-エビエーションウイーク誌の2014年“トップ・パフォーマンス・エアライン”(TPA)評価で日本航空が最高点をマーク-
2015(平成27年)-06-11 松尾芳郎
2015-06-12 改定 (誤字の訂正)
図1:(Boeing/日本航空)日本航空はボーイング787-8:25機(上)と787-9:20機(下)の合計45機を確定発注済み、それにオプション20機の覚書を交わしている。787-9は胴体延長型で客席数は787-8よりも約50席多い約300席となる。2015年3月現在787-8を20機入手済みで残りは逐次引き渡される予定。
エビエーションウイーク誌が行った2014年の全世界のエアライン評価”TPA”で、最高得点を得たのは「日本航空」、また「アメリカン・エアライン・グループ」は前年比で最も改善された航空会社と評価された。両社ともに数年前の倒産状態から立ち直り劇的な回復振りを示した。
特に「日本航空」は2010年(平成22年)1月19日に「会社更生法」の適用決定を受け、稲盛和夫会長の指揮のもと1年2ヶ月後の2011年3月末に更生を完了して普通の会社となり、2012年9月には再び東証1部上場を果たした。その後も経営努力を重ね、今回の評価を得るに至ったのである。
このニュースは、世界のエアラインの現況を伝える重要な情報であるにもかかわらず我国のマスコミは一切報道していない。
日航は、昨年同誌が行った2013年の”TPA評価“で売上60億ドル以上の”大規模航空“の分野で「71.2」ポイントを獲得し1位と評価されている。従って今回は連続してトップの座に輝いた、と云うことになる。
今回エアライン全体評価で首位となった「日本航空」“売上高124億ドル”は、トップ10社の中で、大規模な路線網を運営する唯一の企業である。他のほとんどは、低価格航空(LCC)やいわゆるニッチ航空会社である。もう一つ注目すべき点は「日本航空」以外の9社は狭胴型機のみを運営している点である。“中規模航空”のトップ「アラスカ航空」“売上高54億ドル”、“小規模航空”1位の「スピリット航空」“売上高19億ドル”、いずれも狭胴型機のみを使っている。
図2:(Aviation Week)エビエーションウイーク誌の2014年 “TPA”検討結果ランキング。”TPA”検討はすべてのエアラインを対象に行われ、「日本航空」が1位に選定された。表中、売上60億ドル以上の“大規模航空”に分類されるのは「日本航空」と「ライアン・エア」、「イージージェット」、「サウスウエスト航空」の4社のみ。他は“中規模航空”売上高20-60億ドル、それに“小規模航空”売上高2.5-20億ドルに分類される。
トムソン・ロイター(Thomson-Reuters)」社は航空各社が発表した財務諸表、経営実績などを基にデータベースを作成ししている。これを基に「2015 年TPA評議委員会(2015 TPA Council of Advisers)」が「最も優れたエアライン」”TPA” (Top Performance Airlines)評価を作成した。
従って、財務諸表などを公表していない湾岸諸国のエミレーツなどの大航空会社やバージン・アトランテイック社などは、評価の対象に入っていない。
「TPA委員会」は、社外のエアライン関係専門家4名で構成され、前記データベースから下記について検討、採点し、それを合計した。
財務健全性 (Financial Health) : [30%]
支払い能力、流動性、定価販売率、債務と純資産、営業利益率、流動資産の換金能力、などの査定。
収益性 (Earning Performance) : [30%]
各年の単位(座席-キロ)当たりの収入と費用の推移から得られる利益性向と利益品質をもとに査定。
資本効率性 (Capital Efficiency) : [20%]
“ CFROI” (cash flow return on investment)(投下資本に関わるキャシュフロー回収)指標をもとにして算定。
経営効率性 (Business Model Performance) : [20%]
次の4項目の合計値を算定。
1) 企業全体の経済的価値
2) フリー・キャッシュフロー
3) 経済的利益/株主や資金提供者に還元される総合的な利益をいう
4) 資本利益率(ROIC=return on invested capital)/投下資本に対する税引後の純利益をいう
