2014-12-02 松尾芳郎
防衛省は去る11月21日に「お知らせ」で「早期警戒機の機種決定」、「滞空型無人機の機種決定」、および「テイルト・ローター機の機種決定」の発表を行った。一部のマスコミが小さく報道しただけなので、関係する外誌の記事を含めて紹介したい。
平成25年12月策定の新中期防衛力整備計画(別表)によると、期間中に陸上自衛隊用にテイルト・ローター機を17機、共通の部隊用に滞空型無人機を3機、航空自衛隊用に新早期警戒(管制)機を4機、をそれぞれ導入すると記載されており、平成27年度概算要求に計上してある。
今回の防衛省発表はこれ等導入機の機種を明示したものである。
*テイルト・ローター機は「V-22オスプレイ」
図:(US Marine Corps Staff Sgt. Warren Peace)2014年10月26日百里基地で行われた航空自衛隊観閲式典で、安部総理が米海兵隊MV-22Bオスプレイのコクピットを視察した。写真は安部総理がコクピット・ドアを開けて内部を指差す様子を前方から写したもの。
図:(US Navy)2013年6月14日に米西海岸で行われた日米合同演習で、海上自衛隊ヘリ空母「ひゅうが」(満載排水量19,000㌧)に着艦した米海兵隊所属のMV-22。「ひゅうが」の飛行甲板は長さ120m、幅20m。エレベーターは前部(20m x 10m)および後部(20m x 13m)の2基、V-22は翼/プロペラを折り畳み、エレベーターを使い格納庫に収容できることを実証した。
V-22はベル・ボーイングの共同開発機で、形式はテイルト・ローター、つまりエンジンと主翼が垂直/水平に動き、垂直時にはヘリコプターのように垂直上昇・下降・ホバリングができ、また、水平にすると普通の飛行機と同じように高速水平飛行(565km/hr)ができる。V-22は多目的輸送機で、室内に武装兵員24名、あるいは貨物20,000lbs (9㌧)、または機外に貨物15,000lbs(6.75㌧)を吊り下げることができる。
V-22は、全長17.5m、ローターを含む全幅は25.5m、高さは6.6m、ローター直径は11.6m、航続距離は搭載量で異なるが約1,000km、最大離陸重量は垂直上昇時/24㌧、短距離離陸時/27.4㌧。エンジンはロールスロイス・アリソン社製T406 / AE 1107Cターボシャフト、出力6,150shpを2基。
米海兵隊が360機のMV-22を購入配備中で、別に米空軍が”特殊作戦軍”用としてCV-22を32機保有している。これ等を含め米国防総省では合計458機の調達を計画している。1機当たりの価格は2008-2012年購入分で約6,930万㌦(83億円)。
今回防衛省が購入するのは、米政府の”外国向け軍需物資輸出規定”に基づいて米政府経由で行われる。発注が決まった17機のV-22は、2015年から2020年にかけて引渡される予定だ。
日本では開発初期から量産後に起こった一連の事故のため「オスプレイは危険!」と喧伝され、未だに一部メデイアはそれを強調し流布し続けている。この影響もあり、最近でも津波対策の演習に沖縄普天間基地駐屯の海兵隊MAG-36所属のオスプレイが参加したが、早速抗議デモが行われたりした。
V-22のクラスA(重大事故)に分類される事故は、試作機時代から少数初期生産段階で4件、また2006年以降実戦配備されてから2012年6月の訓練中の事故まで計4件起きている。これ等の事故はいずれも原因が究明され、その都度ハード・ソフト両面で対策が採られてきた。
海兵隊のMV-22は、2007年末から2009年にかけてイラク戦線で5,200時間以上使われ、2009年末からはアフガニスタンでの戦闘に参加している。アフガニスタンでの活動を含む飛行時間は10万時間を越え、今では海兵隊所属の他機種と比べ、最も安全性が高くなっている(ジェームス・アモス海兵隊最高司令官の談話、2011/02/18)。
2013年には大統領輸送中隊”Marine 0ne”用に、MV-22数機に通信系統と内装の改修を実施、同年8月から大統領およびそのスタッフの輸送任務に就いている。
