2026-5-16 (令和8年) 松尾芳郎

図1:(Rubin Observatory /NOIRLab/その他)南米チリのセロ・パチョンに建設されたベラ・ルービン天文台。
ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory)は、南米チリのセロ・パチョン(Cerro Pachon, Chili)に建設された口径8.4 mの可視光・赤外線天体望遠鏡を備える天文台である。「政府を代表して米国科学財団(NSF=National Science Foundation)」が望遠鏡施設の建設を担当、「米国エネルギー省・科学局(DOE= Department of Energy, Office of Science)」がカメラの開発を担当した。名前は、宇宙にある「暗黒物質(dark matter)」の存在を初めて確認した天文学者「ベラ・ルービン(Vera C. Rubin)」に因んで付けられた。また望遠鏡は、主鏡製作費の一部を提供したハンガリー出身の富豪「Charles Simonyi」氏の名を取り「シモニー・サーベイ望遠鏡(Simonyi Survey Telescope)」と名付けられた。
「ルービン天文台」は、主鏡の構造、カメラの撮影能力、望遠鏡の撮影速度、観測・データ処理用コンピューターシステム、いずれもこれまでに無い最新の技術を組み込んでいる。
全米各地の22の大学・研究所・企業が「LSST (Legacy Survey of Space and Time) Corporation」(“宇宙の広域観測機関”の意)を組織し、ここが科学運用を行う。
「NSF国立光学赤外線天文学研究所」略称「NOIR Lab」(US National Science Foundation National Optical-Infrared Astronomy Research Labo) 」は、米連邦政府が資金を出し地上光学・赤外線天文学を研究する組織である。アリゾナ州のキットピーク国立天文台、ハワイ州マウナケアとチリのセロ・パチョン山にあるジェムニ天文台、チリのセロ・トロロ汎米天文台、そしてチリのセロ・パチョン山に新設された本題のルービン天文台、の建設・運用を担当している。
シモニー・サーベイ望遠鏡の中核となるのは直径8.4 mの主鏡と32億画素(3.2 Giga-pixel) CCD付きの巨大デジタル・カメラ「LSST=Legacy Survey of Space and Time」である。これで9.6平方度の超広視野を実現、南半球の夜空に広がる宇宙を10年間に渡り観測するプロジェクトで、デジカメと同じ名前「LSST」観測を実施する予定である。
「NOIR Lab」によると、2026年後半から予定されている「LSST」観測プロジェクトが始まれば、最初の数年間は2~3日ごとに1万個ほどの小惑星が新しく発見され、判明する小惑星の数は3倍になると予想している。また、海王星軌道の外側を回る「太陽系外縁天体(TNO=Trans-Neptunian Object)」の数は10倍に増える、と見込まれている。ルービン天文台太陽系部門の専門家は「これまでの望遠鏡で数十年かかっていた発見を、ルービン天文台は数ヶ月で達成できる」と話している。
これを繰り返すことで、これまで詳しく観測できなかった短時間で変化する天体、すなわち超新星爆発や地球近傍の小惑星の動き、などを詳細に観測できるようになる。このデジカメが収録するデータは、一晩で15 tera bites(テラバイト)にもなる。この超大量のデータを処理するため、Googleがソフト開発に参画している。
「NOIR Lab」(NSF国立光学赤外線天文学研究所)は2026年4月2日付けで、ルービン天文台のシモニー・サーベイ望遠鏡の観測データから、1万1000個以上もの小惑星を新たに発見した、と発表した。今回の発見は2025年夏に1ヶ月半実施したテスト観測のデータから得られたもので、地球に近い軌道を公転する彗星、小惑星、流星などの「地球近傍天体(NEO=Near-Earth Object)」と、「太陽系外縁天体(TNO= Trans-Neptunian Object)」が含まれている。これ以前にシモニー・サーベイ望遠鏡は2025年4~5月の「ファースト・ルック(First Look)」観測で1,500個以上の天体を見付けているので、合計約1万2,700個を発見したことになる。