図3:(Aviation week)同じくエビエーションウイーク誌2014年の売上60億ドル以上の大規模エアラインの”TPA”評価順位トップ15社を示す。「日本航空」はこの分野で2013年の”TPA”評価1位に続いて2014年もトップの座を守った。16位以下には「エアフランス-KLM」、「ルフトハンザ」、「カンタス航空」、「エアチャイナ」、「大韓航空」などが並ぶ。
今回の評価について「TPA委員会」のコメントは次の通り。すなわち;—
「トップ10社はいずれも“単純さ”を経営方針としている。つまり自社の立場をわきまえて“すべての人にすべてのサービス”を提供しようとはしていない」。「一般に大規模航空は、あらゆる路線の運航を進め、それに合わせて多種の航空機を揃えるようになり勝ちだ」
「好成績を収めた中小規模の会社は、いずれも運航路線に見合うか、または小さめの狭胴型機を使って収益をあげている。」
「大規模航空の分野で好成績をマークした日本航空とアメリカン航空について、その理由を“再建に伴う税制優遇にある”とする意見があるが、これは正しくない。“会社更生法”に基ずく税制上の優遇は否定しないが、これだけでは再建は望めない。それを活用して優れた経営計画をたて、社内が一致して目標の実現に努めた成果が表れたものだ。」
「日本航空の場合2014年の輸送量の伸びは、会社更生法の適用を受けた2011年始めから座席マイルで僅か0.1%しか増えていない。これは再建の過程で747など燃費の悪い大型機を退役させ、不採算路線を廃止し、“最も収益性の高い路線に資源を集中した”ためと云える。」
「しかし、全日空は日本航空の好業績は政府による不平等な援助によるものと苦情を申し立て、高収益が見込める羽田空港の発着枠の増分を獲得した。」
「日本航空とアメリカン航空の今後の課題は、ともに“下の枝に実る果物を採ることで(harvested the low-hanging fruit)”好業績を収めてきた。これからは、再建後に示してきた勢いを持ち続けなければ、TPAスコアを落とすことになろう。」
日本航空とアメリカン航空は、航空連合の一つ“ワンワールド(Oneworld)”のメンバー。TPA評価では”ワンワールド”は2014年では4年ぶりに他の二つのグループより好成績を挙げた。これは日本航空、アメリカン、インタナショナル・エアライン・G(英国航空、イベリア航空などの連合)、キャセイパシフィック、などの好業績が寄与したためである。
最後に今年5月に発表された「日本航空」の2014年度の財務状況を報告しておこう。
日航の更生手続き完了を伝える日経紙(2011-04-03)は、7段の記事で「日航、多難の再離陸」、「震災で航空需要激減」、「試練続く」などの見出しを掲げ、再建は難しいとかなり批判的な予想をしていた。他のメデイアも冷ややかな眼差しで報道していたことを思い出す。
しかし事実は図4に示すように、再建初年度から4年間概ね連続して業績、財務内容の改善が進んできたことを実証している。”TPA委員会“の評価にあるように、これからも努力を続けトップの座を守って欲しい。
図4:(日本航空)日本航空の連結財務状況。「会社更生法」適用が完了した2011年からの数値を取りまとめた表。2014年では当期利益が前年を下回ったが、利益率は向上している。自己資本比率は2013年に続き50%を超え改善されている。2014年10月1日付けで株式を2分割したので、実質配当金は前年度を上回っている。
2015年3月現在日本航空グループ全体で運用中の機種/機数は次の通りである;—
787-8/20機、777-300 & -300ER/20機、777-200 & -200ER/24機、767/45機、737/62機、エンブラエル170/15機、ボンバルデイアDHC8-Q400, -Q300. –Q100/16機、ボンバルデイアCRJ200/9機、サーブ340B/13機、合計224機。
図5:(Airbus/日本航空)現在使用中の大型機であるボーイング777系列機の合計44機の後継として選定したのがエアバスA350XWB-900および-1000だ。日航は2013年10月に-900型機/18機、-1000型機/13機の合計31機を確定発注、オプション25機の契約を締結した。引渡しは2019年から始まる。3クラスの代表的な座席数は、A350-900が315席、A350-1000が350席とされている。
-以上-
Aviation Week May25-June 7, 2015 Page 50-56 “Small Planes, Big Profits” by Adrian Schofield
「売上60億ドル以上のエアライン評価で日航がトップに」2014-06-02
日本航空2015年3月期決算説明会資料