我国の次世代戦闘機「F-3」の概念設計が進む


2014-11-25 松尾芳郎

2014-11-30 改訂2(円表示金額を訂正)

2014-12-09  改訂3(誤字を訂正)

 F-3の最新の概念設計

図:(防衛省技術研究本部)技研が公表したF-3次世代戦闘機の最新の設計案25DMU。近く初飛行するステルス技術実証機「ATD-X心神」で試験する先端技術を取り込み、最強の戦闘機を目指す。大きさは「ATD-X」の2倍ほど、F-22ラプターに近くなると云われる。

 

防衛省の技術研究本部(TRDI=Technical Research & Development Institute)が数年前に発表した”将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン–将来の戦闘機に必要な技術–”と題する論文がある。ここでは、「ロシア、中国では第4世代戦闘機の保有機数が著しく増加し、併せて次世代型ステルス戦闘機の開発が進んでいるため、我国の数的劣勢は避けられない」としている。

この脅威に対抗するため我国が開発すべき戦闘機の構想を示し、技術を駆使した新たな戦い方が必要だと述べている。

すなわち「高度に情報(Informed)化/知能(Intelligent)化され、瞬時(Instantaneous)に敵を叩く「i3 Fighter」が必要で、そのため我国が持つ優れた技術を結集した機体の実現を図る。具体的には;–

①   射撃機会を増やすのと無駄弾を無くすために、誰かが撃てる、打てば当たるクラウド・シューテイング。

②   電波妨害に負けないフライ・バイ・ライト・システム。

③   世界一の素材技術を使い、敵を凌駕するステルス性。

④   世界一の半導体技術で次世代ハイパワー・レーダー。

⑤   世界一の耐熱材料技術で次世代高出力スリム・エンジン、などの開発。

F-3の次世代技術

図:(防衛省技術研究本部)将来戦闘機F-3に採用予定の新技術。新技術については本サイト「先進技術実証機「ATD-X」(心神)、今年末に初飛行」2014-06-22掲載、2014-06-23改訂、に記載済みなので参照されたい。

F-3開発予定表

図:(防衛省技術研究本部) 新技術を搭載したステルス実証機ATD-X心神の初飛行は2015年初めに行われる。この成果を盛り込んだ次世代ステルス戦闘機F-3は、ATD-Xの2倍ほどの大きさで、2025年の初飛行を想定し研究が進められている。

 

F-3次世代戦闘機構想について、技術研究本部がエビエーション・ウイーク誌の質問に答えた内容が明らかになった。以下は同誌が報ずる大要である。

 

日本が目指す次世代戦闘機は、速度よりも遠距離性能に重点を置き、それに独自に研究を進めている複数の技術を盛り込んだものとなる。すなわち、想定される数的劣勢を跳ね返すため、友軍機と目標視認データの共有化、大型の高性能ミサイルを胴体内へ搭載、退避中でもミサイル誘導が可能、などの技術だ。

これ等の開発は今後4年間(上の予定表にあるように2018年までに)完了するものと見られる。日本防衛省は、財務省などが望んでいる国際共同開発の可能性を否定はしていないが、ステルス機開発では後発の立場にあるため、主導権を失うことを恐れている。特に、独自の要求である“速度より航続距離の重視”の項目は譲れないとしている。

防衛省は、2030年頃には双発のF-3戦闘機を配備したいと考えている。技術研究本部(TRDI)とIHIが進めるエンジン開発は、すでに相当なレベルに達しており驚くべき高出力ターボファンの出現が近づいている。TRDIは、機体構造の分野では三菱重工と共同で、また電子装備では機器開発で著名な三菱電気と共同で、開発に取組んでいる。

防衛省によればF-3戦闘機は、現在配備中の三菱重工製F-2戦闘機の更新用と位置づけられている。正式決定は2018年会計年度になる予定で、ここで独自開発か国際共同開発かが決まると云う。

国際共同開発の場合最も可能性のある相手は米国だが、米空軍と海軍はロッキードマーチン製F-35の後継機種を未だ決めていない。これについて防衛省は“F-2の退役時期に合わせてF-3の開発を進める必要がある”と述べ、暗に米国のF-35開発プログラムの大幅な遅れに時期を合わせることに難色を示している。

