2014-11-06 松尾芳郎
図:(Sikorsky Aircraft)ウエスト・パームビーチ(West Palm Beach, Florida)のシコルスキー社開発センターで10月2日にロールアウトした次世代型軍用ヘリS-97ライダー。同軸2重反転ローターは各4翅ヒンジ無しのリジッド型。
図:(Sikorsky Aircraft)米陸軍が次世代用小型戦術ヘリとして採用を検討しているS-97ライダーの完成予想図。乗員2名、兵員6名輸送可能、巡航速度400km/hr、航続距離570km、上昇限度3,000m、全備重量11,000lbs(約5㌧)。
S-97は、シコルスキー社が独自に考案、その性能を実証したX2ヘリコプターの技術を基本にして開発した小型戦術用ヘリである。X2は、メインローターを2重反転リジッド・ローターとしてトルクを相殺し、テイル・ローターを廃した。尾部に推進用可変ピッチ・プロペラを装備し、高速飛行を可能とした。低速時やホバリングではクラッチを切りプロペラを停止する。こうして効率を改善し安全性を高めながら高速飛行が可能なことを実証した。
シコルスキー社では、米陸軍が将来の戦術ミッション用として策定した「武装偵察機(AAS=Armed Aerial Scout)」計画に適合する機体として、S-97ライダーを正式に提案する予定である。S-97は侵攻作戦や戦闘区域での偵察ミッション用に作られているが、さらに対地攻撃や友軍の救援活動にも使える。S-97は、高度10,000㌳(3,000m)で時速220kt(400km/hr)で飛行できる。
AAS計画向けのS-97は、現用のベルOH-58D キオワ・ウオリア(kiowa Warrior)武装偵察ヘリ(約430機稼働中)の更新用ヘリである。
米陸軍にはもう一つの「統合多目的技術実証計画(JMR TD=Joint Multirole Technology Demo.)がある。「JMR TD」は、現在4,000機ほど使われているシコルスキー製UH-60ブラックホーク(全備重量22,000lbs / 10.7㌧)とボーイング製AH-64アパッチの更新を目指すプロジェクト。2030年代中頃からスタートし総額は1,000億㌦に達すると云われている。シコルスキー社はボーイングと組み、S-97ライダーの改良型で全備重量を30,000lbs(13.5㌧)へ大型化した「SB1. デファイアント(Defiant)」を開発中で、2017年の初飛行を目指している。両社はこれで市場の独占を狙っている。
UH-60ブラックホークには多くの系列機があり、我国では三菱重工がライセンス生産中で、これまでに約180機を製造、これを含め約4,000機が生産されている。
S-97は現用機に比べ、運動性、騒音、高速性能、いずれも格段に優れる革新的な次世代軽量軍用ヘリコプターとなる筈で、初号機の初飛行は年内に行われる予定。
シコルスキー社は、X-2試作ヘリで習得した最新の技術を活用し、2010年にS-97の開発をスタートした。同社ではS-97を2機試作し米陸軍に提供、試験と評価を受ける予定である。試作には協力企業35社が参加し全体の開発コストの25%を負担し、残りの75%はシコルスキー社が拠出している。試作2機の開発製作費は2億㌦。
ローター・ブレードの開発には「ローテイテイング・コンポジット・テクノロジーズ(RCT=rotating Composite Tech.)」、「HEXCEL」、「イーグル・コンポジット・テクノロジーズ」が協力、構造部材には「フィッシャー+エントウイックルンゲン(Fischer+Entwicklungen)」、「オーロラ(Aurora)」、「PPG工業(PPG Industries)」、その他が協力、そしてローターとトランスミッションには「パーカー・エアロスペース(Parker Aerospace)」が参加している。さらにグッドリッチ(Goodrich)がエアデータ・システムを担当、ハミルトン・サンドストランド(Hamilton Sundstrand)がフライトコントロール・コンピュータ、アクテイブ振動制御システムを担当、製作している。
S-97武装偵察ヘリコプターは長さ37㌳(11.2m)、幅16㌳(4.9m)、ローター直径は34㌳(10.4m)、胴体後部のプロペラは直径7㌳(2.1m)である。胴体は複合材製で、キャビンには兵員6名を収容できる。コクピットは乗員2名が並列で乗務する。
