オービタル・サイエンス社、打上げ失敗で[アンタレス]ロケットのエンジン変更を決める


2014-11-11 松尾芳郎

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図:(NASA)10月28日午後6時22分(米国東部時間)、オービタル・サイエンス社製[アンタレス]ロケットが国際宇宙ステーション(ISS)向け貨物輸送機”シグナス”を搭載、ワロップ島宇宙基地から発射された。しかし主エンジン1基が不調となったため、発射直後にセーフティ・オフィサーの手で爆破された。このためISS向けの貨物2,250kgが全損となる。

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図:(NASA/Terry Zaperach)”アンタレス”打上げ失敗(10月28日)の翌日、ワロップ島の打上げ発射台を写した写真。ロケットを発射台にセットする「輸送車兼エレクター兼発射塔」(写真で斜めになっているタワー)が損傷した以外は、損害は軽微。

 

NASA有人探査部門担当の副所長ウイリアム・ガーステンマイヤー(William Gerstenmaier)氏は、NASA ワロップ島(Wallop Island, Virginia)宇宙基地で10月28 日午後6時22分に起きた事故に付き、次ぎのように語っている;—

「発射台0Aから発射されたオービタル・サイエンス社の”アンタレス”ロケットと、搭載した国際宇宙ステーション(ISS)行き貨物輸送機”シグナス”が、この事故で全損となった。これはオービタルと交わしたISS向け貨物輸送の3回目の輸送となるもので、大変失望している。しかし、オービタル社は今年すでに2回のISS向け輸送に成功している有能な企業なので、直ぐに原因を突き止め、正常な飛行を再開してくれるものと信じている。」

オービタル・サイエンス社は11月5日に、NASAと契約済みの「ISS向け貨物輸送サービス(CRS=commercial resupply services)」を遂行するため、”アンタレス”の主エンジンを変更すると発表した。

オービタルは次回のISS向け輸送からは改良型”シグナス”輸送機を使うよう準備中だが、”アンタレス”のエンジン変更終了までの期間中の代替ロケットは決まっていない。候補として、スペースX社製”ファルコン9”、ULA =United Launch Alliance)、それにヨーロッパのエリアンスペース、が挙げられている。

“ファルコン9”はスペースX社製の”ドラゴン”輸送機でISS向け輸送に数回成功している。ULAは、”アンタレス”とほぼ同じサイズのデルタIIロケットを持っている。エリアンスペースは、ロシア製ソユーズロケットを使い南米の仏領ギアナかロシアのバイコノール宇宙基地から打上げることができる。

オービタル社内の事故調査委員会によると、大西洋岸にあるワロップ島宇宙基地から打上げられた”アンタレス”は点火15秒後に2基の主エンジンのうちの1基が故障した。これまでに蒐集したテレメーターやビデオからのデータ、および落下したロケットおよび”シグナス”輸送機などの破片から判ったことは、次ぎの通り;—

「“アンタレス”搭載の2基のAJ26の内の1基に使われている液体酸素供給用ターボポンプが破損していた。」

発射後、推力低下に気づいた担当のセーフテイ・オフィサーは、ロケットがそのまま発射台に落下爆発するのを防ぐため、直ぐにFlight Termination Systemを作動させて空中で爆破、地上発射台の損害を最少にすることに成功した。

事故後行われたNASAの検証では、爆発により打上げロケットを発射台に乗せる「輸送車兼エレクター兼発射塔」が損傷したのが主な被害で、他は照明用ケーブルや避雷装置などの焼損などで、直ぐに修復できると云っている。

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図:(Aerojet Rocketdyne)アンタレスは、1段目主エンジンにAJ-26地上推力3,265kN(734,000lbs)を2基装備する。AJ-26はロシアの月ロケット打上げに使われたNK-33エンジンに、エアロジェット・ロケットダイン社がジンバル機構を追加し推力偏向機能を追加したエンジンだ。

 

ロシアの情報によるとRD-193(ケロシン燃料使用)が提案されているが、ATKはロシア製大型固体燃料ロケットRD-180 1基に換装する案、また、AJ-26を基本としたNK-33の生産を再開する案、などが検討されている。最新のロシアタス(TASS)通信は「オービタル社は後継にロシア・エネルゴマッシュ(NPO Energomash)製RD-193エンジンを選んだ」と報じた。