今年10月の空自百里基地で行われた観閲式では、安部総理が自ら展示されたオスプレイに乗り込み、海兵隊高官から性能と安全性について説明を受けた。
このような活動を通じてオスプレイへの理解が日本国内でも次第に深まりつつある。
陸自用V-22オスプレイ17機の運用基地は、すでに有明海に面した佐賀空港の隣接地区とすることで決まり、近く基地建設がスタートする。
米国以外では、我国がV-22オスプレイを導入する初めての国になりそうだ。イスラエルも特殊作戦用として購入に意欲を示している。
*滞空型無人機は「グローバルホーク」
図:(Northrop Grumman)グローバルホーク最新型RQ-4Bは、翼幅39.9m、全長14.5m、高さ4.7mで最大離陸重量は14.6㌧、上昇限度は6万㌳(18,300m)、航続距離は22,900km、飛行速度は310 knots、滞空時間は32時間以上。エンジンはAllison-Rolls-Royce製AE3007Hターボファン推力7,050lbs 。
1日の監視飛行で10万平方キロをカバーできる。米空軍はRQ-4Bを45機購入中、米海軍は海上監視能力を強化したMQ-4Cトライトン(Triton)を開発している。2013年度単価は1億3,140万㌦(約155億円)、開発費込みで2億2,270万㌦(約263億円)。
グローバルホークはノースロップグラマン社製で、高高度を長時間飛行でき、広範囲にわたり昼夜・天候の如何を問わず情報、監視、偵察(ISR=intelligence, surveillance & reconnaissance)任務を遂行する無人機で、米空軍が運用中。今回我国は米政府経由で購入することを決めた。
米国防先端研究計画局(DARPA)が1995年に立案した高高度飛行無人偵察機として開発がスタートし、今も改良が続いている。2001年から米国内外での運用が始まり、これまでに12万時間以上の飛行をしている。
2001年4月には、23時間半を掛けて太平洋を横断しオーストラリアに到着、無人機としての長距離飛行記録を作った。また、2013年3月にはノースダコタ州グランド・フォーク空軍基地(Grand Forks AFB)を飛び立ったグローバルホークは、高度6万㌳(約2万m)で34.3時間の滞空記録を樹立した。地上で同機の遠隔操縦を担当したクルーはすべて女性兵士だったことも特筆できる。
2011年の東日本大震災/津波の際は、グローバルホークが300時間以上も被災地上空を飛行し、被害の詳細を調査したことを覚えている人もいるだろう。
2014年3月現在で米空軍は世界中で32機を運用中。
グローバルホークは、無人機としては初めて軍用機型式証明およびFAAの型式証明を取得しているので、米国内の航空路を民間機に混じって飛行できる。
Northrop Grumman社によると、最新のグローバルホークには、3つの重要なシステムを搭載している。すなわち;–
①BACN=Battlefield Airborne Communications Node(戦闘区域通信連絡網)により、戦闘に参加する友軍から情報の受信、中継、一斉配信を行う。
②Multi-INT=Multi-Intelligence(複数情報処理システム)を使い、広い区域の情報を整理、状況を把握する。これにはEISS=Enhanced Integrated Sensor Suite(強化型統合センサー・システム)とASIP=Airborne Signals Intelligence Payload(搭載型信号情報処理装置)を使う。
③広大な区域を監視するためにMP-RTIP=Multi-Platform Radar Technology Insertion Program(複数レーダー技術処理プログラム)を使って、固定または移動目標の把握・追尾を行う。
我国は陸海空3自衛隊共同でRQ-4Bグローバルホークを3機使うが、実務は航空自衛隊が担当することになろう。配備基地は、米空軍が同機2機の暫定配備(2014年5月–10月)をしたことのある青森県三沢基地になる予定。
次ぎの動画は2914-05-24三沢に到着した米空軍のRQ-4Bの様子である。
http://youtu.be/gdqw0MdBq30
