ニュー・ホライゾンズ、冥王星とカイパー・ベルト探査を実施


2015-07-14(平成27年)松尾芳郎

2015-07-14 改定(図2の誤りを訂正、その他説明を補足)

 New Horizins冥王星へ接近

図1:(NASA)冥王星に接近するNASAの宇宙探査機「ニュー・ホライゾンズ」の想像図。手前大きな円弧が冥王星、右にあるのが衛星「カロン」、そして上には太陽が輝いて見える。

 

「ニュー・ホライゾンズ」による太陽系の外縁にある冥王星(Pluto)とその遠方のカイパー・ベルト天体(KPO=Kuiper Belt Object) の探査で、太陽系の起源についての解明がすすむだろう。

探査機「ニュー・ホライゾンズ」は2006年1月に発射され、2007年2月に木星近傍に到着し木星とその衛星群の探査を行い、木星の重力を利用して速度を上げて冥王星に向かい、米国東海岸夏時間の2015年7月14日午前7時50分(日本時間では14日夜8時50分)に冥王星に最も接近する。そのまま冥王星と衛星カロンの間、冥王星の12,500 km上空を高速で通過し、探査機はさらに遠方のカイパー・ベルトを目指し、そこで古代の姿を残す氷の小さな天体1~2個を観測する。これらの小天体は、太陽系の最も外側を回る海王星からさらに16億キロ以上も遠方にある。探査機はこれらの表面の状態、地質、内部構造、大気などを調べる予定だ。

New Horizons航路

図2:(NASA) 探査機「ニュー・ホライゾンズ」の飛行を示す図。地球を出発してからほぼ10年かけて75億 kmを飛行し冥王星近傍に到着した。地球—冥王星間の長大な距離のため、通信の電波や光が冥王星から地球に届くには片道で4時間25分を要する。さらに信号強度が弱くなるため送信速度を768bit/秒に落とす必要がある。従って1枚の画像を送るだけでもかなりの時間が必要になる。

 

太陽系の一般の惑星は、太陽の黄道面上をほぼ円軌道で回っているが、冥王星は黄道面から17度傾いた楕円軌道面を公転している。かなりの楕円軌道なので、太陽に最も近い時は44 億km、最も離れた時は74億kmとなる。これで248年かけて太陽を一周している。

米国科学アカデミー(The National Academy of Sciences)は、太陽系の探査の中で冥王星を含むカイパー・ベルトの探査を最重要課題としている。今回のニュー・ホライゾンズの目的は、冥王星とその衛星を調べ、太陽系の岩石でできた惑星(地球、火星、水星、金星)および巨大なガス惑星(木星、土星、天王星、海王星)との違いを明らかにすることにある。

冥王星とその最大の月カロンは、太陽系惑星の第3のカテゴリー「氷の小天体(ice dwarfs)」に属している。冥王星とその複数の月は、表面は固体だが地球型惑星とは異なり、大半は氷で出来ている。冥王星の表面は-230度Cで、窒素、メタン、一酸化炭素の氷と岩石で構成されている模様。

「ニュー・ホライゾンズ」チームは、ハブル宇宙望遠鏡を使って以前は判らなかった冥王星の月を新たに4つ発見した。名前は、「ニックス(Nx)」、「ハイドラ(Hydra)」、「スタイクス(Styx)」、「ケルベロス(Kerberos)」である。

今回の探査で、これらを真近かで調べることで、その起源を解明し、太陽系の辺境を知ることになる。

「ニュー・ホライゾンズ」チームの構成は次の通り。

(1)       ローレル(Laurel, Maryland州)にあるジョーン・ホプキンス大学の応用物理研究所(APL=Applied Physics Laboratory)が、NASAの科学探査指導部(Science Mission Directorate)の指揮の下で、「ニュー・ホライゾンズ」探査機の設計、製造、および運用を行っている。

(2)       探査業務の主任は、ボールダー(Boulder, Colorad)にあるサウスウエスト研究所(SwRI=Southwest Research Institute)のアラン・スターン(Alan Stern)氏が務める。SwRIは、搭載探査用機器の運用、データ解析、データ保存、を担当し、チーム全体の活動を指揮している。

(3)       その他多数の企業、大学、研究所、国家機関が活動に参加している。

ニュー・ホライゾンズ探査装置

図3:(NASA)ニュー・ホライゾンズに搭載されている探査装置

 

・  Ralph :可視光線および赤外線望遠鏡兼分光計で表面のカラー写真、組成分析、温度分布調査を行う

・  Alice : 紫外線望遠鏡兼分光計で、冥王星大気の組成解析と構成を調べ、同時に衛星カロンとカイパー・ベルト天体(KBO)を取り巻く大気を調べる

・  REX (Radio Science Experiment) : 天体からのラジオ波を捕らえ、大気の組成と温度を調べる実験を行う

・  LORRI (Long Range Reconnaissance Imager) : 遠距離望遠鏡で、遠距離から、冥王星に接近するときのデータを調査し、冥王星の裏側の表面の様子を詳しく調べる

・  SWAP (Solar Wind Around Pluto) : 太陽風およびプラズマ分光計で、冥王星から逃げ出す大気の比率を調べ、それへの太陽風の関与を観測する

・  PEPSSI(Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation) : 冥王星から逃げ出す大気を調べるエネルギー粒子分光計で、大気の組成とプラズマ・イオンの密度を測定する

・  VBSDC (Venetia Burney Student Dust Counter) : コロラド大学の学生が作り運用するダスト計測機で、探査機ニュー・ホライゾンズが航行中に排出する宇宙ダストを測定する。図3では裏側になり見えない

 

13日の冥王星

図4:(NASA/JHUAPL/SwRI)冥王星の衛星カロンに面した半球をLORRIで写した最後の写真、7月11日早朝に冥王星から約400万キロの距離で撮影したもの。不思議な暗いスポットが4つ写っている。

 

図4のスポットはいつも衛星カロンに面した側に現れている。ニュー・ホライゾンズが最接近して通過する7月14日朝の時間帯には見ることはできない。従ってこの写真はニュー・ホライゾンズで見る最後の裏側の鮮明な姿である。

これらのスポットは冥王星の赤道領域を取り巻く暗い帯にあり、大きさはほぼ同じで等間隔に並んでいるのが不思議だ。表面が高くなっているのか、平原状なのか、あるいは単に輝きかたが違うのか、判らない。

これら暗いスポットは直径約480 kmで、ミゾリー州と同じくらいの広さである。この他に表面にはいくつもの小天体が衝突してできたクレーターがある。

冥王星とカロン

図5:(NASA/JHUAPL/SwRI)右の冥王星(Pluto)と左の衛星カロン(Charon)。「ニュー・ホライゾンズ」はこの間を通過する。7月12日にLORRIで250万kmの距離から撮影した白黒写真を、Ralphで撮影したカラー・データで修正した最も鮮明な画像である。7月14日発表。

 

「ニュー・ホライゾンズ」の最新の観測によると、冥王星の直径は2370 kmで地球のぼぼ18.5%の大きさ、また衛星カロンは直径1208 km、地球の9.5%と判明した。日本列島は南北およそ3000 kmと言われているので冥王星はその中にすっぽり収まる大きさである。

-以上-

 

本稿作成の参考とした記事は次の通り。

NASA News

NASA’s New Horizons Fact Sheet