メインローターは同軸二重反転リジッド・ローター、コクピット後部には予備の燃料タンク、ランデイングギアは引込み式、フライトコントロールはフライ・バイ・ワイヤ方式、さらに機体振動抑制のアクテイブ制御装置、ローターハブは空気抵抗低減のため整形、赤外線放出を少なくするため統合型熱管理システム、2つのローターのトランスミッションは分離型、等を採用している。
兵装としては、戦車攻撃用ヘリファイヤー(Hellfire)ミサイル、対地攻撃用2.75㌅ロケット、それに.50キャリバー機銃(12.7mm Browning Machine Gun)および7.62mm機銃を各1基ずつ備える。さらにミッションによってはその他の兵装を外部ラックに追加搭載できる。
エンジンは1基で、推進用プロペラにより巡航速度は400km/hr、必要に応じ440km/hrまで加速可能、これは現在のヘリの2倍近い速度である。搭載エンジンはX-2実証機と異なり、現用のUH-60Mブラックホークと同じGE製YT706ターボシャフト、出力2,600shp 1基である。
他にエンジン始動用のAPUを搭載している。
図:(Sikorsky Aircraft)S-97の設計の特徴を示す図。
S-97ライダーの基本となった「シコルスキーX2」技術実証ヘリとは
シコルスキー社は2005年に最新技術を盛り込んだ「X2」型技術実証ヘリコプターの開発計画を発表した。X2は統合型フライ・バイ・ワイヤ・システムを使って、エンジン、ローター、および推進プロペラを“飛行包絡線”内で効率良く運用できる。全備重量は6,000lbs (2.7㌧)。
X-2技術実証機の特徴は、組込まれた多くの先端技術が殆どそのまま6,000lbsのX-2から11,000lbsのS-97ライダーへ、さらに30,000lbsの「JMR-TD」用SB1.デファイアントに拡大適用できる点にある。
ローターは揚抗比の高い翼型を使い高剛性のブレードで、ローターハブは抵抗の少ないハブで被い、アクテイブ振動制御システムを備えている。
図:(Sikorsky Aircraft)時速250kt (460km/hr)の高速で飛行中の「シコルスキーX2」技術実証ヘリコプター
2005年6月に開発が始まり、初飛行は2008年8月、ここでホバリング、前進飛行、旋回など30分の試験飛行を行い、2009年7月には推進プロペラをローターと連動させた試験飛行に成功した。
そして2010年9月には、ヘリコプターとしては最も早い250ktの水平巡航速度記録を達成した。
エンジンは、ロールスロイス(Rolls-Royce)とハニウエル(Honeywell)が折半出資するLHTEC社(Light Helicopter Turbine Engine Co.)開発のT800-LHT-801、1,560 shpを装備する。このエンジンは米陸軍の武装偵察ヘリ、シコルスキーとボーイング共同開発のRAH-66コマンチ(Comanche)に使われている。
X-2の最大速度は260kt、巡航速度は前述の通り250ktである。航続距離は1,300km、最大離陸重量は3,600kg。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Army Technology.com “Sikorsky S-97 raider Light Tactical Helicopter, USA”
Army Technology.com“Sikorsky S-97 Raider Light Tactical Helicopter, USA”
Aviation Week Oct. 6, 2014 page 52 “Rotary Redefined” by Graham Warwick
Aviation Week Aug. 12, 2014 “Bell, Sikorsky/Boeing to build Army JMR Rotercraft Demonstrators” by Amy Butler and Graham Warwick
“Sikorsky S-97 RAIDER Helicopter” Sikorsky Home