来夏は衆参同時期の選挙も、消費税の2017年再増税は再延期へ


2015(平成27年)-09-07  元・国務大臣秘書官 鳥居徹夫

 

■□足取りの重い日本経済、GDPがマイナスに

 

内閣府が8月17日発表した4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動を除く実質で前期比0.4%減、年率換算では1.6%減で3四半期ぶりのマイナスとなった。

GDPの6割を占める個人消費は0.8%減と、消費税引き上げ前の駆け込み需要の反動減が出た2014年4~6月期以来1年ぶり。

消費税率が5%から8%に引き上げられた直後の2014年4~6月期は、前期比マイナス5.0%の大幅減を記録した後、緩やかな回復傾向となっていたが息切れ状態である。

今年(2015)4月からの軽自動車税の引き上げに伴う自動車販売減と、円安などによる食料品の値上げが続いたこともマイナス要因となった。

輸出は4.4%減となり、6四半期ぶりのマイナス。中国の景気減速がアジア全体に拡大しつつあり、景気回復の足取りが重くなっている。

とくに個人消費の足を引っ張っているのが、総人口の4分の1を占める年金受給者である。マクロ経済スライドで、物価上昇率よりも0.9%低く抑えられ、年金受給額が実質目減りしているからである。それが全体として個人消費、ひいては内需を押し下げている。

自民党の谷垣幹事長は、8月18日に「先を見通して経済対策を打ち出していくことが必要」と述べ景気対策の必要性を訴えた。デフレ脱却は、いまだ道半ばの情勢であり、政府が景気対策を打ち出すのは確実である。

なかでも来年(2016)中には、消費税を10%に引上げることへの可否の決断が控えている。

当然のこととして、補正予算を組んで景気対策を行う時であり、減税(軽自動車税を元に戻すことなど)も景気対策の中に入れなくてはならないし、消費税の再増税を再度先送りする決断も必要とされる。

消費税再増税を先送りする場合でも、施行期日の延長法案の国会審議が必要である。

逆に10%への消費税増税を予定通り実施するにしても、食料品などの軽減税率の扱いを定めた増税関連法案を可決成立させなくてはならない。

はたして、いまの経済情勢で再増税できるであろうか。

消費税再増税の既定路線のまま進めば、まさに「病み上がりに冷や水」となり、日本経済と国民生活にとって打撃となりかねず、政権にとっては痛手となる。

消費税10%への引上げを再び先送りするには、解散総選挙も視野に入れざるをえない。2016年7月には参院選があることから、安倍政権は来年7月のタイミングで衆参同時期選挙に持ち込むのではないか。

 

■□昨年暮の総選挙は、ズバリ「再増税シナリオ潰し解散」であった

 

さて、時計の針を1年前に戻そう。安倍首相は昨年(2014)暮に、消費税を8%から10%への再増税を1年半延期することを表明し、歳末の選挙戦となった。

これは野田民主党政権のときに、民主、自民、公明の三党合意で既定路線であった「消費税を2015年10月から[10%]とする再増税方針」の大転換を目指すものであった。前回も、消費税の再増税の施行期日の延長には、国会での法律改正が必要とされた。

そこで安倍首相の戦略は、消費税の再増税の施行日延長を、解散で国民に問い、民意で施行日の延長を図ったのが昨年(2014)の解散である。ズバリ「再増税シナリオ潰し解散」であり、見事に成功した。

このときの首相周辺の判断は、再増税の施行期日の延長法案について、自民党の了承は絶望とみていた。

財務省と自民党税調が猛反発し、自民党の総務会は大荒れとなり、しかも一部野党が抵抗する。そうなると次年度(2015)の予算編成に支障が生じ、安倍首相の求心力が落ち、政局となるとみていたのである。

このほか、消費税率10%への引き上げには、政局がらみの課題もあった。公明党が主張する軽減税率の扱いも焦点となり、消費税が10%になる時には自動車取得税は廃止されることとなり、それを原資とする地方財源の手当ても課題となる。

ところが消費税10%引上げの1年半延期によって、軽減税率の導入論議はなくなったし、自動車取得税は廃止しなくともよく、地方の財源の取り扱い(補填)を気にする必要がなくなった。

軽減税率の取り扱いは、自民党にとって公明党との連立で爆弾を抱えているようなものであった。しかし消費税が8%のままならば、連立維持の不協和音とはならない。

 

■□個人消費に焦点をあて、内需主導型の強力な経済政策を

 

安倍総理自らが「デフレ脱却は道半ば」と述べているように、必ずしも景気は好循環とはいえない。このまま2017年4月から[10%]に再増税すれば、経済はどうなるのだろうか。

8月14日にまとめられた2015年度経済財政白書では、前回2014年4月からの消費増税によって経済成長が1.7%下押しされたと分析されている。

2014年度の実質国内総生産(GDP)は、駆け込み需要の反動減で1.2%程度押し下げられたほか、税率引き上げからの物価上昇を受けた消費の減少も0.5%程度の押し下げ要因になったとしている。

デフレ圧力が十分に払拭できない状況の中で実施された消費税率引き上げによる影響は、予想以上に大きかったと言わざるを得ない。

今後、日本経済を再び回復軌道に乗せるためには、消費を刺激するような強力な経済対策、とりわけ個人消費、とりわけ可処分所得に焦点をあてた内需主導型の強力な経済政策が必要とされる。

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