エアバス、電動飛行機の開発を進める-改定


2015-08-02 松尾芳郎

2015-08-04改定(開発費の誤記を訂正、数カ所の説明を追加)

 Si2 アブダビ

図1:(Solar Impulse)スイス製の飛行機「ソーラー・インパルス2」、主翼上面にソーラー・パネルを貼りつけ、その電力でプロペラを回す仕組み。世界一周の出発地、UAEアブダビ上空を飛ぶ「ソーラー・インパルス2」。

 

スイスが作る「ソーラー・インパルス(solar Impulse) 2」一人乗りの電動飛行機が世界一周飛行の途中、天候不良で名古屋空港に着陸、数日間天候回復を待って離陸、そこからほぼ118時間掛けて7,200 kmを飛び、ハワイに到着したことは、広く伝えられた。

ご存知のように「ソーラー・インパルス2」は太陽エネルギーで発電、モーターでプロペラを回す飛行機。ハワイ・オアフ島のパール・ハーバーの西にあるカラエロア(Kalaeloa)空港への飛行中、搭載のリチウム・イオン(Li-ion)バッテリーが異常高温となり損傷していることが判明、交換が必要となった。修理にはかなり時間がかかるので、その間空港に滞在、次の目的地フェニックス(Phoenix, Arizona)への飛行は来年4月になる見込み。本機は、UAEのアブダビ(Abu Dhabi)を2015年3月に出発して35,000 kmを飛行し世界一周する予定、これまで8地点に着陸、12,000 kmを飛行している。

E-Fan 1.1英仏海峡

図2:(Airbus)エアバス・グループが開発した電動飛行実証機「E-Fan 1.1」、今年7月10日に英仏海峡横断飛行に成功した。動力はバッテリー駆動の30kwモーター2基でダクト内のファンを回す。主脚は胴体下に並んだタンデム式の2輪、両翼に補助輪が付いている。

 

エアバス・グループが開発した電動飛行実証機「E-Fan 1.1」は、「ソーラー・インパルス2」とは異なり太陽光発電は使わない。主翼内に沢山のバッテリーを搭載しそのパワーでファンを回し推力を得る形式である。今年(2015年)7月10日には、英国のリド(Lydd)空港を飛び立ち36分掛けて74 km離れたフランスのカレー(Calais)に到着、双発の電動飛行機としては初めての英仏海峡横断飛行に成功した。この飛行は、フランスの飛行家で技術者であったルイ・ブレリオ(Louis Bleriot)が、1909年7月に同じ区間で横断に成功したことを意識して行われた。

A380のような巨人旅客機を作るエアバスが軽飛行機のビジネスに進出しようとしているのは、一見奇妙に見える。しかし、エアバスは本気で、これまでに2,000万ユーロ(約27億円)を投じて新しい電動飛行機の開発に取り組んできた。

すでに専門の子会社“ボルトエア(Voltair)”を設立し、ここが「E-Fan」系列機を生産することとなり、近く量産工場の建設を開始する。

工場は南フランスのスペインとの国境ピレネー(Pyrenees)山脈の麓にあるパウ(Pau)に建設、初年度の年産機数は10機程度で逐次増やす。ここで作るのは複座型の「E-Fan 2.0」とそれに続いて4人乗りのハイブリッド機「E-fan 4.0」になる予定。

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図3:(Airbus) 二人乗り「E-Fan 2.0」の完成予想図。エアバスは「E-Fan 2.0」をかなり重要視していて、将来の基礎飛行訓練用の機体としての本命を目指している。2017年に初飛行、2018年初めから販売を開始する。翼幅9.5 m、全長6.7 m、全備重量550-600 kg、巡航速度160 km/hr。構造は炭素繊維複合材で作られる。ランデイングギアは3車輪式。

 

エアバスではバッテリーの改善に取り組んでいて、滞空時間を1時間以上に伸ばすことで、低コストの初歩飛行訓練機として認められ、個人ユーザーへの販路も広がると見ている。

「E-Fan」の最大の課題はバッテリーの性能と効率にあり、改良に努めた結果、昨年1年間で60%の改善に成功したと云う。「E-Fan 1.1」実証機が初めて飛んだのは2014年3月だったが、その時の滞空時間はわずか30分だった。しかしその後のパリ航空ショー(2015-06-15/21)では、それまでのリチウム-ポリマー(LiPo)・バッテリー120個を、リチウム・イオン(Li-ion)・バッテリー2982個に交換して飛行した。