防衛省は、2010年以来これまでにF-3の機体研究に1,200億円(約10億㌦)を投入済み、2015年度予算では412億円を要求している。これ等を通して、技術研究本部(TRDI)の云う「i3」技術、すなわち次世代戦闘機の中核となる技術研究が進められている。これ等新技術はステルス実証機ATD-X「心神」に組込まれていて、来年早々に初飛行する予定だ。

さらに2015年度予算ではF-3用エンジンの開発用として142億円を別途要求して、F-3の機体に先んじて完成させることを計画している。このエンジンの推力は2012年に33,000lbsと発表されたが、変更されていない。

原型エンジンの燃焼室、高圧コンプレッサー(HPC)、高圧タービン(HPT)は現在試験中。このうち高圧タービン(HPT)の試験は2015年度中に完了する見込みだ。低圧コンプレッサー(LPC)と低圧タービン(LPT)の試験は2017年度中に終了予定。そしてこれ等を組込んだ試作エンジンの試運転は2018年度に実施される。

エンジンで最も注目されるのは、これまでの常識を破る高温1,800℃ (3,272F)で運転される点だ。この結果、エンジンは細く作ることができ、機体の前面面積を小さくできる。F-3が超音速巡航可能か否かは別として、機体前面面積を小さくするのは超音速で飛ぶ戦闘機の必要条件である。

今のところ日本は新戦闘機の本格開発に乗り出すかどうか決めていないが、好戦的な中国の脅威を痛切に感じ始めているため、自国防衛のため数千億円に達する開発費の拠出を決定する可能性が高まっている。

防衛省は「新戦闘機に必要な開発費を詳しく検討したことはない、また90機のF-2戦闘機の代替として必要なF-3の機数も決まっていない、さらに新戦闘機の詳細なスペックも未定だ」と話している。

技術研究本部(TRDI)が11月に行った公式セミナーでは、「F-3は依然TRDIの担当段階であり、日本が目指す方向を示す1プロジェクトである」としている。

TRDIでは、2011、2012、2013各年毎にF-3の概念設計を纏め、デジタル・モックアップ(DMU=digital mocj-up)として平成年号を冠した23DMU、24DMU、25DMU、と名付けた概念設計を行っている。

それぞれのDMUを検証すると、主翼前縁の後退角がいずれも40度となっており、アフタバーナーを使用せずに超音速巡航をするいわゆるスーパークルーズ(supercruise)機でないことが判る。

設計は、年ごとにステルス性と他の飛行特性との関係で少しずつ変っているが、垂直尾翼を廃して低周波レーダー探知に対抗するような変更はしていない。全体の形状は変更され、僅かだが大きくなっている。エンジン推力は前述のように33,000lbsなので、機体はロッキードマーチン製のステルス戦闘機F-22ラプターに近くなっている。ことによるとエンジンは推力を絞って使われるかも知れない。

 

(注)F-22ラプターは、全長19m、翼幅13.56m、最大離陸重量38㌧、エンジンはP&W製F119-PW-100推力35,000lbsを2基、航続距離2,800km、巡航速度マッハ1.7の超音速巡航能力を持つ。2005年末から配備が始まり179機が全米各地に展開している。我国が導入を希望したが米議会の拒絶にあい、F-35を購入/ライセンス生産に変ったことは記憶に新しい。

Raptors reign at Red Flag

図:(Lockheed Martin)F-22ラプターはF-15C/Dの後継機として開発され、ステルス性を持つ第5世代戦闘機の先駆け。アフタバーナーを使わずに超音速巡航ができる。2011年末に生産を終了。

2014年版の26DMUは公表されていないが、25DMUでは、大型ミサイルの収納可能な兵装庫と、高アスペクト比の大型主翼となり、一層の長距離飛行が可能となった。25DMUで航続距離が延伸されたので、今年度に発表される26DMUでは余り大きな変化はないと思われる。そして26DMUが最終設計案になると予想される。

23DMUは2011年に発表され、試作中の技術実証機ATD-X心神を大型化した機体である。他のステルス機と同様、レーダーに感知され易いエンジン・ファンは、インレット・ダクトを湾曲させてレーダー電波を反射しにくくする構造とし、また、尾翼は他と同様4枚で外側に傾けた垂直尾翼を備える。

