国内生産のF-35A初号機組立てが名古屋で開始


2015-12-20(平成27年) 松尾芳郎

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図1:(Lockheed Martin)F-35ライトニングII(Lightning II)は、F-16、F/A-18などの後継として2001年10月に開発が決まった単座、単発の戦闘機で、空軍/A、海兵隊/B、海軍/Cの3種がある。開発に手間取り、現在配備が始まったのは海兵隊用F-35B STOVL(短距離離陸、垂直着陸型機)のみ。F-35A型は、全長15.7 m、翼幅10.7 m、最大離陸重量31.8トン、速度マッハ1.6+、内部燃料で2,200 kmを飛行可能。兵装は、25 mm 4銃身型ガトリング・ガンおよび兵装庫と翼下面のハードポイントに合計8.1トンのミサイル、誘導爆弾などを携行する。エンジンは、Pratt & Whitney F135で、推力はA/B(Afterburner)無しで28,000lbs、A/B使用時は43,000 lbs(191 kN)になる。P&Wでは、改良型でA/B時50,000 lbsを実証済みと云っている。

 

我が国の次世代戦闘機F-35Aのライセンス生産初号機の組立てが始まった。三菱重工が、米国防総省が認定する”FACO”と名付けた設備、「最終組立てとチェックアウト・ライン(FACO=Final Assembly and Checkout Line)」を三菱重工小牧南工場内に「名古屋FACO」として設置し、ここで12月15日からF-35Aの最終組立を開始した。

この初号機は”AX-5”と命名され、主翼、胴体、尾翼を結合して2017年に組立を完了し、航空自衛隊に納入される。

完成機として輸入する”AX-1からAX-4”の4機は、目下ロッキード・マーチン社のフォート・ウオース (Fort Worth Tx.) 工場で組立中、2016年から引渡される。

日本向けの4機は、”LRIP-8”「少量初期生産ロット8」として生産中のF-35A 29機に含まれる。他にF-35Bが10機、F-35Cが4機作られるので、ロット8の生産数は43機になり、その単価はエンジンを除き9,800万ドルとなっている。

P&W社はF135エンジンの単価を公表していないが、外紙によるとロット8では1,650万ドルと推測している。したがって1機当たり価格は1億1,450万ドルとなる。

F-35は、ロッキード・マーチンが主体となり、それにノースロップ・グラマン、プラット&ホイットニー、BAEシステムスが主協力企業となって開発した「統合攻撃戦闘機(JSF=Joint Strike Fighter)」である。

初飛行は2006年12月15日、米軍での配備開始は、海兵隊のF-35Bが2015年7月にスタート、空軍のF-35Aは2016年9月からの予定、海軍のF-35Cは2018年の予定となっている、文字通りの最新鋭機だ。米3軍は、2037年までに合計2,457機を導入する。

開発には予算の2倍近い額4,000億ドルが投入され、スケジュールは7年ほど遅延している。て、開発主体は米国で、それにイギリス、イタリア、オランダ、オーストラリア、トルコ、デンマーク、カナダ、およびノルウエイの8カ国が参加する国際共同開発の体制が採られている。我が国は42機を導入するが共同開発には参加していない。イスラエルと韓国も不参加だが、購入を決めている。

我が国は、航空宇宙関連の先端技術を確保するため、小規模発注にも関わらず米国防総省と協議、MHI名古屋工場にFACO施設の導入を決めた。他にイタリアが北部イタリアのカメリア(Cameria)空軍基地内の広いスペースにFACO施設を設置している。名古屋の場合は敷地面積が狭いので、エレベーターを使った重層構造の組立方式を採用しているが、結果的にはフォート・ウオース工場をそっくり真似た形になった(と米誌は皮肉っている)。

このFACOで航空自衛隊向けに38機のF-35Aが生産されるが、併せて重整備、修理、オーバーホール、それに将来の大型改修なども行われる。さらに将来は、太平洋周辺の各国が使うF-35を支援するための工場として活用される。

イタリアのFACOは同国のアレニア(Alenia)社が約10億ドルで建設し、この12月3日にイタリア空軍向けのF-35A初号機を完成、引き渡しを終わっている。この工場ではイタリア空軍向けを含む欧州各国用として150機以上を生産する予定だ。

F-35のFACO、すなわち「最終組立てとチェックアウト・ライン(FACO=Final Assembly and Checkout Line)」は、米国防総省の基準に基ずいた施設で、米国、イタリア、日本の3ヶ国に設置され、F-35の生産と重整備、改修はここでしか行えない。機体整備は、ヨーロッパでは「イタリアFACO」、アジアでは「日本名古屋FACO」で行われる。FACOでは、F-35の機密部分に触れることを禁じており、主にステルス情報を中国などに漏らさないシステムになっている。

日本とは別に、オーストラリアも西太平洋諸国のF-35の機体構造の修理、整備を担当できることになり、エンジン(P&W F135)の重整備も2018年から開始する。エンジン整備については、日本はオーストラリア設備の稼働開始の3〜5年後からIHI社瑞穂工場で行うことが決まっている。

−以上−

 

本稿作成の参考にした記事は次の通り。

Aviation Week Network Dec 15, 2015 “Japan Begins Assembling First F-35A at Nagoya FACO” by Amy Hills