バッテリーを「LiPo」から「Li-ion」に変えたことで重量は30 kg増えたが、重量あたりの出力は「LiPo」の100 watts/kgから「Li-ion」では160 watts/kgに大きく改善された。これで「E-Fan 1.1」の滞空時間は50分に伸びた。

この他に、新しい軽いパワー・コントローラーの採用、後ろ主脚のタキシング用のモーターの廃止、などの軽量化で、既述の英仏海峡横断は距離74 kmを高度3,500 ft、37分間で飛行し、それでもなおバッテリー容量は21%を残すことができた。

開発中の「E-Fan 2.0」は、最大離陸重量約600 kg、2016年に飛行開始、型式照明取得後2018年初めから売り出す。飛行訓練に使う場合は、一つの訓練が終わると主翼から使用済みのバッテリーを取外し、充電済みのバッテリーパックと交換する方法で行う。

大型の4人乗り「E-Fan 4.0」は米国市場を狙った機体で、補助に小型エンジンを併用するハイブリッド型で、航続距離、滞空時間を最大4時間程度に大きく伸ばし、2019年に市場に参入する。現在システム検証のため、市販の55 hp グライダー用エンジンを使い、地上試験装置でテストをしている。

「E-Fan 4.0」の推進装置は、「E-Fan 2.0」搭載の出力30 kw(約40 hp)の電気モーター2基より大きくなり、出力200 hpのピストンエンジン(デイーゼル)1基で2台の電気モーターを駆動し、この電力で8枚翅のダクテッド・ファンを回す仕組み。離陸上昇中は電気モーターの出力だけで飛行、巡航になるとエンジンが自動的に始動し、電気モーター経由でファンを駆動し時速150 ktで飛行するが、同時にバッテリーの充電も行う。これでセスナ172型に比べ25-50%の燃費節減が可能となる。

生産型「E-Fan 4.0」の最大の特徴は、「E-fadec」と呼ぶ「全自動デジタル電子制御システム」で、これで(バッテリー、エンジン等の)エネルギー管理を自動化する。

エアバスの技師長(Chief Technical Officer) Jean Botti氏はこう語っている、「E-fadec」はフライトの概念を全く変える新装置で、コンピューターがパイロットに代わり全ての操作をする、全てが単純になり、騒音もエミッションもほとんど出ない」。「「E-Fan」は、エアバスの将来の目標である「ハイブリッド電動式リージョナル機」の実現のための重要な1歩である」。

“ボルトエア(Voltair)”は、オーストリアのモーター・グライダー・メーカー”ダイアモンド航空機“社および著名な電気メーカー”シーメンス(Siemens)”社の協力を得て「E-Fan 2.0」、「E-Fan 4.0」の開発に取り組んでいる。

 

(注) リチウム・イオン(Li-ion)・バッテリーについて

再充電可能なバッテリーで、放電時はリチウム・イオンが陰極から正極に移動する、充電時はその逆になる。正極にリチウム金属酸化物、陰極に炭素材を使うのが主流。

Li-ionバッテリーは高いエネルギー密度、使わない時のロスの少なさ、などの特性のためパソコン、スマホなどの民生用電子機器で普通に用いられている。最近では、これまで鉛電池が使われてきた車両用、軍用や航空機用にも採用が広がっている。

ボーイング787が就航して間もない頃JAL(2013-01-07) やANA(2013-01-13)の機体でバッテリー火災が発生したことは記憶に新しい。正極がリチウム酸化コバルト(lithium cobalt oxide / LiCoO2)のこれらバッテリーの熱暴走が原因とされ、セル間の断熱構造を強化するなどの対策が採られた。

海上自衛隊が装備する「そうりゅう」型潜水艦は、11番艦「27年度型潜水艦」から従来の鉛蓄電池とAIP推進装置の組み合わせに替え「Li-ion」バッテリーを搭載する。これにより現在の「そうりゅう」型潜水艦に比べ水中での速度、航続性能が大きく向上する。建造費約2,000億円、11番艦は平成31-32年度に就役する。

 

—以上-

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Airbus Group “The path to E-Fan 2.0 and Beyond: propel electric aircraft research forward” 27 July 2015

Electrifying technologies “Batteries: fully charged for electric flight”

Aviation Week July 20-Aug 2, 2015 page 66 “Charging Up” by Tony Osborne

防衛省装備施設本部「平成26年度ライフサイクルコスト管理年次報告書」平成27年3月30日

Flying Jul 15, 2015 “Meet Airbus E-Fan” by Stephan Pope