4基の中距離空対空ミサイルを納める兵装庫は胴体下面に並列に設けられているが、かなり大きい。ロンドンの国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies)のダグラス・バリー(Douglas Barrie)氏は「図面から判断すると、胴体内に搭載するミサイルは、ロケット推進ではなく、大型で長射程、高精度のラムジェット推進型になるようだ」と述べている。

公表されたどの設計図面にも、この”中距離ミサイル”とは別に胴体側面に装備する短距離ミサイル2基、同じく胴体の両側面に大型のパッシブ・レーダー・アレイ、さらにコクピットの下面と前部に赤外線センサー、が描かれている。機首には強力なAESAレーダーが装備されている。この結果23DMU設計では、胴体が太くなり(厚みが増大)側面のレーダー反射面積が大きくなった。

24DMUではこれを修正して機体全体を薄く改め、エンジン位置を外側に移し、インレット・ダクトの湾曲を廃し、ダクト内にレーダー・ブロック用のストレーナー・バッフルを取付けることにした。4基の中距離ミサイルは、左右の兵装庫内に2基ずつ縦に納めるように改めた。2枚の垂直尾翼は、F-22との競争に敗れたノースロップYF-23に似たV字型配置とした。TRDIが行った模擬空戦の結果、23DMUに比べ24DMUのパイロットは、13%多くミサイルを発射でき、敵機からのミサイル発射数はその2/3に止まった。(優れたセンサー・システムのお陰で)ミサイルを発射できる時間幅は、23DMUおよび24DMU共に敵機のそれを上回る結果を得た。また、垂直尾翼前縁の後退角は変更してもレーダー反射面積には余り影響がないことが判った。

F-3設計の変遷

図:(技術研究本部)F-3の設計概念図変遷、左から23DMU、24DMU、25DMUを示す。25DMUはほぼ最終案となる模様で、大きくなった主翼、湾曲したエンジン・インレット、中距離ミサイル6基を納める大きな兵装庫が特徴。

 

25DMUは2013年に行われた改訂版だが、これでは再びインレット・ダクトの湾曲が復活した、しかし胴体側面の高さは23DMUより低くしてある。エンジン位置は内側に戻され、両側のインレット・ダクトは上側かつ内向きに湾曲させ、ダクト下側には計6基の中距離ミサイルを並列に装備することに改めた。これに関して前述のダグラス・バリー氏は述べている。「大型で高価なミサイルだがその搭載数を増やしたのは、日本が対峙する膨大な数の敵機を考えれば、当然のことだ」。

尾翼は4枚となり、垂直尾翼は外側に大きく傾きかつ短くなっている。

既述のように、翼幅とアスペクト比は著しく増え、特にアスペクト比は概略図から算定すると24DMUの3.2-3.3から3.8-3.9に大きくしてある。ロッキードマーチン製F-35Aでは2,4、ボーイングF-15では3.0、に比べると興味深い。TRDIが公表した図面の寸法が正確なら、25DMUの翼幅は20%増えている。この主翼の変更は、揚抗比の向上、燃料タンク容量の増加、そして航続距離の延長をもたらすことに間違いはない。概略図で見る限り胴体も大きくなり燃料搭載の余地がありそうだ。

TRDIは一貫して航続距離重視を明言しているが、具体的な数字は明らかにしていない。25DMUは、23DMUに比べ少なくとも10%大型化していることもあり、航続性能アップと引き換えに速度と加速性能が犠牲になっていると思われる。これ等の変更は、日本が抱く戦略構想、すなわち「数的劣勢の下で勝利を得るには、長距離・長時間の飛行で持てる技術を駆使する」方策によるものだ。

 

最後に、この7月に某TVで報道された「日本初の国産ステルス機ATD-X 開発〜完成へ!!」の動画があったので紹介する。多少時間が経ち内容も高機動飛行の説明に偏りやや不十分、しかも28分の長さで冗長さが目に付くが、ATD-X全体像の把握に役立つ。ご覧頂きたい。

 

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–以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。

Aviation Week eBulletin Nov 21, 2014 “Japan Prepares Designs For Its Next Fighter” by Bradley Perrett

防衛省防衛技術研究本部”将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン–将来の戦闘機に必要な技術–“ by 技術開発官(航空機担当)付き第3開発室防衛技官土井博史