2016-02-03(平成28年) 松尾芳郎
2016-02-05 改定(図6:Y-9情報収集機の説明の誤りを訂正し、補足した)
北朝鮮の弾道ミサイル発射が近くなってきた。我国は弾道ミサイル防衛(BMD)能力を持つイージス艦「こんごう」および「みょうこう」などを洋上に展開、陸上ではパトリオットPAC-3迎撃ミサイルを要地に配備し、万一の事態に備えている。
中国もこれに関連して海軍艦艇と早期警戒機などを日本海に進出させた。我国の北朝鮮弾道ミサイル対応を監視し、情報を収集するのが目的と想像される。
統合幕僚監部の発表によれば、中国海軍艦艇と中国空軍情報収集型機等が相次いで東シナ海から対馬海峡を通過、日本海に入った。すなわち;—
1)平成28年1月26日午後9時頃、下対馬南西120kmの海上を北東に進み、日本海に入る中国海軍のルフ級駆逐艦1隻、ジャンカイII級プリゲート艦1隻、ドンデイアオ級情報収集艦1隻、フーチン級補給艦1隻、の合計4隻の艦隊を発見した。探知、追尾したのは第1航空群鹿屋基地のP-3C哨戒機と、第1ミサイル艇隊真鶴基地所属「うみたか」および第3ミサイル艇隊佐世保基地所属の「おおたか」。
2)平成28年1月31日に、情報収集型機Y-9型1機と早期警戒型機Y-8型1機が対馬海峡上空を北上し日本海に入った。これに対し領空侵犯を防ぐため航空自衛隊の戦闘機を発進させ、対応した。2機はその後シベリア沿海州空域に入った模様。
図1:(統合幕僚監部)ルフ級駆逐艦は、西側技術を大幅に取入れ建造した初の大型水上艦。艦番号112は「ハルビン」。同型艦は2隻のみ。満載排水量4,700㌧、フランス製短SAM HQ−78連装発射機1基、YJ-83対艦ミサイル4連装発射機4基、などを備える。ヘリ2機を搭載する。
図2:(統合幕僚監部)ジャンカイII「江凱II」級フリゲート、艦番号538「煙台」(Yantai)は2011年に就役。満載排水量約4,000㌧。現在同型艦は20隻があり北海、東海、南海、の各艦隊に配備されている。対空ミサイル短SAM HHQ-16 を米海軍と似た32セルのVLS(前部甲板)に納めている。この他にYJ-83対艦ミサイル4連装発射機2基を備える。後部にはKa-2ヘリ1機を搭載する。
図3:(統合幕僚監部)ドンデイアオ(Dongdiao=東調)級情報収集艦、艦番号854。東調級は満載排水量6,000 ㌧、艦尾にヘリ甲板、大小3個のパラボラ・アンテナを備え、敵の通信傍受や電子偵察、それに戦術弾道ミサイルや長距離対艦ミサイルの試験発射時の測定を行うのが任務。本級の艦番号「815」は今年7月ハワイ沖で行われた多国間の軍事演習海域の周辺を航行し、情報収集を行った。「815」は1999年就航だがその後少しずつ改良され、最新の855艦は、昨年11月に尖閣諸島南方の水域を反復航行し、宮古島、与那国島の防衛体制を偵察した。
図4:(統合幕僚監部)フーチン「福清(Fuqing)」型補給艦、艦番号881「洪澤湖」。中国海軍初の大型補給艦で1979-85年に4隻建造され、2隻が現役。満載排水量22,000㌧、燃料11,000㌧、真水200㌧などを搭載できる。
図5:(統合幕僚監部)1月31日に東シナ海から対馬海峡上空を通過、日本海に飛行した情報収集機Y-9と早期警戒機Y-8の飛行経路。両機はその後ロシア沿海州方面に飛行した。
図6:(統合幕僚監部)An-12輸送機を国産化したY-8輸送機の後継として大型にした搭載量20㌧の輸送機Y-9が開発された。Y-9輸送機を元に電子情報収集偵察機(ELINT=electronic signals intelligence and reconnaissance)に改造したのが写真の「Y-9JB ELINT」。これを統幕監部は「Y-9情報収集機」と略している。2012年末から配備されている新型機。機首、前部胴体側面、後部胴体側面、尾翼先端の3箇所、さらに機首下にアンテナがあり、強力な通信妨害機能を持つ。全長36 m、翼幅38 m、最大離陸重量65㌧、」航続距離5,700 km、エンジンはWojiang WJ-6C ターボプロップ、5,100軸馬力が4基。図6の説明はairrecognition.com「Focus-New Chinese EW/ECM Aircraft GX-11/Y-9G」@Jan 5, 2015による。
図7:(統合幕僚監部)早期警戒管制機Y-8。現ウクライナのアントノフ設計局が作ったAn-12型輸送機を中国がライセンス生産したのがY-8輸送機。1981年から陜西飛機工業で75+機が生産された。Y-8は輸送機型が基本だが、多くが多様な電子偵察用に改造されている。写真はY-8F-600型機を改造した「Y-8W / KJ-200型早期警戒管制機 AEW&C (airborne early warning and control)」(機番 9371)である。胴体上部にAESA (Active Electronically Scanned Array )レーダー・アンテナ2枚を並列に収めた筒を装備、プロペラは6枚翅JL-4型。KJ-2000 AEW&Cは、両側面150度範囲の目標を探知、追跡できる。空中給油なしで10時間滞空任務が可能。
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