第5世代ステルス戦闘機T-50、ロシアMAKS航空ショーでデモ飛行


2015(平成27年)-09-06 松尾芳郎

2015-09-08改定(字句の訂正)

 T-50の離陸

図1:(MAKS 2015)離陸する第5世代型ステルス戦闘機スーホイ T-50。MAKS 2015には3機が参加したがその内の1機。T-50は、2010年初めに初飛行、これまでに5機が作られたが、昨年(2014)6月に5号機が離陸準備中にエンジン火災で損傷、現在稼働しているのは4機である。

ロシア空軍は昨年(2014)末にT-50を2020年までに52機購入する予定を示していたが、今年(2015)3月に国防省高官(Yuri Borisov氏)は、購入予定を12機に減らす、と発表した。単価は100億円以上と見られる。

インドとの共同開発の話が進んでいたが、諸般の理由でこのところ休止状態になっている。

2010年T-50

図2:(Sukhoi)飛行中のT-50。ロシア空軍初の第5世代ステルス戦闘機。複合材を多用し、高度な運動性を備え、超音速巡航ができ、最新のAESAレーダーを装備する。翼胴一体型の設計で垂直/水平尾翼は全可動式。垂直尾翼を内側に曲げエアブレーキとして使う。推力偏向ノズルを備え、主翼前縁の高揚力装置と連動して高度な機動飛行が可能。

アビオニクス・システムは、機首にN036-1-01型(送受信素子1,552個)と機首下両側にN036B-1-01型(素子358個)のXバンドAESAレーダーを中心に構成されている。両エンジン排気ノズルの間にはレーダー兼用の対電子戦アンテナがある。コクピット右前には101KS電子光学センサーがあり、赤外線で目標を探知、追尾できる。また、機首と尾部には、熱源を感知して飛来する敵ミサイルを回避するため、レーザーを照射する101KS-O対赤外線装置を搭載する。

T-50は、全長19.8m、翼幅14m、最大離陸重量35トンの大型機、航続距離は亜音速で3,500km、超音速で1,500km。

サターンAL-41

図3:(Kris Hull / AirlinerReporter)サターン(Saturn) AL-41F1Sエンジン。スーホイSu-35戦闘機およびスーホイT-50ステルス戦闘機に搭載されている。ドライ推力21,000lbs、アフトバーナ時推力33,000lbsでT-50の超音速巡航を可能にしている。ノズルは推力偏向式(TVC=thrust vectoring)でフライトコントロールと連動して高い運動性をもたらす。

 

ほぼ2年毎に開催されるロシア恒例の航空ショー”2015年国際航空宇宙ショー「MAKS-2015」“は、去る8月25-30日の間、モスクワ郊外のジュウコフスキー(Zhukovsky)空軍基地で開催された。注目されたのはスーホイ(Sukhoi)が開発中の次世代型ステルス戦闘機「PAK FA T-50」の現状。

前回2013年のショーでは初日の主役はSu-27が勤め、T-50はごく控えめな存在だったが、今年は華々しい飛行振りを見せ存在感をアピールした。

すなわちT-50の一機は、Su-35Sがしばしば演ずる“高迎え角、鎌首をもたげるような姿勢で低速水平飛行をしながら180度反転し方向を変える”「コブラ飛行」あるいは「Bell」と呼ぶ飛行を披露、さらにフラット・スピンのような状態で高度を下げる飛行、垂直に上昇する飛行、機首下げ状態で低速で飛びながらの安定な飛行、をして運動性の良さを見せた。

ロシアの航空機メーカーでは、ミグ(MiG)とスーホイ(Sukhoi)を傘下に置くユナイテッド航空機(UAC=United Aircraft Corp)が最大の規模。UACは、2009年にロシア空軍から48機のスーホイSu-35戦闘機を受注していたが、今年末に納入を完了する。そして今年末に新たに追加分として48機のSu-35の受注契約を結ぶ予定になっている。

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図4:(Sukhoi)スーホイが1990年代に設計した高性能戦闘機Su-27の後継として、2007年に極東“アムール・コムソモリスク航空機”が製造した多目的戦闘機Su-35。Su-27にあった機首のカナードを廃し、フライバイワイヤを採用、キャノピイ後方にあったエアブレーキが無くなりラダーで代用している。最新型のSu-35Sは、全長21.9m、翼幅15.3m、最大離陸重量34.5トン、エンジンはT-50と同じSaturn AL-41F1Sアフトバーナ/推力偏向ノズル付きを2基。航続距離は3,600km。T-50と同じく”コブラ飛行“あるいは”ベル飛行“など高機動飛行能力を持つ。単価は70億円程度。

 

しかし次世代ステルス戦闘機T-50は、技術的な問題で開発が遅れているのに加え、最近のロシア経済の苦境で、図1説明のように計画が大きく遅延している。

ロシア空軍は、T-50配備が始まる(2020年以降?)までのギャップを埋めるため、第4++世代型の戦闘機Su-35の増加配備に踏み切らざるを得ない事情がある。

T-50試作機は展示飛行で観客の目を引きつけたが、地上では秘密保持のため観客は近くで見ることは出来なかった。

MAKS 2015では、もう一つのロシア企業“TMC” (Tactical Missiles Corp)が3種の新しいミサイルを展示した。これらはいずれもスーホイT-50の胴体内兵装庫に収納できる。

1) 空対地ミサイル「グロム(Grom)」は、ロケットエンジンで飛行する「Grom 1」と、ロケットを省いてそこに炸薬を搭載、滑空飛行をする「Grom 2」がある。両者ともに重さは600 kg、炸薬量はGrom 1が300 kgに対しGrom 2は450 kg以上とされる。

2) Kh-59MK2巡航ミサイルは、前身のKh-59と外見は似ている。滑空飛行型巡航ミサイルで後部にサターン(Saturn) 36MTターボファンを装着している。全体の形状はステルス設計を取り入れ、重量は約770 kg、射程は285 km。

3) マッハ4で飛翔する空対空ミサイルKh-58を改良したKh-58UShKE-IIR (imaging infrared)は赤外線感知装置を2基備え、目標に着弾する。

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図5:(Wikipedia) Kh-59MK2巡航ミサイル、胴体後部下にサターン36MTターボファンが見える。

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図6:(Wikipedia)スーホイT-50の兵装庫を赤色およびオレンジ色で示した図。胴体下の前後にある兵装庫は長さ4.6m幅1mで、翼付け根にも小型のベイがある。

-以上-

 

本稿作成の参考にした主な記事は次の通り。

Aviation Week Aug 25 2015 “Russia’s T-50 Fighter shows off New Moves at MAKS Air Show” by Bill Sweetman

Aviation Week Sept 1 2015 “New Weapons Highlight T-50 Strike Role” by Bill Sweetman

MAKS 2015 Official Web site

Sukhoi org.

Home Aviation & Travel Sep 3, 2015 “New Weapons Highlight T-50 Strike Role” by Rajowan Son

HIS Jane’s 360 27 Aug 2015 “MAKS 2015: KTRV unveils Grom-E1/E2 stand-0ff munitions” by Nikolai Novichkov