ツアーバス事故、「乗客の命を預かる」という自覚に欠ける


2016-02-01(平成28年)  ジャーナリスト 木村良一

 

長野県軽井沢町で1月15日未明、スキーツアー客39人を乗せた大型の貸し切りバスが崖下に転落し、運転手2人を含む計15人が死亡した。亡くなった13人全員が、将来を嘱望された大学生だった。

犠牲者の冥福を祈りつつ、筆を進めよう。

バスは14日午後11時に東京の原宿を出発し、乗客が眠りについた翌15日午前1時55分ごろ、事故を起こした。

「ものすごいスピードで車内が遠心力で左右に3回ほど揺れたと思ったら頭を打って意識を失った。気が付くと、車外にほうり出されていた」。ケガで済んだ乗客の証言である。

長野県警の調べによると、バスは下り坂で左側のガードレールに接触後、対向車線に飛び出し、対向車線側のガードレールを突き破って転落した。

司法解剖の結果、65歳の運転手にアルコールや薬物の摂取はない。心臓発作などを起こした形跡もなかった。現場の250㍍手前に設置されていた監視カメラには速度を上げ、センターラインをまたいで蛇行しながら走行する様子が映っていた。ブレーキランプは点灯した状態に見える。

タコグラフ(運転記録計)の解析から時速50㌔の制限速度のところを時速80㌔で走行していたことも判明。車体の検証からは6段変速のギアが、ニュートラルに入っていたことも分かった。この状態だと、エンジンブレーキや排気ブレーキが利かない。フットブレーキに頼るしかない。そのフットブレーキがなぜ、利かなかったのだろうか。長野県警や国交省には徹底的に事故原因を解明してほしい。

それにしても驚かされるのは、次々に明らかになるバス会社の違法ぶりである。

運行前に義務付けられた運転手の健康チェックを怠る。それにもかかわらず「実施した」と押印する。明らかに道路運送法違反だ。運転手が「大型バスは不慣れ」と不安を訴えていたのに運行させる。研修は十分だったのか。事故の2日前には健康管理に問題があるとして国土交通省から行政処分を受けていた。国交省が安全運行のために設置した基準額を下回る安値で運行を請け負っていた。労働基準法違反の疑いもある。

事故を起こしたバス会社には「乗客の命を預かる」という基本的な自覚がまるでない。

事故の背景には構造的問題が横たわっている。ツアーバスの貸し切りバス事業は、規制緩和によって2000年に免許制から一定の条件を満たせばだれでも参入できる許可制に変わり、10数年間で1・5倍の4500社にも増えた。今回の事故を起こしたバス会社ももとは警備会社で、2年ほど前から新規参入していた。

ツアーバス会社が増えると、競争が激しくなり、格安料金による客の奪い合いが横行する。今回のスキーツアーも現地で1、2泊して計1万3千~2万円程度とかなり安い。ツアーを安くするために運転手の健康管理やバスの整備など直接目に見えにくい安全面の経費がカットされていく。その結果、事故が繰り返される。

たとえば2007年2月には大阪府吹田市でツアーバスがモノレールの橋脚に衝突。1人が死亡、26人がケガを負った。居眠り運転が原因だった。過労による事故を防ぐため翌年、国交省は運転手1人が運転できる1日の最大距離を定めた。最大距離を超える場合は交代の運転手の同乗を求めた。

2012年4月には群馬県藤岡市の関越自動車道で、ツアーバスが防音壁に激突し、7人が死亡、38人がケガをした。この事故を受け、国交省は1日の運転距離の上限をさらに短縮するなど運行管理を強化した。

行き過ぎた規制緩和は問題だし、バス運転手の不足や高齢化も見逃せない。外国人旅行者の急増などで運行需要は高まっている。しかし運転手不足だと、運転手1人の仕事量は増え、健康状態の悪化による事故を誘発する。今回のスキーツアーのように大型バスに不慣れな高齢の運転手に頼らざるを得ないケースも出てくる。

違法行為を繰り返すバス会社に許可を与えた国交省の責任は重い。国交省は貸し切りバスの事業者に対し重点監査を始めたが、当然だ。バス会社をしっかり監督し、安全運行を徹底させたい。バス会社も運転手の教育の充実など安全を優先させる経営に徹するべきである。

ところで航空や鉄道など交通機関の事故取材を始めて30年以上になるが、取材の過程で「安全はお金で買える」という言葉をよく耳にした。言い方を変えれば「安全にはお金がかかり、安いものにはそれなりの理由がある」ということになる。

格安ツアーも同じ。どのツアーが安全かを見極めるのは難しいが、安ければ安いほどリスクが付いて回ることを考える必要がある。

—以上—

 

※慶大旧新聞研究所のOB会によるWebマガジン「メッセージ@pen」2月号から転載。

http://www.tsunamachimitakai.com/pen/2016_02_001.html

http://www.message-at-pen.com/