–スロベニアのピピストレル社が超軽量電動スポーツ機を開発—
2014-09-19 松尾芳郎
図:(Pipistrel Aircraft) ピピストレル航空機が開発した2席型電動モーター駆動の超軽量訓練機。重量550kgの機体は、米国では「軽量スポーツ機(LSA=light sport aircraft)」に分類される。
スロベニア(Slovenia)は、旧ユーゴスラビアの一部で、西はイタリア、北はオーストリア、東はクロアチアに接し、アドリア海の奥にある小国。ここの軽飛行機メーカー「ピピストレル航空機(Pipistrel Aircraft)」社が開発した初等訓練用の電動モーター機が今年8月12日に初飛行に成功した。
この軽飛行機は「ピピストレル・ワッツアップ(Pipistrel “WATTsUP”) と呼ばれ、去る8月30日フランスの“サロン・デ・ブロー(Salon de Bloi)”航空ショーで公開された。
この数年間業界では電動飛行機の開発が進められてきたが、いずれも試作段階で実用化したものはない。今年の始めにエアバスでは”E-Fan”と呼ぶ試作機の初飛行を行ったが、これを基にした2席あるいは4席の軽飛行機の発売は2017年になると云う。
ピピストレル航空機は、これまで数種類の軽飛行機を市場に送り出してきたが、今回その内の一つ、ピストンエンジン付きの2席型軽飛行機”アルファ(Alpha)”の電動モーター版”WATTsUP”を開発した。
図:(Pipistrel Aircraft)シーメンス製85 kw電動モーターが”WATTsUP”の動力源。この電動モーターは重さ僅か31 lbs/ 14kgだが、原型機“アルファ”のロータックス912エンジン(重さ132 lbs/ 60kg)より出力は大きい。
“アルファ”は、80馬力のロータックス912エンジンを搭載、初心者の訓練用として各地のフライング・スクールで使われている。“アルファ”は航空ガソリンを使い航続時間は3.6時間+30分。
このエンジンを電動モーターに換装したのが”WATTsUP”で、これは搭載する電池を使いドイツ・シーメンス(Siemens AG)製の85 kw (113馬力)のモーターでプロペラを回す。電池は17kw-hrのパック2個を搭載して、交換は数分以内、また1時間で充電できる、そして30分の余裕を残して1時間の飛行が可能。と云うことは、一度の離着陸訓練で、トラフィック・パターンで8回タッチ&ゴーを繰り返し、着陸して充電または電池交換すれば良い。
電池はリチウム–イオン(Lithium-ion)セルで、安全のため厳重なパック納められている。Li-ion電池の熱暴走を防ぐため、セルはファンで空冷する方式、また誤操作を防ぐためセル3個組みを1パックとして着脱する方式で、面倒なコネクタ接続は不要である。
また、着陸のための降下進入毎に13%のエネルギーを回収できると云う。上昇率は1,000ft/分(300m/分)で初等訓練用としては充分な性能を持つ。
短距離離着陸機なので郊外のチョットした空き地で飛行訓練ができる。
ピピストレル航空機は、2007年に最初の電動モーター機“トーラス(Taurus)電動モーターグライダー”の飛行に成功し、それを改良した2席型”トーラスG2”は現在も生産を続けている。”トーラスG2”は引込み式の40 kw電動モーターと10kw-hrの電池を積み、自力で離陸出来るグライダーである。これを改良した ”トーラスG4”はNASAから賞を獲得している。従って今回の”WATTsUP”は4代目と云うことになり、これまでの電動モーター推進と電池管理システム(BMS=battery management system)の経験が充分反映されている。
”WATTsUP”は、ヨーロッパの「マイクロライト(microlight)」およびアメリカの「US ASTM LSA」の基準に適合していて、フランスの”電動推進”標準に合致、証明を取得済み。そして現在は米国FAAに「軽量スポーツ機」LSA(light sport aircraft)として訓練機の認可を申請している。しかしLSAは、規定上ピストンエンジン付きに限定しているためこのままでは証明取得はできない。ヨーロッパ行政当局EASAのLSA規則ではエンジンの規制はないので、”WATTsUP”は先ずこれで証明を取得して、オーストラリアで売り出す予定だ。FAAへはLSAの例外”e-LSA”として認めてもらうよう働き掛けている。
”WATTsUP”は、2015年から1万ユーロ(13,200㌦)およそ140万円で売り出す予定で、これまでに比べ初心者飛行訓練の費用は70%近く安く出来そうだ。
図:(Pipistrel Aircraft) ピピストレルとシーメンスが共同開発に取組んでいる”e-パンテラ“の原型機、4人乗り”パンテラ(Panthra)” は2013年に初飛行した。
またピピストレルは、シーメンスと共同でピストンエンジンを併用するハイブリッド電動モーター型の「e-パンテラ(e-Panthera)」4人乗り機を開発中で、これは2016年に初飛行、2017年から引渡しを予定している。これはピストンエンジンでジェネレーターを回し、その出力で電池を充電すると同時に低速回転の6翅プロペラ回す仕組み。離陸重量は1,315kg、巡航速度は175ノット、航続距離は1,000n.m.を目指している。エンジンは現在の「パンテラ(Panthera)」と同じライカミングIO-540V 260馬力を使い、離陸時には200kw、巡航時には100kwの出力を得る。Li-ion電池は両翼内に6個のモジュールにパックして、それぞれ配置する。
「e-パンテラ」の開発は、EU主催の“Hypstair hybrid-propulsion research effort”の一つと位置づけられ、2013年9月から2016年2月の間ピピストレルとシーメンスが共同で655万ユーロ(860万㌦/860億円)の資金を投入して行われている。このハイブリッド推進方式に付いても法整備がなく、FAA Part 23およびEASA CS-23 General-aviation aircraft規則の改訂が急がれているところだ。
–以上−
本稿の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week Sept. 8, 2014 page 52 “Plugging In” by Graham Warwick
Flying Aug. 26, 2014 “New Electric Trainer from Pipistrel Takes Flight” by Pia Bergqvist
EAA news “Pipisterel WATTsUP Two-Place Electric Trainer Makes first Flight” August 27, 2014
AOPA “Pipistrel introduces electric trainer” August 27, 2014 by Thomas A. Horne
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