RD-193は推力200㌧クラス、前身のRD-191を改良し、軽量小型化に成功したロシアの最新型エンジンである。

オービタル社のデイビッド・トンプソン(David Thompson)会長兼CEOは次ぎのように述べている。すなわち;—

「NASAと約束した『総額19億㌦の費用で2016年末までに20㌧の貨物をISSへ輸送(CRS)する』件は必ず実行する。これには搭載量を3,300kgに増やした改良型”シグナス” を使うが、エンジンを換装した改良型”アンタレス”が完成すれば、これと共に使う予定だ。」

オービタル・サイエンス社(Orbital Sciences Corp.)は、軍および民間向けの中/小型の宇宙打上げロケット等を開発、製造する会社で、本拠地はダレス(Dulles, Virginia)にある。主な製品は、地球周回軌道や地球静止軌道を回る衛星とその打上げロケット、また惑星間飛行用の無人宇宙機、それらに関わる様々な部品、などである。さらにミサイル防衛(MD)システムで使う目標飛翔体も製造している。

アンタレス打上げロケット

図:(Orbital Sciences Corp.) 「輸送車兼エレクター兼発射塔」で発射台にセットされたアンタレス・ロケット。アンタレスは実質的にオービタル社とユズノイ設計局の共同開発と云える。全長40.5m(110/120型)および41.9m(130型)、直径は3.9m、の中型打上げロケット。5㌧のペイロードを低地球周回軌道に乗せることができる。発射時の重量は240㌧、2段式だが3段式も提案している。2013年4月以来これまでに110型2回、120型2回の発射に成功し、今回の130型発射で失敗した。

 

オービタル社は大型ロケットの経験が少ないので、ウクライナのロケットメーカー、ユズノイ(Yuzhnoye)設計局の支援を得て、推進剤タンク、加圧タンク、その他の関連部品を調達している。このため、アンタレスは、ユズノイ社が作るゼニット・ロケットとほぼ同じサイズとなり、直径3.9mで、ペイロードのフェアリングも同じ寸法である。

2段目は、ATK社が開発した固体燃料ロケット、キャスター30(Caster 30)を搭載している。このエンジンは平均推力293.4kN(66,000lbs)、最大で395.7kN (89,000lbs)を出し、推力偏向装置を備えている。

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図:(Orbital Sciences Corp.)低地球周回軌道を飛行するシグナス貨物輸送機。図の下側が2枚のソーラーパネルを備えたサービスモジュール、上部の白色円筒形は与圧式カーゴモジュールで2,000〜2,700kgを搭載できる。日本のJAXAが、ISS向け貨物輸送に使っているHTV(こうのとり)はかなり大型で、全長10m、直径4.4mである。

完成間近のシグナス

図:(Orbital Sciences)完成間近のシグナス貨物輸送機。シグナス(Cygnus)は、NASAの「民間軌道輸送サービス(COTS= Commercial Orbital Transportation Services)」政策の下でISSに貨物輸送をする宇宙船である。既述のようにすでに2回成功、3回目は失敗した。NASAとは、これ等を含め今年始めから8回に分けて合計20㌧の貨物をISSに輸送する契約になっている。

シグナスの主契約はオービタル社だが、カーゴモジュールはタレス・アレニア・スペース社製、プロキシミテイ・リンク・システムは我国の三菱電機が担当している。

–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Orbital Sciences Corp. Press Release 11/07/2014 “Orbital Announces Go-Forward Plan for NASA’s Commercial Resupply Services Program and the Company’s Antares Launch Vehicle”

Aviation Week Ebulletin Nov. 5, 2014 “Orbital Drops AJ-26 After Failure, Loking for Alternate Launcher to ISS” by Frank Morring Jr

NASA News release 14-302, Oct. 28, 2014 “NASA Statement Regardong Oct.28 Orbital Sciences Corp. Launch Mishap”

NASA News release 14-303, Oct. 29, 2014 “NASA’s Wallops Flight Facility Completes Initial Assessment after Orbital Launch Mishap”

TASS Russian News Agency Oct. 31, 2014 “Orbital Sciences likely to choose Russian engine for new Antares rocket”

Aerojet Rocketdyne “AJ26 Product Overview”