図2:(Wikipedia)内側太陽系を示す図。中心が太陽、内側から水星(Mercury)、金星(Venus)、地球、火星(Mars)、無数の小惑星が集まる小惑星帯(白色の帯)、その外側に木星(Jupiter)の公転軌道、が描かれている。

図3:(Rubin Observatory /NOIRLab)中心が太陽、濃いブルーで示す輪が前図に示す小惑星帯、その外側に木星(Jupiter)の公転軌道が描かれている。2025年夏にシモニー・サーベイ望遠鏡が試験観測した区域は「薄青色」で示す放射状部分。左やや上向きの放射は2025年4~5月のFirst Look観測で発見した1514個の小惑星。下向き数本の放射部分は2025年夏の1ヶ月半の観測で発見した約11,000個の小惑星を示している。
今回報告された新発見の小惑星には、「地球近傍天体(TNO)」約380個が含まれているが、この中には最大径500 mの小惑星があり、いずれも地球に衝突する危険はないとされる。過去30年間で見つかった「TNO」は合計約5000個であるのに比べるとルービン天文台のTNO発見のペースは桁違いに早い。
特に注目されているのはTNOは「2025 LS2」と「2025 MX 345」の二つ、これらは極端に細長い軌道を回っていて、太陽から最も遠ざかる時は1000天文単位(1 AU= 1 Astronomical Unit) / 地球から太陽迄の距離約1億5千万キロ)に達する。このような天体の発見は、存在するかも知れない“9番目の惑星”の発見の手掛かりになるかも知れない。

図4:(Rubin Asteroid Discoveries Dashboard/宇宙へのポータルサイトSORAE)太陽系外縁天体(TNO)の一つ「2025 LS2」の太陽公転軌道。左上隅の同心円は海王星の公転軌道である。
今回発表された成果は「氷山の一角に過ぎない」と専門家は見ている。発見された天体に含まれる直径140 m級の「地球近傍天体(NEO=Near Earth Object)」は地球に衝突の恐れがあるため監視の対象になっている。ルービン天文台は新たに9万個のNEOを明らかにするものと期待されている。この中には危険なNEOも含まれるかもしれない。ルービン天文台では今年2月24日に、恒星の爆発から小惑星の移動まであらゆる過渡現象を特定して注意喚起するほぼリアルタイムのアラート生成システムを完成、一晩で天空で生じた変化を80万件検出した。将来はシステム改良で一晩で700万件のアラートが生成されると見られる。
ベラ・ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory):
既述のように、ベラ・ルービン天文台(Vera C. Rubin Observatory)は、南米チリのセロ・パチョン(Cerro Pachon, Chili)に建設された。サーベイ観測(Survey Observation/特定の天域や全天を観測する掃天観測の意味)専用のシモニー・サーベイ(Simonyi Survey)望遠鏡を運用する天文台である。渦巻銀河の回転円盤の観測からダークマター(dark matter)の存在を実証した女性天文学者ベラ・C・ルービン(Vera C. Rubin)に因み2020年に命名された。
「シモニー・サーベイ(Simonyi Survey)望遠鏡」は、口径8.4 mの広視野光学赤外線望遠鏡で、9.6平方度(満月45個に相当)の超広視野を、3.2 Giga Pixel (32億画素)CCD付きの巨大デジタル・カメラ「LSST=Legacy Survey of Space and Time」でカバーする。このカメラは波長320-1050 nm (紫外線から近赤外線)の範囲を6枚(6波長帯)のフィルターでカバーしている。天文台から見える南半球全天を1波長帯サーベイ毎に僅か数日の夜で完了する。このサーベイを繰り返して10年間継続する。1夜の観測で得られるデータ量は20 TB(Terra Bite)、1年で約7 PB (Peta Bite)に達する。この10年間のサーベイを「時空間レガシー・サーベイ / LSST(Legacy Survey of Space and Time)」と呼んでいる。
ルービン天文台のホームページには、「LSST」観測で得られる膨大なデータは、天文学の次のテーマに画期的な影響を与えると予想される。
ダークマターの性質(The Nature of Dark Matter)
太陽系天体のカタログ化 (Cataloging the Solar System)
変動する天空の探索 (Exploring the Changing Sky)
天の川銀河の構造と誕生 (Milky Way Structure & Formation)
天文台山頂施設:
セロ・パチョン山頂にある天文台は、回転する台座に設置した「シモニー・サーベイ望遠鏡」を収納する大型ドームと、それに付属する東側に伸びる複雑な支援設備室で構成され、総面積は2,500平方メートルになる。
天文台は、望遠鏡とその関連装置類から生じる大量の熱で温められるが、外気は高地のため希薄で極端な低音で冷やされ、これがドームの中で入り混じり望遠鏡の精度に影響を及ぼす。これを封じるため温度維持に特化した構造になっている。
天文台付属のエレベーターは能力80 ton、これは主鏡などミラーやカメラなど装置類の運搬用で人員は乗れない。
ミラーやカメラの修理や整備は全て天文台に付属する施設で行い、山頂から下界に取り下ろすことはしない。
例えば、「コーテイング・チャンバー(Coating Chamber)」では、望遠鏡ミラーの表面は使用前に極薄の反射被膜をコーテイングする必要があるが、この作業は10年間のサーベイ中に繰り返し行う必要がある。これを下界に運び実施するには、サイズと運搬の困難さで不可能である。
「カメラ・クリーンルーム」は、多種類のカメラ関連部品は空気中に漂う微細なちり、埃に敏感に影響を受けるので、真空室の中で整備作業をする必要があり、そのための部屋である。

