次世代戦闘攻撃機F-35火災、原因究明と対策


2014-09-10 松尾芳郎

本稿は2014-09-08掲載の[次世代戦闘攻撃F-35エンジン火災の原因判明]の改訂版で、従って前掲載記事は削除する。

f35製造

図:(Lockheed Martin)F-35のエンジンF135は軍用としては世界最大の推力43,000lbs。機動飛行時の荷重の加わり方で、微妙に変形することが考えられる。

 

去る6月23日、米空軍の次世代戦闘攻撃機F-35Aが離陸準備中にエンジン火災を起こし、これが原因でF-35は13日間飛行停止となり、飛行再開後も厳しい制限付きで試験が行われてきたのは、ご存知の通り。

このほどその原因が、F-35統合計画局長クリス・ボグデン(Christopher Bogdan)空軍中将から明らかにされた。

「事故原因は、開発試験に参加している1機”AF-27”が火災事故の3週間前にヨウ(yaw)、ロール(roll)、それに”g”を加えた機動飛行を行い、これでエンジンに過大なロードが加わったため」。

“AF-27”号機は、3週間後の6月23日にエグリン空軍基地(Eglin AFB, Florida)から離陸すべく滑走路端でエンジン推力を上げたところ爆発し、火災を発生した、パイロットは無事脱出した。調査結果ではP&W製F135エンジンのブレード・デイスク一体型(blisk)ファン3段目に、3週間前に行われた飛行で微小クラック(micro-crack)が生じ、これが成長して破断、燃料タンクを破り火災に至った、と判明した。その後の他のエンジン検査で、ファン部分に異常な摩耗が見付かり5台のエンジンが交換された。

F135試運転

図:(Pratt & Whitney)F-35用のF135エンジンは、F-22ラプター戦闘機用として完成済みのF119-PW-100エンジンの改良型。アフトバーナ使用時の最大推力43,000lbs(191.3kN)、中間推力(アフトバーナ無し)は28,000lbs(128.1kN)、全長5.59m、最大直径1.17m、重さ1,700kg、推力:重量比11.47。

 

F-35の「システム開発、実証(SSD=systems development and demonstration)」試験には21機が参加中で、飛行再開後は厳しい条件付きで飛行してきたが、今月末までには解除される。損傷を受けたAF-27号機(購入価格2億㌦)は修理して再使用するかどうかは決まっていない。

火災の原因とされる3週間前の飛行について、ボグデン中将は次ぎのように語っている。

「AF-27号機が行った問題の飛行は、通常の飛行包絡線範囲内の充分内側での穏やかな機動で、ヨウ(yow)、ロール(roll)、それに垂直方向の”g”荷重を組合わせた2秒間の飛行だった。これでエンジンが僅か曲がり、ファン・ステーター(静翼)がファン・ローターに接触、過度な擦れを起こした。この時の摩擦熱は設計温度の1,000F(540℃)を越え1,900F(1,040℃)に達していた。

この過熱でファン3段ブレード近傍に微小クラック(micro-cracking)が生じ、その後の通常飛行時に成長してブレードがデイスクから破断するに至った。破断ブレードがエンジンケースを飛び出し、左後方の燃料タンクを突き破り火災となった。」

火災後に実施したボアスコープ検査で、取外した5台のエンジンのうちの1台は、海軍用F-35Cの9号機”CF-9”のもので使用時間は僅か70時間だった。

検査関係者によると、このエンジンは、片持ち式ステーター(静翼)の内側端がローター側の2段・3段間にあるナイフエッジ・シールと接触、摩耗しているのが見付かった、と云う。これについてF-35統合計画局は、事実の有無を含め、”AF-27”事故との関連性に付いてのコメントはしてない。

F135エンジンはF100-PW-229 (F-15E Strike Eagle用)と比べ、ファン直径は24%大きく、重量は1.7㌧で変わりないが推力はアフトバーナ時で43,000lbsに達し、後者の29,000lbsよりかなり大きい。従って内部応力や回転に伴う(gyroscopic)応力にはかなりの違いがあり、これがエンジンのたわみ、変形を生じる原因の一つになったのかも知れない。

PW F135エンジンカットビュー

図:(Pratt & Whitney)F135の見取図。2軸式で、低圧コンプレッサー・ファン3段、低圧タービン2段、高圧コンプレッサー6段、高圧タービン1段、の構成。

AW_09_08_2014_3169L

図:(Aviation Week)低圧コンプレッサー・ファン3段の推定図。ファンローター(黄色)とステーター(灰色)の関係を示す。ここにはステーター内側だけにナイフエッジ・シールが描かれているが、ローター・ブレード先端部にもシールがある筈。高性能エンジンでは、各段に高い圧力比を要求されるので、ブレード、ステーター先端の漏れを少なくするよう摩耗許容式シールを使う。

 

対策として、次ぎの二つを実施する。

*  システム開発実証試験(SDD)参加中の21機の飛行に”burn-in”手法を取入れる。これは、問題の摩耗許容式シールの摩耗が設計温度内(1,000F)で緩やかに進むよう機動飛行の順序を予め設定して、それに基づいて試験飛行を行う方法。これでSDD機は、飛行包絡線を拡大して計画通りの試験ができる。

*  P&Wは、設計温度内に収まる新しい摩耗許容式シールの設計を進めており、10月から試験を開始する。そして引渡し済みエンジン156台には準備でき次第改修を行う。

7月初めの飛行再開は厳しい条件付きで行われてきた。即ち、3飛行時間毎にエンジン・ボアスコープ検査を行なうこと、最大速度はマッハ0.9以下にすること、機動飛行は-1から+3 gの範囲内で行なうこと、飛行時の最大迎角は18度に押さえ、ロールはハーフ・ステイック以内にすること。

現在では、前項対策で制限が緩和され、最大速度マッハ1.6、最大 gは3.2g、一回の飛行時間は空中給油を受け6時間以内に着陸し検査する、と改められた。

ボグデン空軍中将によると「このエンジン火災事故でF-35の開発計画は1ヶ月半ほど遅れたが、海兵隊向けのF-35Bに付与を予定している“初期運用能力” (IOC=initial operating capability)は、来年(2015)7月に行なうことに変更はない」と云う。これで本件は解決の目処が立ったと云えよう。

F-135エンジンは、これまでに地上試験26,000時間、飛行試験8,000時間、F-35に装着しての飛行時間19,500時間を記録し、2010年にロッキードマーチン社に引渡されてからの任務遂行率(mission availability rate)は98%に達している。さらにF135には、空中でエンジン停止し再始動する試験や高迎角飛行試験が課せられているが全て終了し、海兵隊向けF-35B STOVL機の強襲揚陸艦ワスプを使っての離着艦試験は167回実施している。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は以下の通り。

Aviation Week eBulettin Sept. 3 2014 “F-35 Blade Microcracking Began Three Weeks Prior to Engine Fire” by Amy Butler

Aviation Week eBulettin Sept. 5, 2014 “Fire Causes Friction in F-35 Test Program” by Amy Butler

Aviation Week eBulettin Sept 8, 2014 “Pratt & Whitney Offers some F135 Explaining” by Bennett Croswell

P&W F135 Home page

Aviation Week eBulettin Sept 8, 2014 “F-35 Fire: In Search of a Solution” by Guy Norris, Bill Sweetman and Amy Butler