突如としておきた解散風「消費税をめぐる政局」


2014-11-11  元国務大臣秘書官  鳥居徹夫

安倍総理は、消費税を2015年10月に消費税率を10%に予定通り引き上げるかどうかについての決断を、遅くとも12月上旬に表明する、と伝えられている。
菅義偉官房長官は11月5日の記者会見で、「11月と12月の二つの速報値を見極めて慎重に判断するという立場に変わりはない」と述べ、12月8日発表の7〜9月期の国内総生産(GDP)改定値を踏まえて判断するのが望ましいとの考えを改めて示した。
この判断の有力な目安となるのが、7〜9月期のGDP(国民総生産)である。その速報値が発表されるのが11月17日で、改定値が12月8日である。
これまで安倍総理や菅官房長官は、「消費税増税を予定通り引き上げるかどうかの決断は、「速報値ではなく改定値の後」に判断すると表明してきた。
ところが9月3日の内閣改造後に、2人の女性閣僚の辞任などがあったが、内閣支持率に影響は少なかった。しかし国会運営では、多数党でありながらも審議が停滞している。
また与党内では、消費税の引き上げ時期をめぐっても自民党内に予定通り来年10月にという自民党税調を中心とする推進派と、延期すべきという慎重派の2つの流れができ、総理の自民党内の求心力が弱まることになりかねない。
しかも肝心の経済情勢は、4〜7月期が年間換算でマイナス7.1%という落ち込み。
消費税5%から8%に引き上げた直後であり、引き上げ前の駆け込み需要の反動減があるとはいえ、1年半後に再引き上げとなると、個人消費を中心とする内需への影響が計り知れない。
実際10月下旬に公表された9月の主な国内経済指標では、個人消費の弱さが目立った。
GDPの6割を占めるのが個人消費である。総務省が10月28日に発表した9月の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの消費支出は、物価の影響を除いた実質で前年同月比5.6%減と、減少幅は8月(4.7%減)より拡大した。
また10月31日に公表された9月の有効求人倍率は、3年4カ月ぶりに悪化した。しかも一世帯当たりの家計消費支出は6カ月連続のマイナスである。
企業業績はおおむね好調が伝えられるが、自営業などを除くサラリーマン世帯の実収入も12カ月連続で減少している。
その原因は「増税による(物価上昇で)実質賃金の低下」である。
勤労者世帯の実収入は実質で同6.0%減と前月より悪化、賃上げ率(約2%)よりも物価上昇が高かった。
そういう情勢下で、消費税増税について「予定通りか、それとも延期か」が問われるのが、安倍総理である。
内閣府は、「来年10月の消費税率10%への引き上げの是非を議論するための有識者による点検会合を11月4日から計5回、首相官邸で開催する」ことを10月29日に発表した。
有識者による点検会合では、「景気は悪くなったが、消費増税は予定通り必要」と主張する人が多かったと言われる。
速報値が公表されるのは11月17日だったが、その半月前の10月31日に日本銀行は追加金融緩和の実施を発表した。景気悪化を防ぐ対策の必要性が出てくるからである。
4月の消費増税や、円安を受けた物価上昇による実質所得の目減りが消費に影を落とし続けている岐路に立つ中で、まず金融政策が動いた。
来年10月の消費増税を、一刻も早く既定路線にしたいと考えているのが、財務省と自民党税調である。
そこに飛び出したのが、安倍晋三内閣の内閣官房の飯島勲参与(小泉純一郎首相当時の総理秘書官)がテレビ番組での発言である。
追加金融緩和発表の3日後の11月2日、関西読売テレビで放送された「たかじん(家鋪隆仁=故人)のそこまで言って委員会」で、「12月2日に衆議院が解散、14日に投開票」と断言したのである。つまり安倍内閣は、消費税増税の見送り・延期で、衆院解散に打って出るという見方である。
案の定、それには疑問の声が多く出された。「解散されても野党は、これ以上は負けない。もちろん自民党も今以上に議席は増えない」とか「せっかく数があるのに、何のための解散か」という指摘である。
これに対し、安倍総理に近い内閣参与の本田悦郎氏や濱田宏一氏らは「1年半に2回も消費税を引き上げることは個人消費への打撃、景気への悪影響と税収の減少となる」と再増税の延期を主張する。
つまり安倍内閣にとっての焦点は、野党ではなく財務省とそれに迎合する自民党税調ということである。
かつて小泉純一郎総理は、自民党が多数党でありながらも、衆議院を解散し、郵政民営化の流れをつくった。しかも地すべり的大勝利で、政権安定の基盤も確立した。
安倍総理周辺には、「消費税の増税は予定通り」という財務省や自民党税調のシナリオを潰すことで、国民に「信を問う」という筋書きができている、という見方も強い。
実際、どの世論調査をみても国民の7割が、来年10月の再増税に反対している。
つまり有識者から意見を聞き、安倍晋三首相が「消費税の際引き上げの延期」とか「国民の意見も聞きたい」と言って、解散するシナリオである。
ちょうど2年前は、11月16日解散、12月16日総選挙であり、今回も自民党が政権奪回した時と同様の日程である。
2年前、民主党政権で野田内閣が行った解散総選挙は、応援団である連合が運動員の確保に苦労した。それは年末であったため製品の納期や決算で、郵便関係は年賀状対策、教員は通知表の作成作業で、組合員の有給休暇の取得が思うに任せなかった。
しかし年明けになれば、有給取得の環境一つとっても大違いなのである。
その選挙で、連合の古賀伸明会長が出身である電機連合の組織内候補であった平野博文議員(民主党内閣で官房長官、文部科学大臣を歴任)も、あえなく落選したほか、連合の組織内議員も苦戦を強いられた。
古賀連合会長には、野田首相(当時)から、解散について、一切の相談もなかったのである。解散2日前の党首討論の事前に、古賀連合会長に一方的に通告されただけであった。
しかも今回は統一地方選挙の直前である。自民党の地方議員にとって国政選挙は、自分の運動とセットであり、国会議員候補者はもとより、地方議員やその候補者にとっても好都合である。
もちろん政治の一寸先は闇であり、解散権は安倍首相にあることは言うまでもない。

–以上−