図5:(RubinObs/NOIRLab/SLAC/DOE/NSF/AURA)ベラ・ルービン天文台の概要。中心となる「シモニー・サーベイ望遠鏡」は「30 mドーム」内に収められる。米国科学財団(NSF」と「米エネルギー省科学局(DOE」が4億7300万ドルを出資、標高2,700 mのセロ・パチョン山頂に建設された。

図:(RubinObs/NOIRLab/SLAC/DOE/NSF/AURA) 「シモニー・サーベイ望遠鏡」の外観。口径8.4 mで重量は350 tonあり、幅11 mの耐風型採光スクリーンを透して星空をサーベイする。

図6:(RubinObs/NOIRLab/SLAC/DOE/NSF/AURA)シモニー・サーベイ望遠鏡のミラー構成。入射光を直径8.4 mの主鏡で受け止め副鏡に反射、それを第3鏡から反射レンズを通して「LSST」デジカメに送る。

図7:(RubinObs/NOIRLab/SLAC/DOE/NSF/AURA)10年以上と1億7000万ドルを投じて開発された「LSST」カメラは重さ3 ton以上で乗用車ほどの大きさである。32億画素(3.2 Giga-pixel) CCD付きの巨大なデジタル・カメラ「LSST=Legacy Survey of Space and Time」で、副鏡の外に設置されている。
終わりに
ベラ・ルービン天文台はサーベイ観測(掃天観測)用のシモにー・サーベイ望遠鏡を装備する天文台。文中に述べた地球近傍天体(NEO)や太陽系外縁天体(TNO)の捕捉観測をするだけでなく、初公開の画像には「おとめ座銀河団」、「三裂星雲」、「干潟星雲」の観測結果も含まれている。地球、太陽系とその近くだけでなく、宇宙草創期の姿までも明らかにしてくれる従来技術の観測手法を一段超えた革新的な天文台である。2026年後半から始まる「LSST」観測運用を期待したい。
―以上―
本稿作成の参考にした主な記事は次のとおり。
- National Science Foundation, Department of Energy, Office of Science “VERA C. RUBIN OBSERVATORY”
- SORAE 宇宙へのポータルサイト配信2025年4月20日“ルービン天文台の観測データから1万1000個以上の小惑星を新発見、地球近傍から太陽系外縁まで”
- 天文学辞典“ベラルービン天文台”
- Forbes Japan 2026-4-18配信“小惑星1.1万個を新たに発見、ルービン天文台の初期観測 地球に迫る可能性がある天体33個も”