2014-11-22 元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫
■□消費税の再増税を、1年半延期とする政策転換
衆議院が11月21日に解散され、臨時閣議で「12月2日公示、12月14日投開票」の選挙日程が決定し選挙戦が事実上スタートした。
安倍首相は、脱デフレに向け消費税を8%から10%への再増税を1年半延期することを表明し、歳末の選挙戦となった。
これは2年前に野田民主党政権の民主、自民、公明の三党合意で既定路線とされ、税制関連法で当初10%への再増税を、2015年10月からとする従来方針の大転換を目指すもので、「国民に信を問う」ものである。
消費税の再増税の施行期日の延長には、国会での法律改正が必要である。
本来ならば、再増税の施行期日の延長法案は、自民党が決断すればよい話だが、そのように進まないのが国会と霞ヶ関の複雑怪奇なところである。
自民党内の法案審査では、財務省と自民党税調が猛反発する。自民党の総務会は大荒れとなり、そこでの了承は絶望である。財務省と自民党税調のパワーは、内閣の方針に抵抗し否決するほどまでに強いのである。
仮に自民党の了承を得たとしても、国会を乗り切れるかと言えば、自民党内の増税既定路線グループが足を引っ張り、予算編成に支障がでると、安倍首相の求心力が落ち政局となる。
自民党は、国会で3分の2近い議席であっても、消費税の再増税の施行期日の延長法案は国会に提出することすらできない。つまり自民党内がまとまらず、一部野党が抵抗するからである。
そこで安倍首相の戦略は、消費税の再増税の施行日延長を、解散で国民に問い、民意で施行日の延長を図ったのが今回の解散である。
今回の解散は、ずばり「再増税シナリオ潰し解散」である。財務省と自民党税調が狙った再増税への既定路線つぶしのため、解散で信を問うというのが、安倍首相の狙いである。
野党は「解散の大義がない」と反発したが、「アベノミクスは道半ば、全国津々浦々までの浸透させることが必要」「脱デフレと経済再生には、(消費税の再増税を既定路線の)来年10月にすべきではない」というのが、安倍首相の大義である。
■□再増税の既定路線に執着の自民党と民主党
消費税の再増税の1年半の延期の安倍首相の方針には、財務省や自民党税調が猛反発する。
財務省と二人三脚で再増税を訴える党税制調査会幹部も「政策変更をしなければならない経済状態かといえば、全くそうではない」(町村信孝顧問)などと発信を強めた。
さる11月17日に発表された7~9月期国内総生産(GDP込み)速報値は、想定外のマイナス成長であったが、野田毅税調会長は記者団に「断固として予定通り(再増税を)やらなければいけないことは党派を超えて共有している」などとして、消費税再増税を予定通り来年10月に実施すべきだと主張してきた。
また野田毅税調会長は、記者団に「(衆院解散は)国民から理解されるような大義が提示されないと、とんでもないしっぺ返しを受けることもあり得る」と述べ、安倍首相の解散決断を批判する発言もした。
自民、民主、公明の3党が消費税増税で合意した2012年当時の3党代表は自民・谷垣禎一総裁、公明・山口那津男代表、民主・野田佳彦首相である。
民主党の野田佳彦前首相は、今月15日に佐賀県唐津市で講演し、安倍首相が来年10月の消費税率10%への再増税を先送りする方針を固めたのは、自らの経済政策「アベノミクス」の失敗によるものだと指摘。「増税延期を追い風に選挙をやるのは究極の人気取りだ」と強調した。
そして消費税増税をめぐる自民、民主、公明の3党合意にも触れ「国民に信を問う前に(合意した)私たちに何も相談がない。信義に反する」と述べた。
しかし野田前総理は、国民への信を問うことなく、3党合意を進めた。自民・公明を取り込んだ消費税増税の談合である。
ところが民主党幹部らは14日になって、消費税再増税の凍結を容認する方針に転換した。野田佳彦前首相は記者団に、「景気回復が遅れていると政権が認めようとする中で、増税という選択肢はない。消費税(再増税)の延期はやむを得ない」というのである。また自民党内の増税派も姿勢を変えている。
つまり、安倍総理は、財務省や自民党税調による再増税の既定路線のシナリオを潰す戦略としての解散総選挙となったのである。
■□10%へ引上げ延期なら、軽減税率の政局はなし。自民・公明の連立は安泰
現行の法律では、消費税率は来年10月に10%への引き上げが予定されていた。公明党が主張する軽減税率の取り扱いも、その際の焦点となる。
また消費税が10%になる時には自動車取得税は廃止されることとなり、それを原資とする地方財源の手当ても課題である。
軽減税率の導入は「税率10%時に」となっているが、具体的な線引きは何も決まっていない。10%への引き上げの延期によって、軽減税率の導入論議はなくなる。また自動車取得税は廃止しなくともよく、地方の財源の取り扱い(補填)を気にする必要がなくなるのである。
軽減税率の取り扱いは、公明党との連立で爆弾を抱えているようなものであった。ところが消費税が8%のままならば、連立維持の不協和音とはならない。
■□安倍首相の狙いは、再増税の延期で「国民に信を問う」こと
安倍総理自らが「デフレ脱却は道半ば」と述べたように、必ずしも景気は好循環とはいえない。
日本経済にとっては、政府の消費税の再増税を延期することで、国民に信を問うことは評価できる。経済が悪い時には減税、良い時には増税が常識である。
そもそも経済状況が回復基調にあるとはいえ、消費税の再増税への既定路線のまま進めば、まさに「病み上がりに冷や水」となり、日本経済と国民生活にとって打撃となる。
つまり今回の解散は、安倍首相による「再増税シナリオ潰し解散」である。
財務省と自民党税調が狙った既定路線をつぶすため、解散で信を問うというのが、安倍首相の狙いである。
–以上−