CFM Leap-1Bエンジンの燃費性能[SFC]が予定に達せず


−ボーイング737MAXに打撃—

 

2015-04-22(平成27年) 松尾芳郎

 CFM56-leap-engine

図:(CFM International) Leap-1エンジン。Leap-1AはA320neo用、Leap-1Bは737MAX用、Leap-1CはCOMAC C919用。推力はそれぞれ、-1A : 24,500-32,900lbs、-1B : 23,000-28,000lbs、-1C : 27,980-30,000lbsである。受注総数は8,000台を超えている。2018年末までに1,700台を製造する計画。

Leap分担

図:(CFM International)Leap-1エンジンの開発製造分担。「ファンおよびブースター」はスネクマ、「コア」すなわち燃焼器を含む高圧系はGE、「低圧タービン」はスネクマがそれぞれ担当している。

Leapスペック

図:CFM Leap-1系列エンジンの概要。737MAX用Leap-1Bはファン直径がA320neo用のLeap-1Aに比べ小さい。これに対応してファンを駆動するLPT(低圧タービン)の段数も少なくなっている。

 

米誌によると、CFMが開発中の次世代型Leapエンジンの燃費[SFC]が予定値から5%外れていると云う。噂は以前からあったが、明らかにされたのはこれが初めてだ。737 MAX用のエンジンはCFM Leap-1Bの独占であることから、ボーイングにとって問題は大きい。

一方エアバスA320neo用のLeap-1Aエンジンでは燃費不足は2%に止まっている。これまでもボーイング787用のGE製GEnxやロールスロイス製Trent 1000エンジンなどで、就航開始時の燃費増加は2%を少し超過していた。燃費増加が2%程度であれば、適切な性能向上パケージ(PiP=performance improvement package)で対処できるが、5%の改善のためにはエンジン全体の改良が必要となりそうだ。

過去にGEはGEnxの性能回復に2つの性能向上パッケージを投入している。1つは高圧コンプレッサー(HPC)の設計を改めたこと、2つ目は低圧タービン(LPT)を再設計したこと、である。LPT再設計では、ブレードとベーンの枚数を増やし空気流量を増やしている。2%不足の改善にこれだけの処置が行われたが、5%の改善となるとこの程度の処置では対応できそうもない。

P&WでもPW6000エンジンの開発段階で似たような経験をしている。この時は、MTUが設計製作した高圧コンプレッサー(HPC)を5段から6段に増やし再設計して対応している。

 

(注)PW6000は、エアバスの狭胴型機A318用に開発されたエンジンで、推力は18,000-24,000lbs。初期型は燃費が公表値に未達だったため、多くの顧客がCFM56-5エンジンに切り替えた(84機)。このためMTUではHPCを5段から6段に改め、全体構成は「ファン+LPC 4段+HPC 6段+HPT 1段+LPT 3段」となった。現在LAN航空がPW6000付きA318型機を15機購入+オプション25機の契約をしている。PW6000の最終組立てはMTU Aero Engines(Hanover, Germany)で行なわれている。なおMTUの開発、製造担当部位はHPCとLPTである。

 

Leap 1Bの場合は、低圧タービン(LPT)段数を5段から6段に増やす必要がありそうだ。同じ系列のLeap 1Aは7段なので、技術的に可能だが重量増や部品増に伴う整備コストの増加は避けられない。

Leap 1Aの燃費2%不足は、長期的にはCFMに経済的負担を強いることになりかねない。A320neoの契約をした多くのエアラインは、エンジン選定時に他エンジンとの燃費の差が2%以内に収まるよう燃費保証契約している。公表燃費に対しPW1100Gは公表値通り、Leap 1Aは2%ミスしている場合、試算によるとA320neo 1機あたり年間10-20万ドルの燃料費の差があるという。従ってアメリカン航空やイージージェット(Easyjet)のようにLeap 1A付きA320neoを100機購入しているエアラインに対しては、CFMは年間1,000-2,000万ドルの補償支払いが生じる可能性がある。

5%の燃費増には別の問題として高圧タービン(HPT)などの寿命低減がある。同じ推力を発生させるのにより多くの燃料を燃やせば、設計温度を上回る。タービンブレード、ベーン、デイスクなどでは数度高くなるだけで寿命に影響が出る。

Leapエンジンは、A320ceo装備のCFM56−5が示した高い信頼性、特に低い取卸率が評価され、Leapエンジンはそれを受け継ぐと期待されて受注を伸ばしてきたが、今やこれが問われている。メーカーのCFMを支えるGEとSafranは共に能力のある企業であり、この問題はいずれ解決するだろう。しかし、それには時間と費用が掛かることも間違いない。

競争相手のプラット&ホイットニーのPW1000G系列エンジンは、A320neo用のPW1100Gを含めその全てで公表性能を満足している。

Leap-1A付きのA320neoの就航予定は1年後の予定。Leap 1Aを採用するA320neoは、エンジン選定済み機数の55.2%(1,211機)を占め、PW1100Gの採用を決めた983機を上回っている。しかし発注機数のうち40%は両エンジンの照明取得試験の模様を眺めているところで、未だどちらにするか決めていない。さらにP&Wは態勢を挽回すべく販売増強キャンペーンを開始中で、このほどPW1100Gの性能向上パッケージ(PiP=performance improvement package)を発表した。このPiP導入で2019年から燃費(SFC)をさらに3%改善するという。

ボーイングは、737MAXの開発でエアバスのA320neoに遅れており、特に長距離型のA321neoは技術面で同クラスの737MAX 9に勝るため、引渡し予定期日でボーイングが優位であるにもかかわらず、長距離用機の受注ではA321neoがほぼ70%を超えている。

A320neoと737MAXの間で受注競争が激しさを増す中、CFM Leap 1XとPW1100G両エンジンの競争が絡み、この先の狭胴型機の受注動向に注目が集まっている。

PW1100GとCFM Leap比較

図:(Pratt & Whitney) PW1100G(上)とCFM Leap 1(下)の比較図。PW1100Gは段数でLeap-1より6段少ない。ブレード、ベーンの総数についてはP&W、CFM共に公表していないが、段数の差から1,500〜3,000枚の違いがあると思われる。Leapの特徴は炭素繊維複合材で作るファンブレードで一般の金属製ブレードの1/3の重さである。PW1100Gはギア(減速比3:1)でファンスピードを落とし、LPT速度を最適にあげている。

−以上−

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation News April 7, 2015 “CFM missing on the LEAP-1B would be a major blow to Boeing 737MAX” by Vinay Bhaskara

Aero Turbopower March 9 2015 “CFM LEAP-1B missing SFC”

CFM LEAP

Air Insight Nov. 9 2011 “Comparing the new technology Narrow body engines: GTF vs LEAP maintenance cost”