*早期警戒(管制)機は「E-2Dアドバンスド・ホークアイ」
図:(Northrop Grumman)米空母に着艦する早期警戒機E-2Dアドバンスド・ホークアイ。現用のE-2Cホークアイからの最大の改良点は、搭載レーダーをAN/APS-145からAN/APY-9に換えたこと。APY-9はAESA型、レドーム内で電子的スキャンができ、探知能力が大きく向上している。ロシアのSukhoi PAK FA、中国のJ-20あるいはJ-31などのステルス戦闘機の探知に威力を発揮する。さらに他の電子装備もデジタル化・高性能化され、新しい敵味方識別装置(IFF)、Link 16通信システムを装備、グラスコクピットを装備。将来は、友軍の発射したAIM-120 AMRAAMやSM−6ミサイルを目標まで誘導する機能も搭載予定。エンジンはAllison / Rolls-Royce T56-A-427Aターボプロップ出力5,100 shp 2基。
E-2Dアドバンスド・ホークアイ(Advanced Hawkeye)は、米海軍の空母打撃群が行う戦闘で、最新の探査、通信機能を駆使して友軍の被る損害を最少に食い止めながら、必要な戦闘指揮、管理をする機体とされる。E-2Dは装備する多種類のセンサー機能を使って、戦闘空域の情報、特にステルス機や低空を超音速で飛来する巡航ミサイルの防衛に必要な情報を友軍機、艦船に伝達する。すなわち、飛躍的に向上したレーダー性能と抗堪性の高い通信能力で、E-2Dは迎撃/第一撃に必要なデータを友軍に迅速に伝えることができる。
E-2Dは、2003年から開発が始まり2007年3月に初飛行に成功、2014年10月には米海軍から初期運用能力(IOC)認定を取得している。米海軍は2014年6月現在で合計50機のE-2Dを発注し,その内13機を受領している。同年10月には最初のE-2D中隊であるVAW-125が編成された。今後米海軍は現在のE-2Cに代わり、各空母に5機ずつ配備する予定なので、75機の追加発注が見込まれている。
我国では1987年以来三沢基地の航空自衛隊飛行警戒監視隊がE-2Cホークアイ 13機を運用中である。今回のE-2Dアドバンスド・ホークアイ4機購入決定は、尖閣を含む南西諸島の防空能力強化のための増強で、これと併せて部隊改編も行われる。すなわち、三沢基地の部隊を第1飛行警戒監視隊とし、那覇基地に第2飛行警戒監視隊を新設し、両者併せて三沢に司令部を置く飛行警戒監視群となる。中期防には示されていないが、現用のE-2Cは将来すべてE-2Dに置き換えられることになろう。
空自の航空警戒管制部隊には、上述の飛行警戒監視隊とは別に浜松基地に「飛行警戒管制隊」があり、ここにはE-767早期警戒管制機(AWACS)4機を配備し、高高度からの広域監視に当たっている。
今回のE-2D決定に際して、ボーイング・伊藤忠から737AEW&C型機の提案があったが、見送られた。737AEW&Cは、オーストラリアが発注し、トルコ、韓国などが採用した早期警戒機で、737NGをベースにしてAESAレーダーを胴体上面に板状に配置する機体。これまでに14機が作られている。
–以上−
本稿作成の参考にした記事は次ぎの通り。
Aviation Week eBulletin 2014/11/28 “Japan Officially Selects Osprey, Global Hawk, E2-D” by Aaron Mehta (Nov. 21. 2014)
防衛省「お知らせ」2014/11/21 「早期警戒機の機種決定について」、「滞空型無人機の機種決定について」、および「テイルト・ローター機の機種決定について」
Northrop Grumman Home “Global Hawk”
Northrop Grumman Home “Advanced Hawkeye”
「米海軍、早期警戒機E-2Dアドバンスド・ホークアイに初期運用能力を付与/配備を開始」2014-11-04作成
防衛省「新たな防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画」
防衛省「我国の防衛と予算–平成27年度概算要求」