 Twin Otter” Wikipedia