ロシア国防省、シベリア・極東地区で空前の大規模演習を実施


–9月19〜25日の間、10万人規模の兵員を動員「ヴォストーク2014」をアナドウイリからウラジオストクまで東部軍管区内20ヶ所以上の演習場で実施—

 2014-10-13 松尾芳郎

2014-10-17 改訂

露V2014演習

図:(防衛省)ロシア軍が極東地区で実施した大規模演習「ヴォストーク2014」の概況

今回の大規模演習は、9月19日に演習開始と同時にロシア国防省から発表され、それを基に防衛省から解説付きで内容が公表された。ロシア軍は、軍改革が本格化した2008年以降、年1回の割合で4軍管区内の一つで大規模演習を行っているが、今回の演習はこれまでの最大規模であることに注目したい。日本と米国を仮想敵と定め「強いロシアの復活」を示す狙いがあると受け止められる。

以下はその大要である。

ロシア国防省HPやRIA ノボスチ(Novosti)通信、それに日米両国政府などが伝える具体事例を含む演習の内容は次の通り。

 

1 実施期間

2014年9月 19〜25日。ただし「ヴォストーク2014」の前段「抜き打ち検閲」を東部軍管区で9月11〜18日にかけて実施した。従って「抜き打ち検閲」を含めた実質演習期間は11日〜25日となる。

2 実施区域

シベリア東部のアナドウリからウラジオストクの範囲で、地上・海上・空中の演習場20ヶ所以上。

3 参加兵力

人員:約10万人、航空機:約120機、戦闘車両:約6,500輛(戦車約1,500輛を含む)、艦艇:約70隻。

前回の参加兵力は2万人、航空機80機、戦闘車両等5,000輛、艦艇40隻だったので、今回は参加兵力が大幅に増加している。

4 演習内容

l   沿岸部および沿海地方の島嶼地域の防衛(千島列島を含む)

l   地上演習場「サハリン(樺太)、カムチャッカ、チュコト、プリモエ(沿海地方)南部」、および洋上演習場「カムチャッカ、沿海地域」における地上部隊と海上部隊の連携

l   部隊移動、統合運用、地上・海上・空中からの戦術ミサイル射撃

l   6,000km以上離れた西部軍管区(モスクワを含む)からの空輸による部隊展開

 

「抜き打ち検閲」の概要

 

l   プーチン大統領の指示で、東部軍管区に配備されている部隊は演習開始に先立つ9月11日から戦闘即応体制に移行

l   検閲に際し、東部軍管区の優先的任務である長距離部隊移動に特に留意

l   戦時編成部隊の創設、鉄道、自動車道路等の援護や利用、および民間船舶の海軍への引渡し等の演練

l   空軍は西部軍管区および中央軍管区からの遠距離空輸が可能な体制の組織化

 

*  9月16日に東部軍管区所属の5個諸兵科連合部隊麾下の部隊が、主として   An-124大型輸送機による空輸で、バイカル地方、カムチャッカ地方、沿海地方、サハリン州(樺太、千島)、チュコト州にある各演習場に展開。

*  中央軍管区ノボシビルスク基地からMig-31戦闘機などが東部軍管区ハバロフスク基地に展開。

*  9月17日には、Tu-95長距離爆撃機4機がベーリング海およびアラスカ北部沿岸の上空を哨戒飛行、米防空識別圏に侵入したため米空軍F-22戦闘機が緊急発進した。

*  東部軍管区バイカル湖南のウラン・ウデ基地所属の空挺部隊が、輸送機でシベリア東端のアナドウイリ基地に移動、北極海ウランゲリ島でのパラシュート降下訓練に備える。

*  9月16日には、カムチャッカ東岸のペトロパブロフスクで沿岸部隊、防空部隊、太平洋艦隊がミサイルを実射。これには太平洋艦隊旗艦のスラバ級ミサイル巡洋艦「バリヤーク」が参加。これに先立って8月20日には艦艇10隻の艦隊が宗谷海峡を東進、オホーツク海に進出。

*  9月16日から18日にかけて、ウスリースク演習場でウスリースク空挺部隊が降下訓練、ウスリースク演習場で自動化狙撃部隊が戦闘訓練。

 

大規模演習「ヴォストーク2914」の概要

 

*  ショイグ・ロシア国防相が期間中に各地の演習場を視察した。

*  シベリア東の北極海ウランゲリ島で、夜間のパラシュート降下を含む上陸演習を実施。

*  Tu-95長距離爆撃機から巡航ミサイルを発射、カムチャッカ半島東岸のクラ射爆場の目標に着弾。

*  空軍機による太平洋艦隊の援護演習、空中戦闘訓練と洋上目標に対しミサイルを発射。戦闘機の誘導にはA-50 早期警戒管制機(AWACS)を使用。

*  Su-25対地攻撃機を使い、沿海地方の自動車道路への着陸訓練。

*  ハバロフスク演習場で、対地攻撃用短距離(射程400km)ミサイル「イスカンデルM」の東部軍管区における初めての実射訓練。

*  40機以上のロシア空軍戦闘機、Su-27SMおよびSu-35を含む、が仮想敵空軍と空中戦訓練を実施。またS-300地対空ミサイルで飛来する標的の撃破訓練。

*  対艦、対空ミサイルの実射訓練として、太平洋艦隊旗艦「バリヤーク」ミサイル巡洋艦および原子力潜水艦「オスカーII級(14,000㌧)」から巡航ミサイルを発射(カムチャッカ半島東岸のクラ射爆場か?)。

*  樺太南部のアニワ湾で、海軍歩兵部隊による上陸訓練を実施、この際揚陸艦から揚陸訓練中に装甲車両が水中に転落、乗員3名が死亡。

 

10月初めに宗谷海峡を通過したロシア艦隊について示した次ぎの記事は、いずれも今回の大演習に関連した動きと判明した。

「ロシア海軍艦艇、宗谷海峡を東進–その1 (9月18日)」 2014-10-05

「ロシア海軍艦艇、宗谷海峡を東進–その2(9月22日)」 2014-10-05

「ロシア海軍艦艇、宗谷海峡を西進(9月26日)」 2014-10-06

「ロシア艦艇12隻が次々と宗谷海峡を西へ航行–10月2日、3日」2014-10-06

 

防衛省が発表した「ヴォストーク2014」記事には、「本演習に参加したロシア軍の装備」について、「戦闘車両」「対地攻撃ミサイル」、「巡洋艦」、「駆逐艦」、「潜水艦」、「各種航空機」等の紹介があるが、ここでは省略する。

–以上−

 

本稿の作成に参照した記事は次ぎの通り。

防衛省発表「大規模演習「ヴォストーク2014」について」